あっちこっち手を広げちゃダメっす。
こっちが戦いたいなーってときに、敵さんチームが動いてくれないってコトも、当然あるでしょ? すンごい高い土塁とか壁とか作っちゃって、すンごい深い堀とか塹壕とか掘っちゃって、ガチ引き籠もりになっちゃってるよーな時ですよ。
そういうときに、その引き籠もり部屋を叩くのは、無意味。だってガチガチのカチカチなんだもの。
そんなしんどいことをするんじゃなくて、別のところをガーと攻めちゃうんです。
それも「そいつがどうしても動かないといけない気持ちになる」ところを。
そうだなぁ……。
絶対助けに行かないといけない人や部隊がいるところーとか。そこを取られちゃったら全軍がイタイ目を見るような兵站ーとか。
そういう、引き籠もり部屋からちょっと離れた場所、そっちに気を向けさせちゃうんですよ。そうすれば引き籠もってなんかいられないでしょ?
で、出てきたところをガツン、とね。
じゃ逆にこっちチームが絶対戦いたくないって時。
そういうときに慌てて掘ったり盛ったりの大変な土木工事なんかしなくても、
「はい、ここからこっちはオレの陣地」
って、子供が地面に足で線を書いちゃうみたいなコトをしただけだって、絶対に相手チームは攻め込めないようにも出来ちゃいます。
どうすれば、って?
敵さんチームに、
「そこに攻め込む必要がない、その価値はない」
とか、
「今はそれどころじゃない、他にやることがある」
って思い込ませちゃっとけばイイんですよ。
もっと価値のありそうなモノが他にある、ってそっちに気を取らせちゃえば良い。
例えば、ちょい離れたところで輸送部隊っぽいのが大荷物を運んでる、とか、本国の方で政治的に不穏な動きがある、とかいう【情報】をちょろっと流しちゃうんです。
いやいや、ホントに輸送部隊に大切な荷物を運ばせちゃう必要はないですし、敵さんの本国が平穏無事だって構わないんですよ。むしろ嘘ッコの情報で良いんですよ。言うだけだったらタダですよ。こっちは何の損もせずに済む。
取りあえず相手の目先を変えちゃえば、それでOKなんすよ。
それで相手が動いてくれたら、もうこっちのもんでじゃないですか。
相手の行動をパターンに塡めちゃって、さらに、自分の動きは相手に判らないようにしておく。
するってーと、こっちはあちらさんの動きも攻めどころもバッチリ判るでしょ? 兵力をビシッと集中させられる。
敵さんの方は、型に填まりきっちゃってるんで、ぶっちゃけ前しか見えない状態なワケですよ。攻め手が来ても、どこから何がどれくらい来るかが全然判らない。だからあっちもこっちも守ろらなくちゃイケない気がしちゃう。それで、兵力を分散しちゃうことになるんです。
そういう、こっちがぎゅっと圧縮した一塊で、敵さんが分散して十個ぐらいにバラバラになっちゃってる状態になったとしましょうよ。
敵さんの戦力が十分の一のペラッペラになってるところへ、しっかり結束した味方の一塊が、ガツーンと攻めてくことになりますさぁね。
そうすれば、たとえ攻め手の総動員数で見たときにこっちの兵隊さんがちょびっと少なかったとしても問題ないんです。
その戦局では、こっちの方が大人数で、敵さんチームの方が少人数ってことになりますから。
要するに、戦線を一極集中に絞り込めばいいんですよ。あっちもこっちもなんて手を広げちゃダメ。
その一点に定めて攻める場所は、敵さんチームに知られないようにする。こっちがどこに的を絞ってるのかが判らなければ、敵さんチームはどこもかしこも守っとかないといけなくりますよね。
そうやって、あっちにもこっちにもって兵力を振り分けてると、どうしたって一カ所の防御力は小さくなります。守らなきゃいけない場所が多ければ多い程、実際にその場所で戦う兵力は少なくなる。簡単な算数ですよ。
例えば防御力に割り振れる数値が百ポイントだったとしましょうよ。
前面の防御を固めなきゃってんで、そっちに九十ポイントを振っちゃったら、お尻の分は十ポイントしかなくなっちゃう。
もし、その十ポイントのお尻方面から攻められるかも知れないとなったら、どうします? 急いでお尻の方の守備を固めますよね?
でも振れる数値は急に追加されるワケじゃないんで、結局、前面を固めていた九十ポイント分の守備からいくらか振り分け直して後ろに回すことになるワケで。
例えば九十ポイントだった全面のディフェンスから五十ポイント裂いてお尻の方に回して、こっちを六十ポイントの守備力にする。
お尻の防御は硬くなったけど、全面は五十ポイント分減って四十ポイントになってるんで、最初よりずっと手薄になっちゃってるでしょ?
右翼にばっかり気を取られて九十ポイント振ると、左翼は十ポイントしかなくて防御がおろそかになっちゃいますよね?
それじゃあってんで、ポイントを振り分け直して左の方に80ポイント回して守備固めしちゃうと、今度は右側の防備が十ポイントにガタ減りして、最初よりぐんと手薄になるでしょ?
それじゃ前後左右全部均等にむら無く二十五ポイントずつ配置をしようって?
そしたら全部均等に薄っぺらな防御力になっちゃいますけど、それでいいんですか?
相手に戦争の主導権を握られちゃうと、こっちはこういうペラッペラことをさせられちゃう羽目になっちゃうんですよね。
それじゃ困るから、こっちが主導権を取っちゃいましょ、ってことです。
そうすればこっちが人員を堅めとけばいいのは「攻めどころ」だけになる。百ポイントを百ポイントのまま、分厚く一点集中できますよ。
つまり、ですね。
戦うべき場所……つまり相手の守備が弱い地点と、日時……要するに手薄になる瞬間、このへんを掴んでいるんなら、例え遠くまで遠征することになっても戦うべきでしょ。
逆に、戦場になる場所の状況も敵さんチームのスケジュールも判らない状態じゃぁ、左手で右手を助けることだってできなくなりますよ。もちろん、右手が左手を救うことなんかできゃしません。
目の前の味方を助けられないし、すぐ後ろの仲間を救出することなんか絶対無理。
手の届くところでその為体なんだから、百粁先、十粁先の友軍を助けられますか?
現状、この「呉」の国が仮想敵国と目してるのは、お隣の「越」とか「楚」ですよね?
確かに、どっちの国も兵隊さんが無茶苦茶多いですよ。
でも頭数の多い少ないでだけで勝ち負けが決まるんじゃないってことは、今までのオレの話を聞いててくれたんなら、当然、判ってもらえますよね。
だからこっちのチーム「呉」、そりゃもうガンガン勝てますよ。
敵さんチームが大所帯だったら、今さっき説明したみたいに、バラッバラに分散させちゃえばいいんです。そうすれば、どんな大軍だってまともに戦えなくなっちゃいますよん。
だからまず、敵さんチームがどんな「損得勘定」で動くかを調べましょう。
それからちょいと揺さぶりをかけて実際の動きを見定めましょう。
んで、相手の状況と「攻めてイける場所」「絶対ヤバいところ」をチェックちゃうんです。
なんならちょっと突っついて実際の過不足を確認しちゃってもいいですよね。
それから、こっちがどう出るべきかを最終的に決めちゃいましょう。