第11話 「小さな私の葛藤」
私はベル。死神だ。
つい最近までドラゴンハブで死神をやっていた。
主に討伐と、アサルトの任務をこなす毎日。
私はまだ成人して間もないけれど、任務を毎日こなしているうちにいつの間にかB級にまで上がっていた。
同年代ではまずいないだろう。
最近死神なのに任務をしない若者が急増していることもあるけれど。
仲間も三人いた。
剣士が二人、ちょっとした魔術師が一人。
パーティとしてはなかなかうまくいっていたように思う。
それは私の死神ランクが示している。
こういうのもなんだけど、私は凄腕の狙撃手だと思う。
銃系の招魂器で狙撃をしている人なんて、今の所私は見たことがない。
そんな中、私達はティーガーハブを訪れた。
大した理由ではなかった。
でもあの時あそこにいたことが罪だった。
普段から何をやっても死なないような生活を送っているから、こういう時無謀な行動に出る。
でも私達は違った。
これでも私はアサルトのプロだ。
アサルトの任務では死ぬことがあるから、そういう心構えは他の人よりも出来ていた。
今まで人から生命を奪う仕事をしていたのに、立場が一転した。
とにかく私達は逃げた。
どこまで逃げればいいのか。
いつまで逃げているのか。
そもそも誰から逃げているのか。
いろんなことがはっきりしないまま走っていたが、その時不運にも私達はティーガーハブちょうど端にいた。
とにかく魔法陣に乗って逃げようとは思ったけれど、どこにあるのかも私には分からず。
そんな時、目の前の角を曲がった時、目の前に、戦神の兵隊と思しき人たちと遭遇した。
一瞬私達と、戦神達の動きがビクッと止まった。
そんな中真っ先に我に返ったのは、なぜか私だった。
とりあえず私の周りにバリアを張る。
それを見て、全員が一斉に動き出した。
私はこのバリアをこわす方法を知らない。
けれども、相手は戦神。
私が知らない相手だ。
私が知らない相手が、私の知らないことを知らないとは限らない。
繰り返すけれど、相手はあの戦神だ。
どうなるかはわからない。
死を覚悟して、逃げ出そうとした時、
死神側の兵士、悪魔たちがやってきた。
私達は彼らのおかげで逃げ出すことができた。
でも問題もあった。
例えば、喧騒の中、私が仲間からはぐれるとか。
多分私以外のパーティのメンバーは無事逃げだせただろう。
彼らも伊達にA級じゃない。
気がつけば、私は保護されて、いつの間にかサンティポイントにいた。
仲間も失って、どうしたものかと途方に暮れていた時、見知らぬ子に話しかけられた。
その子の名前はアクセルというらしい。
話を聞くと、アクセルはあの世から来たらしい。
冗談ではなさそうだった。
時たま私をナンパしに来る子の雰囲気にも似ているが、アクセルの目は真剣だった。
アクセルは死神様に会いたいらしい。
私もそもそもを言えば、死神様に会うために、ティーガーハブに来たのだ。
お互いに仲間が足りない。
利害関係が一致していた。
私はアクセルと手を組んだ。
彼と手を組めば多分死神様のところまですんなりといける。
死神様のところに行くまでには普通二、三年はかかるところを彼と一緒なら、一年もかからずにいけるだろう。
なんせ彼は特別なのだから。
いずれにせよ、私はアクセルと手を組んだわけだ。
話をしていて、彼はまだこの世に来たばかりの可愛い素人だとわかった。
だから、私はアクセルに私が強いんだということを自慢したかったのだろうか、彼と任務を受けようなどと思ってしまった。
グリフォンなんて楽勝だと思っていたのだ。
事実、グリフォン自体は楽勝だった。
彼らはちょっと歩くのが速く、飛べるだけだ。
私の腕をもってすれば楽勝だと思っていた。
でも、ヒッポグリフは別だ。
彼らはグリフォンとは比べものにならないくらい走るのが速い。
飛ぶのもだ。
しかも彼らは群れていることが多い。
私にはバリアがあるから戦うことはできるかもしれない。
でも一番大きいのは、私はグリフォンを倒したことはあっても、ヒッポグリフを倒したことはない。
だからそもそも考えることすら無理だ。
そんなことを私自身理解はしていた。
だからグリフォンの任務を受けたのだ。
でもなぜかそこには大量のヒッポグリフがいた。
私は思った。
私のせいだと。
素人を連れて任務になんか行ってはいけなかったのだ。
私の危機管理能力が足らなかったのだ。
私には盾があるが、ヒッポグリフに突進されまくるところまで行くとさすがにバリアが破られないか心配になる。
バリアを破られたことがないがゆえに、バリアの限界が分からないのだ。
正直なところ、バリアを突破されるのは時間の問題のように思われた。
そこで真っ先に動いたのは、他でもない、素人のアクセルだった。
素人とは思えない俊敏さで、ヒッポグリフを切り倒し、その威圧力でヒッポグリフを止まらせた。
そのおかげで、私はライフルを変えることができた。
助かったと思った。
アクセルに礼を言わないとと思いつつ、私の口からこぼれ出たのはなぜか叱責だった。
なぜかは分からない。
そんな私に、激怒するはずのアクセルは謝ってくれた。
今がわからない。
私が悪いのに。
とりあえずこれを止めないとと思い、私はアクセルを許してあげた。
________
私たちは今ギルドに来た。
とりあえずことの顛末を伝えてから、ゴハン食べて、宿に戻って、それから先を考えよう、と思う。
店員さんは話を聞くと驚いた顔をしていた。
戦績はグリフォン六匹、ヒッポグリフ不明というところだろうか。
彼らには申し訳なく思う。
生を授かってこの世界に来たのに、私の怠慢によって殺されてしまったと言える。
おそらく他の死神だったなら、四、五人パーティで余裕を持ってこの任務任務に挑んだだろう。
そうだったら、彼らも麻酔弾で眠らされるくらいで済んだだろう。
もっとも、私が倒したグリフォンは麻酔弾なんだけど。
それにしても、あの時のアクセルの動きは速く、的確だった。
あれも彼が時別だからなのだろうか。
この辺りの答えは、私には分からない。
死神様ならわかるのだろうか。
宿についてからも私は怒っている顔をしながら困っていた。
あの時は私の想定外のことが重なって、パニくってとりあえず怒ったけれど、怒る理由はなかったわけだし。
(謝らないと)
そうは思うのに謝ることはできない。
その理由はプライドというところがさらに自分でも腹が立つ。
このままアクセルとうまくいかなくなったら、私は困る。
でも困るのは私だけではない。
それと同時にアクセルも困ることになる。
そんな関係のせいで、多少アクセルが文句を言うことはあっても、どこかに行くことはないって思ってしまっている。
(このままでは埒があかない)
こんなことになった理由を考えてみたけれど、やはり解決策は謝罪だ。
これが一番だ。
私の両親もよく言っていた。
「五つの『あ』」だ。
その一つ。
謝る。
謝らなければならない。
無駄な自尊心は捨て去るべきだ。
でも、わかっていても、できない。
難しいものだ。
昔はもっとぱっと謝れたんだけどなあ。
死神として、若くしてB級になったからか、本当に無駄なプライドが増えた。
「ベル、大丈夫?」
アクセルに話しかけられて我に返った。
気づけばもう夜だ。
結構長いこと考え事をしていたものだ。
「あのことで怒ってるのなら謝るよ。」
そうじゃない。むしろ逆なんだ。
あやまるのは私の方なのに。
でもアクセルの言葉が私の触媒になったのだろうか。
「あ、謝るのは私の方よ。言いすぎたわ。ご、ごめんなさい」
なぜか謝罪がすんなり出た。
アクセルはちょっとびっくりしていたけど、受け入れてくれた。
私は昔から全く変わってないな。
そう思いながら、一連のことを密かに反省した。