〈 嘘になってしまえばいい。〉
嘘になってしまえばいい。君のその言葉も、私の運命さえもーーーーー。
あるいは夢、希望など。
はたまたその他や意味も理由もないことだったのかもしれないけれど、彼女はとにかく〝世界〟というものを嫌っていた。
何故だかは僕にはわからない。ただ彼女は世界が嫌いということだけ。
それ以外、例えば彼女は林檎が嫌いなのかだとかそういう事は別だとして、どういう経緯で世界を嫌いになったのかだとか、それがどのような意味合いでだとかは今の僕にはわからないし、わかろうともしない。
だって彼女は彼女だから。
僕は僕のことだけでいっぱいいっぱいだし、彼女は僕ではない。逆も然り。ならば他の何事も関係がないし、これだけで十分だ。
そんなハズだった。
僕は別に世界を好きにも嫌いにもなったことがないし、今思い返してみればそれはほんの気まぐれだったのかもしれないけれど、これは僕が彼女に初めて話しかけた時のことだ。僕は彼女になんと言ったっけ? いや、これは関係のない話で、大事なのはそんな僕に対して彼女が放った言葉。
『嘘になってしまえばいい。君のその言葉も、私の運命さえも』
確かに、彼女はこのセリフをそっくりそのまま言い放ったのだ。その時の僕はどう言い返せばいいのかわからなかったので、ただ?マークが頭上に浮かんで突っ立っていることしか出来なかった。
「私はこの世界が嫌いなの。それと同時に私の存在さえも嘘になってしまえばいいと思っている。出来ることなら、今この瞬間透明になって消えてしまえればいいのにね。」
彼女は儚く微笑んだ。今ならこの言葉の意味や理由がわかるのだろうか。そしたらこれに対する最善の言葉をかけてあげられたのだろうか。そうしたら、未来は違っていたのだろうか……。
何故かって。
彼女は今、ここにはいないから。
それは僕は喜んで良いことなのかはわからない。だって悲しいけど彼女は世界が嫌いだったんだ、そんな世界とサヨナラできたという事は本当は喜ばしいことなのかもしれない。
望んでいた事なのだから。でも、でも…。
僕には笑ってああ良かったねなんて言えないのだ。
青く遠い空はただ目の前に漠然と広がっていて、僕を見下ろすようにそびえたつ。この風景、世界中の理全てが嘘になってしまってもかまわない。けれどーーー
彼女がこの世界に存在した事実だけは、誰にも嘘だとは言わせない。
いつだって世界には真実と嘘がある。