竜と月
※ この小説は、夢学無岳さんの写真をモティーフに書いたものです。
うすはな色の空に黄色い砂が舞いあがり、生徒たちからどっと歓声が湧き起こる。――
校庭では体育の授業が行なわれていた。
涼花の打ちこんだジャンプシュートはまっすぐに飛んでネットをゆらし、敵と味方の両方から驚きと賞賛の声があがった。涼花は自分の体操服をつまみ、胸許へさわやかな風を流しこむ。
チームメートに笑みを見せてから、ふと、となりのコートへ目をやった。となりでは、男子がおなじくハンドボールのゲームをやっていた。
萩原敬太は色白で、あまり目立つことのない生徒だった。彼が教室のどこにいるのか、クラスメートは把握していない。机で本を読んでいることもあれば、ちょっと仲のいい友だちと会話をしていることもある。誰にも注目されず、けれど、いつもどこか近くにいる存在……それはまるで、昼間のうすい青空に隠れる白い月のようで……
敬太が図書室へ入るのを涼花は見ていた。
何年か前にはやった本と、イラストの載ったラノベ風の小説、あと一冊は、参考書かなにかだった。
ちょうど一週間。小学校を卒業してから図書室を利用したことのなかった涼花は、決められた曜日に借りたものを携えて特定の空間へ入っていく敬太の後ろ姿が、なんとなくふしぎで、すこしだけ際立って見えた。
「いちめんのなのはな」というフレーズで有名な詩を小学校の国語で習ったけれど、ちょっとだけ背の高い、ちょっとだけ鮮やかな色をした涼花にとっては、周りはみんないちようで、自分だけがすこし伸びてしまった頭で周囲をながめているような、そんな感覚がしていた。涼花をしたう生徒は多いけれど、みんなどこか一目置いているようで、なんとなく恐れられているような気もしていた。
菜の花の背くらべ……こっちから見るとたいしたことはないのだけど、他の生徒にとってはやっぱり違うのだろうと感じていた。目立てば目立つほど、自分がちっぽけな存在にすら思えた。
そんな野原のまんなかで、さわやかな風はさらさらと、誰もいない大きな空へ涼花の視線を誘う。――
竜のように空高く飛びあがった涼花は、右腕を大きく振りかぶってシュートを打つ。軽やかな彼女の笑みに、生徒たちは見とれていた。
すぐ先の視界には、男子のコート。涼花は一瞬にして目当ての存在を見つけだす。……とどきそうで、とどかない……月へと向かう竜のこころは、そっと、青空のなかにただよっていた。
「いちめんのなのはな」というフレーズが出てくるのは、山村暮鳥の『風景』という詩ですね。私は昼間の白い月を見ると、いつもこの詩を思い出してしまいます。
ちなみに、女の子の名前、最初は「竜」→「臥竜梅」→「梅」という連想から、「小梅」という名前を使って書いていたのですが、「なのはな」という別の花をたとえに出してしまったので変えました。
では、お待ちかねの……
こちら(↓)が、この掌編のモティーフとなった夢学無岳さんの写真『龍と月』です。
では、この場を借りて……
夢学無岳さん、素敵な題材をどうもありがとうございました^_^
檸檬 絵郎
[2018/8/2 追記]な、ななんとっ! 金野文さまより、ファンアートをいただきましたっ。こちらも貼らせてくださいっ。
(金野さまの「みてみん」退会にともない、画像ページへのリンクを削除しました。ご作品はダウンロードしてあるので、これからは独り占めです( ̄▽ ̄) 2019/1/29)
[2018/9/16 追記]ななななななっとんっ(←?)、若松ユウさまからもファンアートをいただいちゃいましたっ。こちらも貼らせてくださいっ。
[2019/2/15 追記]なななななんとっとんっ、ついに自分で描いちゃいましたっ。貼りまーすっ。