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寝ていたはずの三人は、暗闇に潜む猫のように目を光らせていた。
視線の先。
そこには語り合う渡橋架と黒渦依衣の後ろ姿がある。
照が依衣と見張りを交代してから、しっかりと睡眠を取るべく横になって数分後。
この先に待っている苦難を考えるあまり中々寝付けなかった照は、誰かの気配を感じて思わず懐に忍ばせておいたレイピアに手を伸ばしたが、気配の正体は架だった。
戸沼幸太を殺害した件で二人の間に何かがあって、そのことについて話すのだろうか。
そう考えると、仲間の一人としては聞かなければならないとも思うし、架なりの気遣いがあるのならそれを尊重すべきとも思うしで、非常にやきもきしていた。
そんなときに起き上がったのが蒸籠だ。
負のオーラを感じて思わず声を掛けたら、熟睡していた優太も起きてしまい、結局三人で盗み聞きすることになってしまった。
「ふぅ……一旦休憩か。いやーヒヤヒヤしたぜ。てっきり一線を越えちまうものかと」
架と依衣がたき火の傍を離れたのを見て大きく息を吐く優太。
「ば、馬鹿じゃないの! この状況でそんな展開に発展するわけないでしょ!?」
「ううん。優太君の考え、あながち間違ってないと思う。こういう状況だからこそ気持ちが昂ぶって、そういうゴニョゴニョな関係になってゴニョゴニョ」
「おーけー、分かった。一先ず蒸籠は落ち着きなさい」
別の意味で気持ちが昂ぶっている蒸籠の背中を擦ってやると、コートの上からでも分かるくらいに体が熱かった。
お陰で寝る前に架と衝突したことは忘れられたようだが、これはこれで心配になる。
「ん……ありがと、照ちゃん。もう平気だよ」
「なら、私達は私達で話し合いましょうか。依衣の話は頭に入ったでしょ」
照が促すも、二人は目を伏せてしまった。
「ちょっと、どうしたのよ」
「だってよ。話し合うっつっても何を話し合うんだよ。拉致被害者が全員殺されてるってのはそりゃショックだったけど、俺達のやるべきことは変わらないだろ。このままカルカソンヌってとこに行って捕まってる他の部隊を助けて、最後に紡の仇を討つんだ」
「そうじゃなくて依衣のことよ。今までの話を信じるなら、依衣はもう一人の自分……死神を殺して入れ替わってたってことになるのよ」
「他の奴らと違って、黒渦は俺達の世界に残っただろ」
「それすらも意味があるのかもしれない! 全員がパラディースに帰ったと見せかけて、実はまだまだスパイ活動してる奴らがいるのかもしれない! 依衣がその中の一人じゃないって保証は何処にもないのよ!?」
照の怒鳴り散らすような啖呵に、優太も黙るしかなかった。
短期間ではあるものの、依衣とは仲間として過ごしたのだ。
失われた五人目の穴を埋めるべく、全員がそうあろうと努力した。
依衣もそれは同じだったはず。
架達の本当の目的が復讐であることを伝えたときも、依衣は真っ向から否定せずに理解を示してくれた。
照と蒸籠は女同士ということもあって特に仲良くなった。
架と優太には教えていないが、三人で買い物に行ったりもしている。
女同士でしか話せないことも話せるようになった。
依衣はもう友達なのだ。
だから照は、拭いたかった。
心に抱いてしまった疑念を。
そのための答えを、二人に求めた。
「架君が答えを出してくれるよ」
蒸籠は外に視線を預けたまま、
「きっと架君は、確かめるつもりなんだと思う。依衣ちゃんを仲間として信頼できるのかどうかを。この先も、一緒に歩いて行けるのかを」
「……そうね。任せるしか、ないか」
でも、と照は思う。
依衣は今さっき、戸沼幸太を殺した。
これは仲間として信用できる判断材料だが、裏を返せばやり過ぎとも取れる。
スパイ活動をより円滑に進めるため、敢えてやったのだと。
もしも架が、黒渦依衣を敵と判断したら。
信用できない。
放っておけば情報を垂れ流しにされる。
それはつまり、
(殺すしかないってことなのよ)
照は下唇を噛んで、外を見つめる蒸籠の後ろ姿に視線を送る。
蒸籠には、既にその覚悟があるような気がした。




