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第八話:無菌室の怪物と、純粋な殺意の解剖学

※本作は実際の複数の事件から着想を得ていますが、被害者および関係者の尊厳を守り、事件の特定を避けるため、人物名は一切登場しません。また、発生時期、場所、人物の年齢や背景など、意図的に複数のフィクションや設定の改変を交えて構成しています。

※本作には残酷な事象を淡々と記述する表現が含まれます。猟奇的な遺体損壊に関する直接的ではないものの生々しい描写が含まれます。娯楽性は一切排除されており、事実の羅列による精神的な重圧を伴うため、閲覧には十分ご注意ください。


犯罪は、貧困や劣悪な家庭環境、あるいは社会的な疎外から生まれる。我々の多くは、そう信じることで心の平穏を保っている。「自分たちのような普通の、あるいは恵まれた環境にいれば、あのような恐ろしい犯罪者にはならない」という無意識の防衛本能である。

しかし、悪意というものは時として、いかなる社会的欠乏も存在しない、清潔で裕福な「無菌室」のような空間に、突然変異として産み落とされることがある。

これは、ある地方都市の高級マンションで起きた、極めて特異な少年犯罪の記録である。「人を殺して、解剖してみたかった」という、ただそれだけの純粋で冷酷な好奇心によって、心優しい同級生の命が実験動物のように切り刻まれた、戦慄の惨劇である。

恵まれた環境と、欠陥を抱えた精神

平成も終わりに近づいた頃。

事件の加害者となったのは、当時十六歳の女子高生であった。彼女の家庭環境は、はたから見れば誰もが羨むようなものだった。父親は地域の有力者であり、裕福な家庭。彼女自身も知能指数が極めて高く、県内有数の進学校に通うエリートであった。

しかし、彼女の精神には、生まれつき致命的な「欠落」が存在していた。他者の痛みに対する共感性、いわゆる良心というものが完全に欠如していたのである。

幼少期から、彼女の興味は「死」と「解剖」に異常なまでに偏っていた。

最初は昆虫、次にカエル、やがて野良猫や犬。彼女は小動物を捕まえては、生きながら解剖し、その内臓の動きを観察することに没頭した。彼女にとってそれは残虐行為ではなく、純粋な「科学的探究」に過ぎなかった。

小動物の死骸が部屋から見つかるなどの異常行動に父親も気づいてはいたが、世間体を気にするあまり、本格的な精神科医療に繋ぐことを躊躇した。やがて家庭内で暴力を振るうようになった彼女に対し、父親が下した決断は「隔離」であった。

父親は市内の高級マンションの一室を買い与え、彼女を一人暮らしさせたのである。豊富な小遣いを与えられ、親の監視の目から完全に解放された十六歳の少女。それは、檻から放たれた捕食者が、自らの狩り場と実験室を手に入れた瞬間であった。

標的の選定と、無邪気な訪問者

一人暮らしを始めた彼女の欲望は、すでに小動物の解剖では満たされなくなっていた。

「人間の身体の中はどうなっているのだろう。人を殺すとは、どういう感触なのだろう」

その欲求は日を追うごとに膨れ上がり、インターネットで医療用のメスやノコギリ、金属製のハンマーを購入し、自室に「その日」のための準備を整えていった。そこに、誰かに対する恨みや怒りといった感情は一切ない。あるのは、新製品の箱を開ける日を待ちわびるような、無邪気な期待感だけであった。

標的となったのは、同じ高校に通う同級生の女子生徒である。

被害者は、加害者とは対照的に、明るく、誰にでも優しく接する少女だった。孤独に見える加害者のことを気遣い、たびたび声をかけては友人になろうと努めていた。

ある休日の午後。「私の家で一緒に犬の動画を見ない?」という加害者の誘いに対し、被害者は何の疑いも持たず、笑顔でその高級マンションを訪れた。彼女は、自分が「友人」としてではなく、単なる「人間の検体」として招き入れられたことなど、知る由もなかった。

解剖という名の惨劇

オートロックの重厚な扉が閉まり、密室となったリビングルーム。

被害者がソファーに座り、テレビ画面に目を向けたその直後だった。背後に回った加害者は、あらかじめ用意していた金属製のハンマーを振り下ろし、被害者の後頭部を正確に、かつ全力で殴打した。

「痛い! 何するの!?」

頭から血を流し、パニックに陥って床に倒れ込む被害者。しかし加害者の表情に、焦りも興奮もなかった。ただ、観察者のような冷ややかな目で被害者を見下ろし、持っていた犬用のリードを彼女の細い首に巻き付けた。

被害者は必死に抵抗した。加害者の腕を引っ掻き、涙を流して命乞いをしただろう。しかし、加害者は無言のまま、ただ物理的な作業としてリードを引き絞り続けた。

数分後、被害者の抵抗が完全に止まり、事切れたことを確認すると、加害者は「解剖実験」へと移行した。

彼女は被害者の衣服を剥ぎ取り、医療用のメスを握った。

そして、首や腹部を切り裂き、インターネットの画像で見た通りの構造になっているかを確認しながら、人間の肉体を解体していった。血が絨毯を濡らすのも構わず、彼女は数時間にわたって遺体の損壊を続けた。手首を切断し、眼球に触れ、内臓の重さを確かめる。その猟奇的な行為は、彼女にとっては長年の夢が叶った至福の時間であった。

一通り「観察」を終えた後、彼女は血まみれの服を着替え、スマートフォンを取り出して、何事もなかったかのようにSNSに書き込みを行った。

「今日はとてもいい日だった」

足元に、心優しき同級生の無残な遺体を転がしたまま。

精神鑑定と、親の責任

事件の発覚は翌日のことだった。

帰宅しない被害者を心配した両親が警察に相談し、足取りから加害者のマンションが浮上した。警察官が踏み込んだ際、加害者は逃げることも隠すこともしなかった。ただ淡々と、「私が殺しました。解剖してみたかったからです」と自供したのである。

この常軌を逸した動機と残酷な手口は日本中に報道され、社会を恐怖のどん底に突き落とした。

貧困でもなく、虐待を受けていたわけでもない、知能の高いエリート少女による、純粋な好奇心からの殺人。動機が理解できないからこそ、その恐怖は底知れなかった。

逮捕後の取り調べや精神鑑定において、彼女から謝罪の言葉や反省の念が語られることは一度もなかった。彼女の精神構造は「サイコパス(精神病質)」という言葉でさえ表現しきれないほど、他者への共感性が決定的に欠如していた。

一方、彼女にマンションを与え、事実上の放置をしていた父親は、世間からの猛烈なバッシングに晒された。「なぜ異常に気づきながら病院に入れなかったのか」「金で解決しようとした結果がこれだ」という非難の嵐の中、父親は事件から数ヶ月後、自宅で自ら命を絶った。

加害者の少女は、友人の命だけでなく、実の父親の命をも間接的に奪うこととなったのである。

その後——治療という名目の免罪符

日本の少年法と司法制度において、重大な精神障害や発達の歪みが認められた未成年者は、刑事罰(刑務所への収監)ではなく、保護処分(医療少年院などへの送致)となることが多い。

彼女もまた、裁判員裁判の末に「刑事責任能力はあるが、強固な精神的偏りがあり、専門的な治療と矯正教育が必要である」と判断され、長期間の医療少年院送致という保護処分が決定した。

それはすなわち、彼女には「前科」がつかず、病気として「治療」を受ける立場になったことを意味する。

被害者の遺族は、この決定に絶望した。

「娘は実験動物のように殺され、切り刻まれた。それなのに、犯人は病気だからという理由で刑務所にすら行かず、国費で治療と教育を受ける。こんな不条理が許されるのか」と法廷で泣き崩れた。

しかし、司法の決定が覆ることはなかった。

それから数年の月日が流れた。

医療少年院という閉鎖環境の中で、彼女は優秀な頭脳を発揮し、プログラムを真面目にこなし、医師や教官から「順調に更生している」と評価されたという。

そして彼女は、二十代前半という若さで、すでに施設を退院し、社会に復帰している。

現在の彼女は、名前を変え、戸籍を移し、日本のどこかの街で「ごく普通の若い女性」として生活している。

彼女の知能であれば、過去を完璧に隠し通し、事務職や専門職に就いて社会に溶け込むことは極めて容易だろう。すれ違う人々は、彼女がかつて同級生をハンマーで殴り殺し、その身体をメスで解剖した怪物であることなど、微塵も疑わない。

精神科医療は、彼女に「社会のルール」を教え込み、「衝動を抑える技術」を身につけさせることには成功したかもしれない。しかし、先天的に欠落している「他者への真の共感」や「命の尊さ」を、後天的に植え付けることは可能なのだろうか。

「安全な国」の日常の風景の中、あなたのすぐ隣に座る礼儀正しい若者が、実は合法的に社会に放たれた「無菌室の怪物」である可能性を、完全に否定することは誰にもできない。

奪われた少女の未来は二度と戻らないが、彼女を実験材料として消費した加害者の人生は、これからも何事もなかったかのように続いていくのである。

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