第47話 閉店の危機!? 古代遺跡発見と、魔王の黒歴史
その騒動は、一本の杭から始まった。
ある日の午後。『カフェ・オアシス』に、分厚い眼鏡をかけた学者風の男と、数名の役人がやってきた。
「店主! 直ちに立ち退きを命ずる! この建物の地下から、超古代魔法文明の『遺跡反応』が検出された!」
男は鼻息荒く、立ち退き命令書を突きつけた。
「い、遺跡ですか? でも、ここは私たちの生活がかかっていて……」
「知ったことか! 国益のためだ、明日から取り壊し工事を始める!」
私は青ざめた。
この店は、私がゼロから築き上げ、ジーク様と出会い、エリザを育てた大切な場所だ。それを壊されるなんて。
「……ほう。誰の店を壊すと言った?」
奥の席から、地を這うような低い声が響いた。
新聞を畳んだジーク様(皇帝)と、コーヒーカップを置いた魔王ヴェルニヤ様が、ゆらりと立ち上がる。
「陛下!? な、なぜこのような場所に!?」
「ここは私の妻の店だ。……遺跡だと? そんなものより、妻の笑顔の方が国益に敵うのだが?」
ジーク様が凄むと、役人たちは震え上がった。
しかし、眼鏡の学者だけは引かなかった。
「へ、陛下といえど、歴史の発見を阻む権利はありません! ここには『伝説の暗黒魔導師』が封印した、禁断の秘宝が眠っているのです!」
伝説の暗黒魔導師。
その単語を聞いた瞬間、魔王ヴェルニヤ様がピクリと眉を動かした。
「……おい、学者。その魔導師の名は?」
「文献によれば、『漆黒の堕天使・ヴェル・ヴェル』様です!」
ブフォッ!!
魔王様がコーヒーを吹き出した。
「……なんだと?」
「な、何事ですか魔王様。顔色が悪いですよ?」
「いや、まさか……そんなはずは……。あれは千年前、確かに異空間の彼方に葬ったはず……」
魔王様が冷や汗を流してブツブツ言っている。
「とにかく掘ってみれば分かる!」
学者の指示で、庭の一角が掘り返された。
最強家族(ジーク様、イグニス、エリザ)も見守る中、土の中から錆びついた「金属の箱」が出てきた。
厳重な封印魔法が施されている。
「出たぞ! これこそ禁断の秘宝だ!」
「あーっ! やめろ! 開けるな! 絶対に開けるなぁぁぁ!!」
魔王様が悲鳴を上げて飛びつこうとしたが、ジーク様が羽交い締めで止めた。
「待てヴェルニヤ! 歴史的発見なのだろう? 見届けようではないか」
「離せジーク! あれは違うんだ! 若気の至りなんだぁぁ!」
バカッ。
学者が箱を開けた。
中に入っていたのは――古びた羊皮紙の束だった。
「おお、これは魔導書か!? ……ん? 古代語で何か書いてあるぞ」
学者が朗読を始めた。
『――ククク。俺の右手が疼く……。この世界は狭すぎる。俺の闇の力を受け止められる奴はいないのか……』
「「「…………」」」
沈黙。
学者が次のページをめくる。
『――今日は「堕天使の翼(黒いマント)」を新調した。これを着て街を歩いたら、愚民どもが俺を恐れて道を空けた(注:変質者だと思われただけ)。孤独だ……強すぎるというのは、罪なことだ……』
「やめてぇぇぇぇ!! 読まないでくれぇぇぇ!!」
魔王様が顔を覆ってのたうち回った。
そう。これは遺跡などではない。
千年前、まだ若く中二病を患っていた頃の魔王様が書き綴った、痛々しい「ポエム日記(黒歴史)」だったのだ。
「……ぷっ」
ジーク様が吹き出した。
「なるほど、『漆黒の堕天使』殿か……。ククッ、随分とかっこいい名前だな」
「殺せ! いっそ殺してくれぇぇ!」
「魔王おじちゃん、これかいたの? 『おれのやみのちから』?」
「エリザ、復唱するなぁぁ!」
魔王様は羞恥のあまり、灰のように真っ白になって燃え尽きた。
結局、遺跡騒動は「魔王の私物だった」というオチで収束した。
役人たちは「なーんだ」と帰っていき、カフェの取り壊しは回避された。
「……よかったですね、店がなくならなくて」
「うむ。だが、我輩の尊厳は失われた……」
魔王様はその後三日間、店の隅で膝を抱えて引きこもってしまった。
ちなみに、その「黒歴史ノート」はジーク様がこっそり回収し、酒の肴として大切に保管しているらしい。
『カフェ・オアシス』の地下には、歴史よりも重い「男の秘密」が眠っていたのだった。




