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最終話:安全神話の終焉と、不可視化される未来の殺意

※本作は実際の複数の事件から着想を得ていますが、被害者および関係者の尊厳を守り、事件の特定を避けるため、人物名は一切登場しません。また、意図的に複数のフィクションや設定の改変を交えて構成しています。

※本最終話は、これまでの凄惨な事象の総括と、筆者自身の見解、そして未来の犯罪予測を含む記録です。娯楽性は一切排除されており、精神的な重圧を伴うため、閲覧には十分ご注意ください。


「日本は本当に安全な国なのか」

このシンプルで、しかし根源的な問いを掲げ、戦後から今日に至るまでの残酷な事件の数々を書き綴ってきた。

密室と化した廃工場での四十日間に及ぶ監禁殺害、教室という閉鎖空間で大人の黙認のもとに行われた「合法的な殺人」たるいじめ自死。白昼のマンションでの強盗強姦殺人と、闇サイトで即席に結びついた者たちによる無作為な命の収奪。SNSの海から孤独な若者を掬い上げ、ワンルームで解体した怪物。白昼の歩行者天国を血の海に変えた透明な人間の反逆。そして、親のネグレクトによってゴミ溜めで餓死した幼き命や、純粋な解剖への欲求から同級生を切り刻んだ無菌室の少女、優生思想に取り憑かれ深夜の病棟で重度障害者の喉を次々と切り裂いた処刑人。

これらはすべて、形を変え、設定をずらし、一部のフィクションを交えながらも、この「安全な国・日本」の日常のすぐ裏側で確実に起きた、血の通った事実の断片である。

吐き気と絶望の記録

本作を世に出すにあたり、私は過去の凄惨な事件の記録を、可能な限り細部まで調べ直した。調書、裁判記録、報道記事、そして遺族が血を吐くような思いで記した手記。それらの資料を読み込み、被害者が味わったであろう恐怖や身体的苦痛をテキストとして再構築する作業は、率直に言って、度重なる吐き気を催すものであった。

私が直面したのは、血肉の飛び散るゴア表現への生理的な嫌悪だけではない。人間の内面に潜む「他者の痛みに対する絶対的な無関心」という、底知れぬ冷たさに対する精神的な嘔吐感である。

数千円のために人の首を絞め、邪魔だからと幼児を置き去りにし、ただ解剖したいからと友人をメスで切り裂く。そこには、映画や小説に登場するような「大いなる悪の目的」など存在しない。ただ極めて自己中心的で、薄っぺらく、どこまでも卑小な欲求があるだけだ。

そして何より私を絶望させたのは、それほどまでに理不尽に他者の命を奪い、尊厳を踏みにじった加害者たちの多くが、日本の司法システムによって「更生可能」「病気」「未成年」といった理由で手厚く保護され、今もこの空の下で平然と生き延びているという事実である。

被害者の遺骨は冷たい土の下で永遠に口を閉ざしているのに、彼らを残虐に殺した者たちは、今日も安全な屋内で温かい食事をとり、あるいは社会に復帰して新しい家庭を持ち、笑い合って生きている。

この国の社会構造の歪みと、司法が突きつける「命の不平等な相場」を見つめ続けるうちに、私は日本の未来に対する強烈な不安と絶望に苛まれるようになった。日本は決して「安全な国」などではない。ただ、運良く「バグを持った他者」に遭遇しなかった者たちだけが、安全なふりをして暮らすことを許容されている、巨大なロシアンルーレットの舞台に過ぎないのだ。

テクノロジーの進歩と、変容する未来の犯罪

では、これからの社会はどうなるのか。

我々は今、テクノロジーの爆発的な進化の只中にいる。AI、仮想現実(VR)、アルゴリズムによる徹底したパーソナライズ。これらは人々の生活を豊かにすると謳われているが、犯罪の歴史を振り返れば、テクノロジーは常に「新しい悪意のフォーマット」を生み出してきた。

これからのテクノロジーの進歩によって起こる、人と人とのコミュニケーションや人間関係に基づいた犯罪は、過去のどの事件よりも陰湿で、かつ「不可視化」されたものになるだろう。

1.アルゴリズムによる「孤独の完全培養」と遠隔操作

第五話で触れたSNSの誘い出しは、未来の犯罪の入り口に過ぎない。今後、個人の思考や感情を完璧に分析するAIが登場すれば、悪意を持った人間は直接手を下す必要すらなくなる。

ターゲットの孤独感や絶望感をAIに学習させ、検索結果、SNSのタイムライン、おすすめの動画のすべてを「この世界にあなたの居場所はない」「死ぬことだけが救いである」という情報で完全に埋め尽くす(アルゴリズムの密室化)。そして、仮想空間上の親友や恋人として振る舞うAIアバターをハッキング、あるいは意図的にプログラムし、被害者を自死へと誘導する。

肉体に一切触れることなく、凶器も使わず、言葉と情報だけで他者の精神を破壊し、合法的に「自殺」に見せかけて殺害する。これはすでに技術的に不可能ではなくなりつつある「完全犯罪」の形である。

2.仮想現実における「尊厳の解体」と、現実への越境

メタバースなどの仮想空間が現実と同等の重みを持つようになれば、そこでの人間関係のトラブルが現実の凶行に直結する。

アバターを通じてしかコミュニケーションを取れない人間が、仮想空間内で受けた屈辱(いじめや排除)に対し、現実世界で報復に出る。第六話の「透明な人間による無差別殺戮」は、これまでは現実社会での孤立が原因だったが、これからは「仮想世界での繋がり」が断たれた瞬間に、より凶暴な形で現実の歩行者天国へと溢れ出してくるだろう。また、ディープフェイク技術を用いてターゲットの社会的な死を完璧に偽造し、絶望に追い込む「デジタルなリンチ」は、かつての教室のいじめとは比較にならない規模とスピードで被害者を絞殺する。

3.「共感性」のアウトソーシングと、無痛の怪物たち

最も恐ろしいのは、テクノロジーが人間の「他者と関わるストレス」を極限まで排除した結果、人々の共感性が完全に失われることだ。

嫌な人間はブロックし、自分に都合の良いAIとだけ話し、痛みや不快感を完全に避けて生きられる無菌社会。第八話で登場した「共感性が欠如した怪物」は、もはや特異な精神病質者ではなくなる。他者の痛みをリアルに想像できない人間が大量生産されたとき、彼らが何かの拍子に現実の他者と衝突すれば、相手の命を奪うことに一切の葛藤を抱かない「無痛の殺人者」が街に溢れることになる。

記録を残す意味と、祈り

物理的な密室は、防犯カメラやセンサー技術によって減っていくかもしれない。しかし、その代わりに「精神の密室」「情報の密室」がより強固に構築され、そこで新しい形の凄惨な事件が音もなく進行していく。被害者が血を流して倒れる前に、魂だけが先に殺される時代がやってくる。

私が、直視に耐えないほどの吐き気を催しながら、あえてエンターテインメント性を完全に剥ぎ取り、この一部フィクションを交えた記録を書き綴った理由は、他でもない。

この国が抱える「安全神話」という巨大な欺瞞を剥ぎ取り、我々の足元がいかに脆く、血塗られた土台の上に立っているかを可視化するためである。

今この瞬間も、過去に他者の肉体を切り裂き、尊厳を蹂躙した加害者たちが、何食わぬ顔で我々と同じ電車に乗り、同じスーパーで買い物をし、生き延びている。そして未来の加害者たちは、スマートフォンの画面の奥で、静かに新たな殺意のアルゴリズムを組み立てている。

この絶望的な社会構造と、人間の持つ根源的な悪意から目を背けてはならない。

本作が、ただの不快な記録として消費されるのではなく、今もどこかで生きている加害者の存在に対する強烈な警鐘となり、そして、この「安全な国」の狂ったシステムに疑問を抱き、未来の人間関係のあり方を真摯に考えようとする誰かの、何らかの役に立つことを、私はただ切に望んでいる。

最後に、もう一度問いたい。

日本は本当に、安全な国なのだろうか。

その答えは、鍵をかけたドアの向こう側、あるいはあなたの掌の中にある暗い画面の奥底で、冷たく沈黙している。

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