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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第二章 開始
62/100

 照、優太、蒸籠の三人は、距離的に近かったこともあって既に清正の井戸にやって来ていた。

 破壊されてしまった清正の井戸を取り囲む壁は、この場所に異界門が存在するとアカデミア生に知られる前に急いで改修され、以前よりも強固な壁となって立ち塞がっている。

 そんな巨大な壁に背中を預けて、溜息混じりに空を見上げているのは挙動が雨自然な優太だ。


「お、落ち着かねぇ。架と黒渦はまだか。まだなのか……」

「優太君、さっき連絡したばかりだよ」

「全く……見かけによらずナイーブなんだから。そんな調子で四六時中びびってたら身が持たないわよ」

「いや、だってよ。当たり前だけど、挑戦権の腕章つけてる奴なんて全く見当たらなかったし。いつ何処で勝負挑まれるかって考えたら気が気じゃねぇよ」

「こういうのは少し警戒する程度で丁度良いのよ」


 優太の抱く不安は分からないでもないが、登校してそのまま朝会に参加したお陰でそれぞれ獲物は持って来ている。

 優太のクレイモア、照のマンゴーシュとレイピア、蒸籠の六尺棒。

 少なくとも、勝負方法が戦闘であれば何のデメリットもなく応じることができる。そして準備が不可欠な凝った勝負を開始早々に挑まれるとも思えない。

 そういった理由もあって、照と蒸籠は比較的落ち着いていたのだが。

 最初に気付いたのは、奇しくも人一倍神経を張り巡らせていた優太だった。

 数秒遅れて照と蒸籠が気配に気付く。


「おいおいおいおい。早速かよ」

「後をつけられてたみたいね」

「ど、どうしよう」


 優太は慌てて。

 照は冷静に。

 蒸籠は困惑しながら。

 共に死線を乗り越えた武器を手に取り、背中合わせになって警戒に努める。

 清正の井戸の北東には明治神宮の本殿があるものの、そこは現在完全に立ち入り禁止となっている。隠れられるとしたら南の菖蒲田や木陰くらいだが、こうして清正の井戸の壁を背に全体を見渡していれば不意打ちを受けることは絶対にない。


「校舎に向かわずこっちに来たってことは、俺達同様サボったってことだよな」

「そうなるわね。『挑戦権を持ったアカデミア生なら』」

「え?」


 優太と蒸籠が意識だけを照に向ける。

 照は振り向くことなく自身の視界に注意を払いながら続けた。


「入れ替え戦前哨戦は確かに挑戦権の奪い合いだったんだろうけど。誰もが単独で動いてると思う? 私達が参加してたと仮定して考えてみなさいよ」


 もしも照達が第一陣の潜入部隊に選ばれず、今回の入れ替え戦前哨戦に参加していたら。

 初めはきっと、全員分の枠を取りに行く。それが叶わなかった場合、挑戦権を残した一人を全面的にサポートしようとするはずだ。


「俺達を追ってきた奴らが、挑戦権を持ったアカデミア生の協力者かも……ってことか」

「そ、それは困るよ。そんな人達と戦い続けてたら、どんな勝負だって勝てっこない」


 協力者がいたとしても、彼等は勝負自体には介入できない。

 しかし、協力者がサポートできる勝負方法はある。

 例えば立て続けに喧嘩をふっかけられ、こちらが疲弊したところに持久走勝負なんて言われたら。

 百パーセント勝ち目はない。


「……近付いてこねぇな」

「架君達を呼んだこと、聞いてたのかな」

「或いはただの様子見。明日以降の私達の動向を探ってるのかも」


 照はそう言って、無意識にマンゴーシュとレイピアを握る手に力を込めた。

 戦いたい、という強い思いがそうさせるのだ。

 誰が勝負を挑まれるかは挑戦権を持ったアカデミア生次第。復讐権を行使しない限り自分の意思で勝負に参加することはできない。

 だが、向こうが体力の消耗のみを狙っているただの協力者なら。

 思う存分戦う事ができる。

 それはつまり、幟天使ゼーラフとしての力に目覚める好機。


(架は紡との死闘の中で羨望術に目覚めた。私も訓練は欠かしてないけど、やっぱり実戦とは違う。死闘とはいかないまでも、自主練よりは目覚める可能性も高いはず……)


 架と依衣には再三焦るなと言われているが、照は自分の死神トートに託されたのだ。

 優太と蒸籠が必ず直面するであろう憎しみの連鎖を止めてほしいと。


 あれから一月経った。

 幟天使に昇華して実感したことと言えば、身体能力の飛躍的の上昇くらい。それだけなら幟天使である必要などない。幟天使が幟天使たる所以は羨望術にある。自分だけの守護精に、力を引き出して貰うことにある。

 物足りないのではなく、申し訳ない。

 尖堂照は、死神の犠牲の上に立っているのだから。


「二人共……相談があるんだけど」

「照ちゃん?」

「何だ」


 場合によっては仲間の力を信用していないとも、自分の力を過信しすぎているとも取られかねない相談。

 それでも、分かってくれると信じて照は口を開いた。


「もしもこの協力者が、私達の体力を削るためだけに用意された連中なら。私一人でやらせて」

「「……」」


 沈黙が重い。やはり不快にさせてしまっただろうか。

 照は必要以上に周囲の警戒に努めることで気を紛らわそうとしたが、


「良い案かもな」

「うん。流石照ちゃん」

「……え?」


 未来を見据えているものの、照の発言は全て自分の都合だ。

 言い換えればただの我が儘。叱咤されこそすれ、褒められる理由は見当たらない。


「だってそうでしょ? 照ちゃんが一人で頑張ってくれたら、私と優太君は体力を温存できるもん」

「それで照が挑戦権を叩きつけられて負けちまっても、体力を温存してる俺達のどちらかが復讐権を使えば良い。ま、今日に限って言えば架も黒渦もこっちに向かってるんだ。そう気張る必要もないけどな」


 照は下唇を噛みしめて二人の言葉を聞いていた。

 なんて事はない。

 二人が沈黙していたのは、照の発言の正当性を考えてくれていただけだったのだ。

 照の焦りを察して、余計な気を使わせないようにと。

 蒸籠だけならともかく、まさか優太までもがそこまで考えてくれているとは。


(そうよね……私達には、こんなにも頼りになる仲間がいる。焦るってことは、仲間の力に期待してないってことじゃない)


 小さく感謝と謝罪の言葉を口にした照は、思いを新たにして再び口を開いた。

「最初は私が出る。でも私がやられそうになったり、苦戦し始めたら……そのときはお願い。頼りにしてる」

「おお!」

「うんっ」


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