十九世紀末~二〇世紀初頭的スチームパンクロボ
作中のトラクションエンジンは下記の動画に出てくるモノがモデルです。
https://www.youtube.com/watch?v=v6MO8hU--Io
助手は、唯っ広い校庭のような所に立っていた。
「大佐、遅いなぁ。どこに行ったんだろう。」
そんなことを呟いた途端、視界の端から変なものが来るのが見えた。それは道路を走る蒸気機関車の用な形をして居て、運転台の近くに大きな弾み車がついている。その運転台には勤務服の大佐が立ち、機嫌良さげになにやら操作している。よくみれば、トレーラーを牽引していて、それにはクレーンがついているし、トレーラー上には布をかけられた大きなブツが載っている。
「待たせたな。」
「なんです、そのごっつい蒸気自動車は。」
「あー、こいつは一般的なトラクションエンジンだぞ。ちなみに蒸気自動車は、スチームビークルとトラクションエンジンに分類される。で、トラクションエンジンはトラクターだったりロードローラーだったりとして使われていたんだ。戦後まで使われていたりするぞ。」
「は、はあ。」
「と、言うことで、手伝え。」
それだけいうと、大佐はトレーラーの連結を外し、そのあと、布を取り払う。
「こっ、これは!?」
「この前日曜大工的に作ったロボットだ。」
「マジで!?大佐スゲー!!」
男心を擽られた助手は目を輝かせている。一方で大佐はトラクションエンジンの弾み車から車輪に繋がるプーリーベルトを外し、トレーラーのクレーンについたプーリーに掛ける。そしてクレーンをそのロボにかけた。
「えっと、何をしているのですか?」
「ロボを起こさないといけんから、その準備だ。」
「こういう使い方、有りなんだ。」
「そう。有りだ。元々トラクションエンジンの原型が、ポータブルエンジンといって、何処でも動力を持っていけると言うのが売りだったからな。ついでにこの研究所の予備電源もこいつで動かすのだぞ。」
「は、はぁ。」
この大佐の蒸気機関に対する愛情は少しおかしい。というかこの大佐、人間を愛せない代わりにこのような蒸気機関を愛しているのだ。
大佐が運転台に立ち、何やら操作すると弾み車が回り、クレーンが巻き上げられて、ロボが立ち上がる。立ち上がりきった所で何やら操作すると、今度は弾み車が止まり、クレーンも止まる。そして今度は逆回転させて、クレーンの鎖を弛める。そのあと、シリンダーから少し蒸気を捨てた。助手のスカートが一瞬それで捲れたが、大佐は圧力維持に集中していて気づかない。
「どうした、股の辺り押さえて。便所言ってこい。どうせ動かすにはまだ準備が居る。そしてしっかり腹のなか空にしておけ。色々出るぞ。」
助手は何だか納得できないまま便所に行った。その間大佐は、クレーンにつけたプーリーベルトを外し、今度はロボの腰辺りについたプーリーに取り付けて、悦に入って居た。またトラクションエンジンの運転台にあがり、石炭をくべてう動かすに必要な圧力を生み出す。使っている石炭は練炭で、周り化工場だったりで使われる蒸気機関必須である。煤や石炭ガラが少なくなるよう調定されており、煙突から飛ぶ煤やガラが精密機械を狂わせないためだ。戦前から船舶では練炭が一般的であった。
助手が戻ってくる頃には蒸気は上がり、大佐はやたらとご満悦の様子だった。
「さて、操縦席につき給え。」
「はい。」
「操縦は簡単だ。足元のペダルと手元のレバーでおこなう。ペダルは足だ。右を踏み込めば右足が前に出る。手元のレーバーもそうだ。そしてボタンを握れば掴むことができる。」
「あのバル○ン星人の手みたいなやつで、ですか。」
「私の技術的問題だ、そこは。」
「えー?」
「あと、金のな。試作機何台潰したと思ってる。」
「えっ。」
「内部にボイラ積むような試作をやったんだが、給水が一定に出来ず、アクション中に水管をいくつも溶かしよった。」
「ええー。ていうか、外部動力なんですか?」
「そう、このトラクションエンジンから動力を取り出すのだ。」
「げっ。ダサい。」
「だまらっしゃい。これだ冴えたやり方なのだ!滑動制御とかシャレにならんほどそいつも手間かかってるんだぞ!で、止まるときや、後退したい時などはこの旗で合図しろ。」
細かい事を大佐が述べ立てる。曰く、プーリーに与えられた回転が内部の軸を回し、その軸にキノコ状の部品ががあたり、回転することで関節などを動かすというやたらと凝った作りではあるがアナログだった。この方が二〇世紀初頭っぽいから、だそうだ。
大佐は赤旗を押し付けてひょいと飛び降りると、そのままトラクションエンジンの運転台へ行ってしまう。そして、レバーを引き始動させる。ロボもそれによって振動する。恐る恐る動かしてみると、案外と軽快に動く。追い風なのでもろ煙を浴びながらというのが難点ではあるが。歩かせてみると、上下動が激しくて酔いそうだ。さっき言ってた色々と出るって、このことなのだろう。
「よく言うだろう、人間は倒れながら歩いていると!この方式ならばそれも問題ない!何しろ後方に数十トンあるこいつを牽いているのだからな!」
やたら興奮したその叫び声を聞き乍ら、気持ち悪さに旗を上げる。すると、
「ペダルもレバーも全て触れるなよ!」
その後、プーリーベルトの逆転によって機体を正立させると、駆け寄ってきた。
「便所行っといて良かったろ?」
「はい。」
「落ち着いたらこれに着替えろ。私も着替えて来る。」
「は、はあ。」
酔いはある程度収まったので着替えてきた。
「なんか、貴族の令嬢っぽいんですが。」
「そういった服装にしてんだ。」
「大佐は、なんだかくたびれた昔の労働者っぽいですね。」
「それも予定どおりだ。よし、ロボの前でポーズをとろうか。」
いつの間にか持って来てあるカメラを三脚に据えながら大佐は言う。やたら古いカメラだ。ガラス乾板式と来やがった。魔改造セルフシャッターを着けたそれをいじってこちらに来る。そして、傲慢令嬢のポーズをとらされ、それに従うカマ焚きのおっちゃんがロボの前でツーショットという謎の撮影が行われた。現像ははるか先に行うとのこと。
「このネタだと、相手が『黒の貴公子』とかなってそうですね。」
「なりそうだな。私はロボとか全部片付けとくから、今日は上りでいいぞ。特別手当も出してやる。」
「うわぁい☆大佐太っ腹ぁ☆」
今日は奮発して高めのケーキでも買ってしまおう。
この話で登場したロボットはフリー素材です。最後の方のネタも使っていただいて結構です。その旨感想に書いて頂ければ。
(挿絵が欲しいとかは言えない)
当作品にリーフレット先生の絵が!http://12666.mitemin.net/i209916/となっております。