目覚め
目が覚めると、そこにいた。
白い世界。自分自身の影もない。ただ、ぽつんとひとり。地面に足をついている感覚はあるのに、どこからが地面かわからない。歩いてみても、足音はない。どこにもぶつかることもない。声を出してこの空間の広さを図ろうとしても、音がない。出しているはずの声が聞こえない。頭がおかしくなりそうだ。
「こんにちは。ん?こんばんは、の方が正しいのかな。それとも、おはよう、かな?」
私は突然の声に振り返る。だがそこには誰もいない。辺りを見回しても、私以外の何者もこの世界にはいないようだ。
「驚かせちゃったみたいだね。でも、僕は君の前に姿を現すことができないんだ。」
声の主は一方的に喋り続ける。
「僕は"存在"を失ってしまったんだ。ここにあるけど、ここにはない。だから、君の中にやってきた。君に頼みたいことがあるんだ。」
一体何のつもりなの。突然訳の分からないことを言ってさらに頼み事だなんて。身勝手にもほどがあるわ。
声を出そうとしても音にならないので、心の中でそう呟くと、その声が笑った。
「全く、その通りだね!詳しくは説明出来ないんだけど、僕の"失ったもの"を君に見つけてきて欲しいんだ。」
どうやら思考回路は筒抜けなようだ。
どうして、私なの?
「それは、君が君だからさ。」
的を射ない答えに心底うんざりしながら、私はまた問う。
あなたの頼みを受け入れて、私に何かメリットがあるの?
「それは、イエスでもあり、ノーでもあるね。」
全く、この人は私の質問に答える気があるのだろうか。もう、聞くのも面倒だ。
「あはは、ごめんごめん。意地悪をしてるわけじゃなくて、それが本当に答えなんだ。君が君であることが僕の"カケラ"を探せる条件なんだ。そして、君にメリットがあるかどうかは、君自身が決める。つまり、君次第ってこと。だから、無理にとは言わない。君が断れば、僕は消えるだけのことさ。」
こいつ。私の性格をよく知ってる。
そんな風に言われると、断りたくても断れないじゃない。命の保証はしてくれるんでしょうね?
「命の保証はするよ。だって、僕の"カケラ"は君の夢の中にあるんだから。」
...どういう意味?
「君は、今、眠っているんだ。人に比べて、少し長い眠りについている。そして君は、この世界から夢という形で別世界の人間となることができる。いわゆるパラレルワールド、平行世界だね。そこで君は僕"カケラ"を見つけて欲しいんだ。見つけるって言っても、夢を見て、この境界の世界に戻って来れば、自然と君の手の中に現れるはずだから。」
なんとも胡散臭い話ね。でもいいわ。乗ってあげる。メリットがなかったらあなたが私の前に現れた時、ぶん殴ってあげる。
「そりゃあ、おっかないや。でも、ありがとう。これで僕が存在できる唯一の希望ができたよ。...それじゃあ、早速、いってらっしゃい。」
彼の言葉が終わると同時に、白い世界が暗闇に包まれた。