君の一番星になりたくて。
「一番星、見つけた」
夕焼けの残る空を見上げながら。
君は、いつものように言った。
「まだ明るいよ」
「でも、あるもん」
「どこ?」
「教えない」
「なんで」
「自分で探して」
意地悪だ。
そう言うと。
君は、楽しそうに笑った。
私は空を見上げる。
青から。
少しずつ。
紫色へ変わっていく空。
その中に。
小さな光が。
一つ。
「あ」
「見つけた?」
「……うん」
「私の方が早かった」
「一秒くらいでしょ」
「一番は一番」
君は、得意そうに胸を張った。
「一番最初に見つけた星って、なんか特別じゃない?」
「星なんて、いっぱいあるじゃん」
「いっぱいあるからいいんだよ」
君は、もう一度空を見る。
「その中で、一番最初に見つけられたんだもん」
私は。
その言葉を。
なぜか、ずっと覚えていた。
*
君は、誰にでも優しかった。
困っている人がいれば声をかける。
誰かが泣いていれば隣に座る。
忘れ物をした人がいれば。
「貸してあげる」
と、当たり前のように言う。
だから。
君の周りには、いつも人がいた。
「ねぇねぇ!」
「今日さー!」
「一緒に帰ろ!」
みんなが君を呼ぶ。
君は。
誰に対しても笑う。
「うん」
「いいよ」
「行こ」
その輪の中で。
私は、少しだけ黙っていた。
君は、誰にでも優しい。
だから。
私だけじゃない。
私が特別なわけじゃない。
それなのに。
君の隣にいる時だけ。
私は。
少しだけ。
期待してしまう。
もしかしたら。
私は。
君にとって。
特別なのかもしれないって。
*
「今日、一緒に帰れる?」
放課後。
私は君に聞いた。
君は少し困った顔をした。
「ごめん。今日は先に約束してて」
「あ、そっか」
「また今度ね」
「うん」
それだけ。
それだけだった。
君は悪くない。
約束があったのなら。
仕方がない。
分かっている。
分かっているのに。
胸の奥が。
少しだけ痛かった。
私は。
君にとって。
何番目なんだろう。
一番?
二番?
それとも。
数えられないくらい。
たくさんいる友達の中の。
その一人。
*
その日。
私は一人で帰った。
夕方。
いつもより少し遅い時間。
空を見上げる。
そして。
いつものように。
一番星を探した。
「あ」
見つけた。
小さな光。
まだ。
他の星はほとんど見えない。
私は。
しばらく、その星を見つめていた。
一番最初に見つけた星は。
特別。
君はそう言った。
じゃあ。
私も。
君にとって。
そんな存在になれたらいいのに。
たくさんいる人の中で。
誰よりも先に。
君に見つけてもらえる。
そんな。
一番星みたいな存在に。
私は。
君の一番星になりたかった。
*
それからも。
私たちは変わらず友達だった。
一緒に笑った。
一緒に帰った。
くだらないことで喧嘩して。
次の日には。
何もなかったように話した。
君は。
私の親友だった。
だからこそ。
聞けなかった。
「私は、君の一番?」
なんて。
そんなこと。
聞けるわけがない。
もし。
違うと言われたら。
きっと。
今までと同じように笑えなくなる。
だから。
私は何も聞かなかった。
ただ。
君の隣にいた。
それでいい。
そう思おうとした。
*
季節が変わった。
夏が終わり。
秋になって。
夕暮れは。
少しずつ早くなった。
「寒くなったね」
「まだ秋じゃん」
「秋は寒いの」
「君が寒がりなだけ」
「失礼だなぁ」
放課後。
私たちは。
久しぶりに二人で帰っていた。
君は。
いつものように。
空を見上げた。
「ねぇ」
「ん?」
「一番星、見つけた?」
私は空を見た。
まだ。
明るい。
「まだ」
「そっか」
「君は?」
「見つけた」
「早」
「今日は早かった」
「どこ?」
私は。
空を見上げた。
青と紫が混ざった空。
けれど。
どこにも星は見えない。
「どこ?」
「そこじゃない」
「え?」
「空じゃない」
私は。
君を見る。
君は。
笑っていた。
あの日と同じ。
楽しそうな顔で。
「いた」
「……何が?」
「今日の一番星」
意味が。
分からなかった。
「だから、どこ?」
君は。
何も言わなかった。
ただ。
まっすぐ。
私を見た。
一瞬。
時間が止まったような気がした。
「……私?」
「うん」
「なんで」
「一番最初に見つけたから」
「何を?」
「君を」
胸の奥で。
何かが。
音を立てた。
「毎日さ」
君は言った。
「教室に入ると、最初に君を探してる」
「……え?」
「今日いるかなって」
「なんで?」
「分かんない」
君は笑った。
「気付いたら、そうしてた」
夕暮れの中。
君の顔が。
少しだけ赤く見えた。
「だから」
君は。
もう一度。
私を見る。
「私にとっての一番星は」
私は。
息を止めた。
「君だよ」
空に。
一番星が見えた。
けれど。
あの子が一番最初に見つけたのは。
星じゃなかった。
私だった。
ずっと。
君の一番星になりたくて。
私は。
ずっと。
君を見上げていた。
でも。
君も。
同じように。
私を見つけてくれていた。
その日空には一番星がゆっくりと輝き始めていた。
だけど。
私にとって一番最初に見つけた星は。
もうずっと前から。
目の前にいた。




