中華街の暗殺者 ♯
♯
その日、一本の動画が電子の海に投げ込まれた。
『うるさい上司の黙らせ方』
部屋の中で椅子に座っている男性。顔には麻袋。手足は電気コードで拘束されている。やがて、画面の外から一人の男がやって来て……男性を絞殺した。バイクのヘルメットで顔を隠した殺人犯は、男性を引きずりながら画面の外へとフレームアウトしていった。コメントが動画の表面を流れていく。
「え? これマジ?」
「死んだ」
「ちょww警察ww」
「救急車呼べ」
「犯行の瞬間拡散希望」
「ヤバくない?」
続々とコメントが書き込まれる。その内容もしだいにヒートアップしていく。現在、動画が終了して三十分が経つが、コメントの増加は留まることを知らない。
「画面に映っている部屋……部長の家ですよね……」
と、女性社員は血の気の引いた顔でパソコンの画面を指差した。
「え? そしたら、殺された男の人ってまさか……」
と、隣の男性社員が目を見開いた。扉の外が騒がしい。誰かが大急ぎで走ってくる。
「ちょっと! この動画は一体どういうこと!」
「社長! 社内のパソコンがハッキングされて! 謎の動画が始まって!」
「落ち着きなさい! 順を追って説明して!」
と、女社長はざわつく社員達を一喝した。静まり返った会議室で、比較的年配の社員が説明を始めた。
「今朝、仕事を始めようとしたらパソコンの操作が出来なくて……故障の原因を調べていたら、突然さっきの動画が始まったんです」
「さっきの動画って何?」
社長は殺人動画を見ていない。それゆえ、動画の趣旨を説明する必要があった。
「人が、首を絞められて殺されている動画です。ケラケラ生放送だったので、今さっき起きたことだと思うんですけど、その、殺人現場……っていうんですかね、そこが開発部長の炭田くんの家だと、社員が主張していまして……」
「炭田とは連絡ついたの?」
「それが、音信不通で……今日は出勤日なんですけど……」
イヤな沈黙が流れる。ここにいる社員の大半は確信していた。殺されたのは――間違いなく開発部長の炭田雷人だと。
「……風見根、初芝は私と一緒に炭田の家まで諸々のことを確認しに行くわよ。それ以外の社員は通常の業務に戻りなさい」
と、社長は二人の役員を連れて会議室から出て行った。会議室に再び沈黙が訪れる。
「通常の業務に戻れって言われてもなぁ」
「気になって仕事に集中出来ないよ」
会議室に残された社員達は――その場に立ち尽くす他なかった。
次回、第三話『サイバー・イン・サイダー』