表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/44

伍子胥先輩のホームパーティーに招待されたっす。

 チョリーっす。

 お招き頂いちゃってサンキューでーす。

 主催(ホスト)()()(しょ)先輩が、オレんちまで立派な馬車(ハイヤー)を差し向けてくれて、玄関横付けで迎えてくれただけで嬉しいのに、着いたら着いたで先輩が自ら玄関先まで出てきてお出迎え(ウエルカム)してくれてるなんて……。オレ、(チョー)感激しましたよ。

 

 あ、ヤだなぁ、もう。その「孫子(そんし)」って呼び方、ホント勘弁してくださいって。

 だって、オレのコトこの()の国に誘ってくれちゃって、家なんかも世話してくれてる、大恩人の伍子胥大先輩から、「(そん)(センセイ)」なんて呼ばれたく無いんすから。マジ、トンデモナイ。

 いやいやいやいや、ホントっすよ。今のオレ、先輩のおかげで生きてるみたいなもんなんだし、アリガタすぎて申し訳ないっすもん。

 じゃあなんて呼べばいいのか問題、ですよね?

 (ニックネーム)長卿(チョーキョー)ってんで、それで呼んで下さいよ。なんなら子供(キッズ)扱いして、阿武(ぶっチャン)って呼んでくれたっていいっすよ。先輩からだったらそれで全然(ゼンゼン)構わないっすから。

 まあ、なんとでも呼びやすいように呼んじゃってください。だけど絶対に「(そん)(センセイ)」はナシですからね。

 そもそも今のオレはセンセイなんて言われるほど偉くないですし。

 確かに、家系(じっか)王族(エライヒト)系列(ライン)ですけども。ですけども、今のオレは故郷(クニ)から()()されてプラプラしてる身っすから。つまり仕送りもナシの無職(プー)だもの。全然「センセイ」って柄じゃナイですからね。

 だからそんな風に言われちゃったら、むしろ()()ずかしくなっちゃう。穴があったら速攻(ソッコー)で入っちゃうくらい恥ズカシイ。

 だから「センセイ」だけは勘弁(カンベン)ってことで、お願いしますよ、ホントに。


 ……で、他の面子(メンツ)のご到着はコレからっすかね?

 いやぁ、オレってこういうお呼ばれ(パーティ)とか、開始時刻よりちょい早で来ちゃうクセがあるんですよ。最初に来て、他の人を待ち構えちゃうのが大好きなんで。一番乗り(ファーストライド)って(チョー)(サイ)(コー)な気分じゃナイですか。

 これからどんな方が来ちゃうんですか?

 へ? 来ない?

 誰も? 一人も?

 えぇー? ゲスト、オレだけ?

 マジか……。ってことは、オレと先輩でサシ()み?

 いやいやいやいや、トンデモナイ。不満も不服もナッシングっすよ。

 むしろオレも、お世話になってる先輩と、一遍(イッペン)、膝つき合わせてじっくりお話する機会(チャンス)が欲しいなぁ、なんて思ってましたから。

 肝胆相照(カンタンアイテラス)斯為心腹之友ソレヲフクシンノトモトナスってのはこういうことですかね、みたいな? 


 そんじゃ、遠慮なくご馳走(ちそう)なんか頂戴しちゃいますか。

 もうね、オレ、わざわざ朝から(メシ)抜いて来ちゃいましたから。

 ここだけの話、割と生活費カツカツなんで。ほら、無職だから。

 だから先輩ン()でご馳走を鱈腹(タラフク)食べちゃおうと思って、腹ぺこにしてきましたんすよ。


 しかし先輩も大変ですねぇ。ええ、オレなんかの耳にもしっかり聞こえてきてますよ、先輩の故郷の()で起きた大事件のこと。


 楚の一個(イッコ)前の王様の(へい)王って人、若い頃はともかくとして、年取ってからは家来からの諫言(おこごと)を聞かなっちゃったンでしょ? その上でスケベ親爺(オヤジ)化したって。それも娘か孫かってくらい年下の可愛娘(カワゥイコ)チャンが大好きなタイプ、ぶっちゃけロリコン? そんな狒々爺(ヒヒジジイ)になっちゃったんですよね。


 しかも、可愛娘(カワゥイコ)チャンを紹介して取り立ててもらおうなんて考えちまう、てめぇだけ甘い汁吸えりゃいいカンジの、小狡い女衒(プロキュアー)みたいな佞臣(べんちゃらマン)の言うことばっかり鵜呑(うの)みにしちゃうようになっちゃったなんて、ねぇ。

 アレですね。ソコソコいい上司だったヒトが、年齢(トシ)いってから駄目人間にレベルダウンすると、周りの人が迷惑被っちゃうんすよねー。

 こういうとき頭の切れる家臣が取るパターンは……。

 忠を尽くして居残るか、見切りを付けて他所の国に亡命(サヨナラ)するか、絶望してあの世に行くか、思い切って軍事政変(クー・デター)やっちゃうか。


 先輩のお父さんやお兄さんは最初のタイプの方だったんすよね。国家を第一に働く偉い人だ。残念なことに、その忠義(ロイヤルティ)が平王に伝わんなかったんだよなぁ。


 なにしろお父さんは元々は平王にとても信頼されてて、太子(クラウンプリンス)(けん)さん……でしたっけ? その家庭教師役を仰せつかってた訳ですもんね。そういう重たい役目に自分達を置いてくれていた平王の()()()()()を信頼して、正道に立ち返ることを期待しちゃってた。

 ところが平王は、もうどうにもならないくらいに駄目になっちゃってた……。

 平王からすれば、確かにちょっと口うるさいタイプだったんでしょう。でもすんげー能臣だった先輩のお父さんとお兄さんを、()()()()()にしちゃったのは、ホント大失策ですよ。


 生き残る道を選んだ先輩の、骨髄(こつずい)まで染み込んだ恨み(ヘイト)が、平王個人じゃなくて、楚っていう国家に向けられちゃう結果を呼んじゃったんですからね。


 いやいや。そのとき先輩が楚から脱出(エスケープ)したの、ホントに大正解だったンですよ。

 そのおかげでこの()の国は、先輩っていう内政と外交の両方が出来るナイスな家臣をゲットできことになりますからね。

 それで、回り回ってオレなんかも結構(ケッコー)なお(ウチ)に住まわせてもらえるっていう、おこぼれ的な幸運(ラッキー)頂戴(ゲット)できたし。


 この時の先輩がゴイスーだったのは、ひとりでバックレるんじゃなくて、平王から嫌われちゃってた太子(クラウンプリンス)の健さんと一緒に脱出したトコロですね。

 だってそもそもが、平王が政略結婚で(セガレ)である健さんのとこにお嫁に来るはずだった可愛(カワゥ)いお姫様を、口先生まれの保身佞臣(バカ)にお(スス)メされちゃったからって、自分のお嫁さんにしちゃうなんて最悪(サイアク)な話が発端(スタート)でしょ。節操(セッソー)がないにも程ってもんがありますよ。

 それって、息子の健さんに対しても(ヒド)い仕打ちだったし、そもそも相手の国に対してもめっちゃ失礼じゃ無いですか。列強国の未来を担う将来有望(ショーライユーボー)な若者の正室(オクサマ)になれると思ってたら、スケベ爺さんの後宮(ハーレム)に入れられちゃったなんて。


 ともかく、先輩は健さんを連れて逃げて正解。

 これ、人としてナイスな行いでしたよ。だからこそ、戦略的にも最善の行動にもなった。

 ほら、ちゃんと道理(ドーリ)ってやつが解る人達から見れば、どう考えたって悪いのは平王ですもん。事情を知っる人たちとか、平王のこと嫌っちゃってる人たちなんかは、健さんを助けようと思うのが当然(トーゼン)の成り行きですよね。

 んで、その健さんに献身的に仕えちゃってる先輩のことも積極的にお助けし(ヘルプ)ちゃおうって気持ちになってくれちゃう。


 それなのに、ねぇ……。

 せっかく、まだ一応は天下の主である(しゅう)王朝と繋がってる、ちっちゃくてもめっちゃ高貴な国の(てい)まで逃げて、ラッキーなことに好待遇でかくまってもらえたのに、健さんってば隣の(しん)から変なスカウトされたの真に受けちゃた。自分が(てい)の領主になろう、なんて軍事政変(クー・デター)まがいのことやらかそうとしちゃうんだもの。

 それも、ほぼほぼ唯一(アンド)最強能臣である先輩に、コレッぽちも相談しないで。もう、シンジランナーイ。


 もし相談されたとして、先輩、当然止めたでしょ? 全力でいさめたでしょ?

 デスヨネー。それ、大正解(ピンポンピンポン)っすよ。人として、親切を反故(ホゴ)にしちゃマズイっすからね。礼儀ってモンがありますからね。

 モチのロンで、戦略としても、名目上(イチオー)は「中華の頂点」ってことになってる周王朝と、(ホッソ)絹糸(シルク)一本の(LINE)だとしても、がっちり繋がってた方が断然(ダンゼン)お得ですし。

 まあ、先輩にまで内緒にしてた健さんの計画を、バッチリ見破った(てい)宰相(プライムミニスター)の……公孫(こうそん)(きょう)って言いましたっけ? そいつも確かに優秀だったちゃぁ優秀でしたけどね。


 に、したって、公孫(こうそん)(きょう)って人も、ちょっとせっかちが過ぎますよね。健さんを逮捕したあと、即ばっさり()()()()()になんてしなくても良かったと思うんだよなぁ。

 これ、亡くなった方に対しても遺族の方に対しても、かなり失礼な言い方になっちゃっうけどゴメンナサイです。俺から見たら、ぶっちゃけ、健さんってばかなり使()()()()()()()()()だったと思うんですよね。


 オレが(てい)サイドの人間で、謀反計画を察しちゃったら、かえって健さんのコトをうーんと厚遇しちゃうけどなぁ。

 それまで以上にめっちゃよくしてあげて、こっちを裏切ったのは不問(ノーカン)にして、かえって(しん)を裏切らせちゃう方向まで持ってっちゃいますよ。

 そうやって、晋や、それからついでに楚の情報なんかも引っ張り出す「(スパイ)」として扱っちゃいますね。


 だって(てい)ってば、形式(カタチ)の上では天子様な(シュウ)に繋がる高貴(ロイヤル)なお国ではあるけれども、国力(こくりょく)チッチャ過ぎな上に、ソコソコ強くなってきちゃってる晋と楚にサンドされちゃってるでしょ? あっちむいてペコペコ、こっち向いてニコニコの面従腹背(メンジューフクハイ)してなきゃなんない苦しい立場じゃないですか。

 まだ「高貴だから」って理由でどうにか生き残ってますけど、それだけじゃ今日日(キョウビ)「将来的な展望」ってのは、ヤバイ感じ? なんだから、ちょっとでも使えそうな「人材」は取っといた方が良いと思うんですけどねぇ。


 裏切りの裏切りで表返りさせるのが無理だったとして、ですよ。

 それでどうしても生かしておけない、殺しちゃわないといけない、ってんなら、軍事政変(クー・デター)計画がもっと「現実的」になってから執行したって間に合いますもん。

 対象を油断させて泳がせておくんですよ。んでその間に、身辺調査をこそっとがっちりやる。そこから国内の反乱分子(わるいオトモダチ)芋蔓(いもずる)ズルズルっと引っ張り出して、全員とっ捕まえちゃっう。

 このほうが、禍根(かこん)がスパッと断てちゃうし、ずっと効率が良いと思いません? 

 それまで待てなかったんだから、つまりはせっかちなんだと思いますよ、喬って人は。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ