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悪役令嬢の引退カフェ経営。静かに暮らしたいのに、元婚約者が「君の淹れる紅茶じゃないとダメだ」と泣きついてくる。知らんがな。  作者: 綾瀬蒼


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第45話 涙の結婚式と、空を焦がす『ドラゴン花火』

 その日、『カフェ・オアシス』は純白のヴェールに包まれていた。


 庭には白い花々が咲き乱れ、木漏れ日がバージンロードを照らしている。

 今日は、当店の看板娘ソフィアと、帝国騎士レオン様の結婚式だ。


「……レティシア様。私、変じゃないでしょうか?」


 控え室(二階の客室)で、ソフィアが不安そうに鏡を見ていた。

 彼女が纏っているのは、私がシルクとレースで仕立てた、特製のウェディングドレスだ。

 かつて泥だらけで店に来た少女は今、誰よりも美しい花嫁になっていた。


「とっても綺麗ですよ。レオン様が見たら、また石像みたいに固まっちゃいますね」

「ふふ、また固まられたら困ります」


 ソフィアは涙ぐみながら、私の手を握った。


「……ありがとうございます。全部、レティシア様のおかげです。私、生きていてよかったです」

「幸せになってくださいね。……さあ、行きましょう」


 ◇◇◇


 ガーデンウェディングには、豪華すぎる顔ぶれが揃っていた。


 主賓席には、ガルディア皇帝ジークフリード様(私の夫)。

 来賓代表には、魔王ヴェルニヤ様。

 受付には、炎竜のイグニスと、美しく成長した娘のエリザ。

 そしてリングボーイは、人間姿の聖獣ルゥと、なぜか熊さん(ナイスミドル姿)だ。


 新郎のレオン様は、祭壇の前ですでに緊張のあまり直立不動になっていた。


「新婦、入場です!」


 エリザのピアノ伴奏に合わせ、ソフィアが入場する。

 参列者たち(常連客や、騎士団の同僚たち)から、温かい拍手と花びらが降り注ぐ。


「……ソフィア」

「レオン様……」


 二人は手を取り合い、誓いの言葉を交わした。

 そして、誓いのキス――。


「ヒューヒュー! やったぜぇ!」

「静かにしろイグニス。雰囲気が台無しだ」


 イグニスが口笛を吹き、魔王様がたしなめる。賑やかで温かい、最高の式だ。


 ◇◇◇


 披露宴のメインイベント。「ケーキ入刀」の時間だ。

 私が徹夜で焼き上げた、高さ1メートル超えの特大ウェディングケーキが登場する。


「すげぇ! なんだこの塔は!」

「甘い香りが会場中に広がるぞ!」


 レオン様とソフィアが、ケーキナイフを手に取る……はずだったが。


「待った!」


 イグニスが飛び出してきた。


「めでたい日だ! ナイフなんざちまちましたモンじゃねぇ! これを使え!」


 彼が差し出したのは、レオン様の愛用する『騎士の大剣』だった。

 しかも、イグニスの炎魔法で、刃が赤熱して輝いている。


「えっ、剣で!? しかも燃えてますけど!?」

「『共同作業』だろ? 騎士なら剣で一刀両断だ!」

「……分かりました。やりましょう、ソフィア!」


 レオン様が覚悟を決めた。ソフィアも頷き、二人は大剣を握りしめた。


「せーのっ!」


 ズバァァァァン!!


 燃える大剣がケーキを一刀両断した。

 その瞬間、熱でクリームが少し溶け、砂糖がキャラメリゼされて、香ばしく甘い香りが爆発的に広がった。


「おおお! 焼き菓子になったぞ!」

「美味そう!!」

「初めて見る『焼きケーキ入刀』ですわ……」


 会場は大盛りあがりだ。


 ◇◇◇


 そして、フィナーレ。

 夜空を見上げる時間だ。


「我輩からのプレゼントだ。……夜空に華を咲かせよう」


 魔王ヴェルニヤ様が杖を掲げた。

 隣には、ドラゴン姿に戻ったイグニスが控えている。


「いくぞ、トカゲ! タイミングを合わせろ!」

「おうよ! 最強のブレスを見せてやる!」


 「「祝砲・ドラゴン・スターマイン!!」」


 ドォォォォォォン!!!!


 イグニスが口から極太の炎を吐き、魔王様がそれを魔法で拡散させた。

 夜空に、巨大な「ハート型」の炎の花火が炸裂した。

 いや、花火というより、「夜空が燃えている」と言ったほうが正しい。


「明るっ!? 昼間みたい!」

「熱い! 熱いですわ!」

「綺麗……だけど怖いですー!」


 やりすぎた火力に悲鳴も上がったが、二人の愛の熱さに比べれば可愛いものだろう。

 炎の光に照らされて、ソフィアとレオン様は幸せそうに笑い合っていた。


「……いい式だったな」


 ジーク様が私の肩を抱き寄せた。


「ええ。二人とも、本当におめでとう」


 かつて不幸のどん底にいた少女は、今、世界で一番幸せな花嫁になった。

 『悪役令嬢カフェ』は、訪れる人の運命さえも、甘く優しく変えてしまう魔法の場所なのだ。


「さて……次は誰の結婚式かな?」


 私がチラリと横を見ると、セリーヌ皇女と人間姿のルゥが、いい雰囲気で花火を見上げていた。

 

 幸せの連鎖は、まだまだ続きそうだ。

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