追い込まれた人間はゲロ強いっす。
というわけで、ここで問題です。ジャジャン。
ビシッとキまった敵さんチームが、大軍でぞろぞろやってきます。さて、どうしたら良いでしょうか?
……はい、答えは
「敵さんチームが一番【愛してるモノ】を奪い取っちゃう」
です。
人、物、場所、何でも良いですよ。敵さんチームにとって【一番大切なモノ】をこっちが抑えちゃえう。これ、さすがに言うこと聴かないワケに行かなくないですか?
良いですか?
戦争は速さが肝心なんです。
敵さんチームの隙に乗っかっちゃって、敵さんチームが考えもしない作戦を駆使して、敵さんが全然警戒してない処から攻め込んじゃうんです。
敵地に出向いてで戦う場合ですけど、ディープなトコロまで攻め込んだら、チームをカッチカチに団結させないとイケません。絶対ばらけちゃダメ。
敵地でも団結力の強い客軍には、地元有利なはずの地元軍でも勝てないんですよ。
あとさっきもチラっと言ったカモ、ですけど。
敵地の時は、敵さんチーム土地から豊富な資源をチョウダイしちゃって、それで自分チーム全部のご飯をまかなっちゃうとイイですよ。
兵隊さんたちにはちゃんと食べさせて、しっかり休養させないとイケませんから。こき使って疲れさせちゃうなんてもってのホカホカ弁当っすよ。
士気をアゲて、パワーをフル充電に持ってく。
その状態で、軍隊を動かす。
作戦はしっかり練る。
そんで、敵さんチームが吃驚仰天しちゃうヤツを、ドカンとぶちかます。
ともかく、自分チームをフルパワーにした上で、あとはもう戦うしかないって時機と場所で、開戦するんです。
すると兵隊さんは、たとえ死んでも逃げ出したりしないンですよ。
むしろ死ぬ気で戦わない訳がない。間違いなく、全員が全力を尽くします。
人間、とことん追い込まれると、アタマ飛んじゃって、かえって怖くなくなるんですね、不思議と。
前に進むしか道がないってなれば、覚悟が決まっちゃうんですね。
さっきから、敵さんの領地の奥の方に入って戦っちゃいましょ、って言ってるのは、つまりそうすれば全員一致団結して戦わざるを得なくなるからなんです。
こーゆー状況だと、兵隊さんたちは教えなくてもルールを守るようになっちゃったりするんですよ、これ。決まりを守らないと団結力が弱まって全滅しちゃうってのを肌で感じちゃうんですかね。
んで、状況的に限界ギリギリになると、兵隊さんたちは、将軍がわざわざ命令なんかしなくても、底力を発揮しちゃうんです。……これ誰かが【嫌ー、ボーンの法則】って名付けてましたっけ。え? チョット違う?
ま、ともかく。
限界ギリギリ状況だと、規則で縛るまでもなく、チームがぎゅっとまとまってきます。
改めて命令する必要が無いくらい、現場の将軍さんに対する信頼が高まっちゃう。
ここまで煮詰まってきたら、あとは、占いとか迷信とかおまじないとか験担ぎとか、そういう非科学的な事を禁止しちゃってください。兵隊さんたちが余分なことを考えないようにしちゃえばいいんです。
余分な情報を全部シャットアウトしちゃえば、もうやることは一つに絞られる。兵隊さんは「死ぬ気で戦う」以外には、することがなくなるわけです。
オレが一軍率いちゃったとしますよ。
そのとき兵隊さんは、多分、
「大金持ちになりたい」
とかいう理由なんかじゃ動いてたりしないでしょうね。
でもこれは、その人がお金が嫌いだとか、貯金するのは悪いことだとか、そんなこと考えちゃうからじゃないっす。
モードが「命擲って戦う」になっちゃってるからって、長生きしたくない、ってわけじゃないですよ。
誰だって、召集令状が来ちゃって、最前線に投入されるぞ、ってことになったら泣くでしょ。だって、怖いですから。死ぬのも怪我するのも嫌ですもん。
座ってたら涙で襟んところがベチョベチョに濡れちゃうぐらいワンワン大泣きするだろうし、寝てたとしても涙が顎の方までドバドバ流れちゃうはずですよ。
あ、前に伍子胥先輩が専諸さんって方をスカウトしてきたでしょ?
その方が、今の呉の王様の闔閭さまから、前の王様の僚さんを「消しちゃって」って命令されちゃったりしちゃたりした時のこと、当然、覚えてらっしゃいますよね? 割と最近のお話ですし、先輩、当事者みたいなもんだし。
伍子胥先輩がプッシュするくらいだから、専諸さんはすんごい「勇者」だったわけですけど、それでも、老母さんとお子さんの事が心配で心配でたまらなかったって話、オレの小耳にも挟まっちゃいました。
そのとき、闔閭さまは、
「家族のことはオレが面倒見てやるから心配すんな!」
って約束してくれたんでしたよね。
おかげで、専諸さんは自分の命をかけた特攻作戦を成功させられたじゃないですか。……ご本人が亡くなっちゃったのは残念でしたけど。
でも、王様がちゃんと約束守って、お子さんを貴族に封じてくれてるから、諸さんも泉下で安心してるんじゃないですかね。
それから、ちょっと昔の魯の王様の荘さんとこの曹劌さん。
……あれれぇ? この人のお名前、劌さんっだけ? それとも、沫さんでしたっけ?
ま、今はそんなことどっちでもイイですけど。
ともかくこの曹さん、めっちゃ優秀な将軍さんだったんですよ。
ところが自分が指揮取って斉の国と戦った戦争で、三回ほど負けちゃった。
曹さん、生真面目な人だったんでしょうね。この敗北から「魯の国が衰退する」って思い込んじゃったんですよ。しかも「それは全部自分が負けた所為だ」って、思い詰めちゃった。
ホントはそういうことじゃ無かったんですけどね。
傍目八目って言いますでしょ? 勝負と関係ない人が横から見たら、そうじゃ無いってのはよくわかるんですよ。
じゃ、何が原因だったかって言うと……ほら、あの頃の斉には「管仲夷吾と鮑叔牙」てぇ内政チートが居たっしょ?
その一寸前までお家騒動でごたついてた斉ですけど、管仲と鮑叔が、
「倉廩満つれば則ち礼節を知り、衣食足れば則ち栄辱を知る」
財産に余裕ができると他人との付き合い方にも余裕が出てくるし、着る物や食い物の心配がなくなれば自分の行動を顧みてやって良いことと悪いコトの区別がわかるようになる。だから国民みんなが呑み喰いもおしゃれも余裕で楽しめちゃうぐらいに、国を豊かにしちゃおうぜ!
なんて感じの標語掲げちゃったりしたら、もう国民ノリノリで頑張っちゃって、おかげで国力アゲアゲになっちゃってたんですよねー。
ま、実際、人間ってのは貯蓄があって生活に余裕があれば喧嘩なんかしないですし、着る物も食べ物も不自由しない状態になってるから服装規定とか口の利き方とかを気にするようになれる訳ですよ。
んで、政治が絶好調に回ってると、軍隊もまたウマいこと動くんで、みんなから信頼されてる内政チートがいる国は、マジ強いんすよ。
だから、魯が斉に領地取られちゃったのは、劌さんの所為って言うよりは、斉の国力がバリ硬だったからだと思うんですけどね……オレから見たら、ですけどね。
まぁ、ともかく。
劌さんってば根が真面目な人でしたからね。思い究めて、思い詰めて、自分で自分を横も後ろも見えなくしちゃった。
自分が考え至っちゃった「結論」しか見えない。自分の目の前で起きていることしか見えない。
そんな状態で、斉の王様の恒公さんのところへ匕首一丁でカチコミかましちゃった。
斉の桓公さんの首っタマに匕首突きつけて、
「奪ったウチの領地ぁ返ぇしやがれ!」
って脅迫した、と。
そりゃ、お利口な方法たぁ言えませんけど、結局は桓公さんに「返します」って誓約書を書かせちゃうって大金星を取っちゃったワケですからね。
何が言いたいかってーと……。
命懸けるしかない状態に追い込まれて、負けられない戦場へ放り出されたりしたら、普通の兵隊さんたちだって、諸さんや劌みたいな勇者になってくれちゃうんじゃないの? って事です。ええ。




