6話
初めてのお使いからというもの、私は週に1回フリアの家へ薬を届けていた。
街の事も分かるし、体力も付くし一石二鳥という事で、その日のうちに母様にお使いを続けさせてもらえるようお願いをした。
最初こそ反対していた父様も、母様とエディタ姉様が口添えをしてくれたお陰でお許しが出た。
まさかエディタ姉様が父様に意見するなんて予想外の展開だったけど。
そして今日は薬を届ける日だ。
フリアの家へ到着し、ドアをノックする。
「フリアおばあちゃん、お薬持ってきたよ」
「お前さんか、毎週よく来るねぇ」
ドアが開いて、フリアが姿を見せ、中に入れてくれる。
「うん。父様からしっかりやりなさいって言われたもん。足の具合はどう?」
籠を適当な机に置き、ロッキングチェアへ座ったフリアに近づく。
母様から傷の様子を見てくるように指示をされているからだ。
「まだまだ杖がないと辛いねぇ。この年になると治りが遅くて参るよ」
スカートの裾を少し上げ、包帯を巻いた脚を見せてくれる。
傷が深かったようで、前回来た時とあまり変化はない。
「私が魔法使えたらいいのに」
塗り薬を塗り直して包帯を巻き直しながら呟く。
母様は診療所から離れることができない。
他に魔法を使える人がいないから今は塗り薬で対処している状態だ。
「無いものねだりをするんじゃないよ。ほら、お代を届けておくれ」
ポンポンと頭を撫でられ、薬の代金を渡される。
それを胸に掛けた小さなポーチへ入れ服の中に入れて外から見えないように隠す。
父様の許しが出て以降、代金の回収もお使いの一つとして定着した。
「は~い。今日はすぐ帰るね」
籠を取り、ドアへと向かう。
いつもならフレアがホットミルクを入れてくれてそれを飲んで帰るのだ。
一見愛想が良くないフレアだが、とても思いやりのある人なんだろう。
「そうかい。気を付けてお帰り」
「うん。また来るね」
「ああ、またおいで」
いつものやり取りをして走り出す。
フレアはいつも見えなくなるまで戸口に立って見送っている。
私も何度か振り返って手を振る。
フレアはきっと心配性でもあるのだろう。
商業地区を通ると、必ず声をかけてくれるのは肉屋のオジサンと八百屋のオバサンだ。
「おや、ミラちゃん。今日は早いね」
「うん、今日は早く帰るように言われてるの」
「そうかい、気を付けなよ」
「ありがとう」
「ミラちゃん。悪いんだけど、御屋敷の人に注文されたお野菜明日お届けしますって伝えてくれるかい?急いている所にごめんね」
「うん、オバサン。伝えておくね」
「ありがとう。頼んだよ」
八百屋のオバサンからの言伝を聞き、また走り出す。
お使いを始めた時は、すぐに息が上がってしまったが、少しずつ長く走れるようになってきたと思う。
言伝を伝えに、一旦屋敷まで戻る。
厨房にいるメイドさんに先程聞いた内容を伝える。
すぐに屋敷を出て、診療所へ向かう。
「母様、ただいま戻りました」
ドアを開けながら、笑顔で言う。
「あら、おかえり」
母様が珍しく待合室にいた。
隣にはレザーアーマーを着た赤茶色の髪の男の人と腕を抑えた赤茶色の髪の男の子がいた。
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