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君の一番星になりたくて。

作者: 夜乃氷空
掲載日:2026/09/03

 「一番星、見つけた」


 夕焼けの残る空を見上げながら。


 君は、いつものように言った。


「まだ明るいよ」


「でも、あるもん」


「どこ?」


「教えない」


「なんで」


「自分で探して」


 意地悪だ。


 そう言うと。


 君は、楽しそうに笑った。


 私は空を見上げる。


 青から。


 少しずつ。


 紫色へ変わっていく空。


 その中に。


 小さな光が。


 一つ。


「あ」


「見つけた?」


「……うん」


「私の方が早かった」


「一秒くらいでしょ」


「一番は一番」


 君は、得意そうに胸を張った。


「一番最初に見つけた星って、なんか特別じゃない?」


「星なんて、いっぱいあるじゃん」


「いっぱいあるからいいんだよ」


 君は、もう一度空を見る。


「その中で、一番最初に見つけられたんだもん」


 私は。


 その言葉を。


 なぜか、ずっと覚えていた。


 *


 君は、誰にでも優しかった。


 困っている人がいれば声をかける。


 誰かが泣いていれば隣に座る。


 忘れ物をした人がいれば。


「貸してあげる」


 と、当たり前のように言う。


 だから。


 君の周りには、いつも人がいた。


「ねぇねぇ!」


「今日さー!」


「一緒に帰ろ!」


 みんなが君を呼ぶ。


 君は。


 誰に対しても笑う。


「うん」


「いいよ」


「行こ」


 その輪の中で。


 私は、少しだけ黙っていた。


 君は、誰にでも優しい。


 だから。


 私だけじゃない。


 私が特別なわけじゃない。


 それなのに。


 君の隣にいる時だけ。


 私は。


 少しだけ。


 期待してしまう。


 もしかしたら。


 私は。


 君にとって。


 特別なのかもしれないって。


 *


「今日、一緒に帰れる?」


 放課後。


 私は君に聞いた。


 君は少し困った顔をした。


「ごめん。今日は先に約束してて」


「あ、そっか」


「また今度ね」


「うん」


 それだけ。


 それだけだった。


 君は悪くない。


 約束があったのなら。


 仕方がない。


 分かっている。


 分かっているのに。


 胸の奥が。


 少しだけ痛かった。


 私は。


 君にとって。


 何番目なんだろう。


 一番?


 二番?


 それとも。


 数えられないくらい。


 たくさんいる友達の中の。


 その一人。


 *


 その日。


 私は一人で帰った。


 夕方。


 いつもより少し遅い時間。


 空を見上げる。


 そして。


 いつものように。


 一番星を探した。


「あ」


 見つけた。


 小さな光。


 まだ。


 他の星はほとんど見えない。


 私は。


 しばらく、その星を見つめていた。


 一番最初に見つけた星は。


 特別。


 君はそう言った。


 じゃあ。


 私も。


 君にとって。


 そんな存在になれたらいいのに。


 たくさんいる人の中で。


 誰よりも先に。


 君に見つけてもらえる。


 そんな。


 一番星みたいな存在に。


 私は。


 君の一番星になりたかった。


 *


 それからも。


 私たちは変わらず友達だった。


 一緒に笑った。


 一緒に帰った。


 くだらないことで喧嘩して。


 次の日には。


 何もなかったように話した。


 君は。


 私の親友だった。


 だからこそ。


 聞けなかった。


「私は、君の一番?」


 なんて。


 そんなこと。


 聞けるわけがない。


 もし。


 違うと言われたら。


 きっと。


 今までと同じように笑えなくなる。


 だから。


 私は何も聞かなかった。


 ただ。


 君の隣にいた。


 それでいい。


 そう思おうとした。


 *


 季節が変わった。


 夏が終わり。


 秋になって。


 夕暮れは。


 少しずつ早くなった。


「寒くなったね」


「まだ秋じゃん」


「秋は寒いの」


「君が寒がりなだけ」


「失礼だなぁ」


 放課後。


 私たちは。


 久しぶりに二人で帰っていた。


 君は。


 いつものように。


 空を見上げた。


「ねぇ」


「ん?」


「一番星、見つけた?」


 私は空を見た。


 まだ。


 明るい。


「まだ」


「そっか」


「君は?」


「見つけた」


「早」


「今日は早かった」


「どこ?」


 私は。


 空を見上げた。


 青と紫が混ざった空。


 けれど。


 どこにも星は見えない。


「どこ?」


「そこじゃない」


「え?」


「空じゃない」


 私は。


 君を見る。


 君は。


 笑っていた。


 あの日と同じ。


 楽しそうな顔で。


「いた」


「……何が?」


「今日の一番星」


 意味が。


 分からなかった。


「だから、どこ?」


 君は。


 何も言わなかった。


 ただ。


 まっすぐ。


 私を見た。


 一瞬。


 時間が止まったような気がした。


「……私?」


「うん」


「なんで」


「一番最初に見つけたから」


「何を?」


「君を」


 胸の奥で。


 何かが。


 音を立てた。


「毎日さ」


 君は言った。


「教室に入ると、最初に君を探してる」


「……え?」


「今日いるかなって」


「なんで?」


「分かんない」


 君は笑った。


「気付いたら、そうしてた」


 夕暮れの中。


 君の顔が。


 少しだけ赤く見えた。


「だから」


 君は。


 もう一度。


 私を見る。


「私にとっての一番星は」


 私は。


 息を止めた。


「君だよ」


 空に。


 一番星が見えた。


 けれど。


 あの子が一番最初に見つけたのは。


 星じゃなかった。


 私だった。


 ずっと。


 君の一番星になりたくて。


 私は。


 ずっと。


 君を見上げていた。


 でも。


 君も。


 同じように。


 私を見つけてくれていた。


 その日空には一番星がゆっくりと輝き始めていた。


 だけど。


 私にとって一番最初に見つけた星は。


 もうずっと前から。


 目の前にいた。

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