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悪役令嬢の引退カフェ経営。静かに暮らしたいのに、元婚約者が「君の淹れる紅茶じゃないとダメだ」と泣きついてくる。知らんがな。  作者: 綾瀬蒼


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第44話 カフェごと日本へ逆転移!? 商店街で異文化交流

 ある晴れた休日。

 『カフェ・オアシス』の庭で、魔王ヴェルニヤ様が怪しげな魔法陣を描いていた。


「クックック。ついに完成したぞ。さらに遠くの食材を取り寄せる『超・時空ゲート』だ」

「嫌な予感しかしませんわ。おじ様、また爆発しますわよ?」


 エリザ(15歳)が呆れ顔で忠告するが、魔王様は聞く耳を持たない。

 

「ええい、見ておれ! 起動!」


 カッッッ!!!!


 視界が真っ白に染まり、浮遊感が襲った。

 そして、ドスン! という衝撃と共に、カフェ全体が大きく揺れた。


「……失敗か?」


 恐る恐る目を開けると、窓の外の景色が一変していた。

 緑豊かな帝国の森ではない。

 灰色の地面アスファルト、立ち並ぶコンクリートの建物、そして電柱。


「……嘘。ここ、日本の商店街?」


 私は絶句した。

 カフェは、どこかの地方都市の商店街の一角にある、空き地(駐車場)に丸ごと転移してしまっていたのだ。


「な、なんだこの無機質な街並みは! 敵の結界内か!?」


 ジーク様(皇帝)が剣に手をかけ、警戒態勢をとる。

 その時、目の前の道路を一台の軽トラックが走り抜けた。


 ブォォォォン!!


「ぬあっ!? 鉄の塊が高速で移動したぞ! 魔獣か!?」

「待ってジーク様! あれは『車』です! 斬らないで!」


 私は慌ててジーク様の腕を掴んだ。

 危ない。異世界転移して数分で、軽トラを真っ二つにして国際問題になるところだった。


 ◇◇◇


 私たちが呆然としていると、商店街を歩く人々がカフェに気づき始めた。


「あれ? こんなとこにカフェあったっけ?」

「うわ、すげー本格的なログハウス!」

「店員さん、めっちゃ外人! コスプレカフェかな?」


 物珍しさから、おばちゃんや学生たちが集まってくる。

 どうやら「期間限定のコンセプトカフェ」だと勘違いされているようだ。


「……レティシア、どうする? 元の世界に戻るための魔力充填には、あと数時間はかかるぞ」


 魔王様が小声で言った。

 数時間。このまま店を閉めておくわけにもいかない。


「……仕方ありません。開店しましょう! 怪しまれないように、普通のカフェとして振る舞ってください!」


 私たちは急遽、日本での臨時営業を開始した。


「いらっしゃいませー! 異世界風ランチはいかがですかー!」


 エリザが看板娘として声を上げると、男子高校生たちが吸い寄せられるように入ってきた。


「うわっ、店員さん超美少女!」

「銀髪リアルすぎ! カラコンかな?」

「す、すみません! オムライスください!」


 厨房では、私が腕を振るった。

 食材はファンタジー世界の最高級品だ。『キングボアの卵』と『世界樹の森のキノコ』を使ったオムライス。


「はい、お待たせしました」


 高校生が一口食べる。


「……うっま!! なにこれ、卵の味が濃い!!」

「ファミレスのレベルじゃねぇぞ! マジでうめぇ!」


 店内は大盛況となった。

 ジーク様も、不慣れながらホールを手伝っている。


「水だ。……なんだ、その板は?」

「あ、スマホっす。一緒に写真いいですか?」

「『すまほ』? 魂を抜かれる魔道具か?」


 ジーク様は警戒しつつも、言われるがままにツーショット写真に応じている。

 そのイケメンぶりと筋肉美に、商店街の奥様方が黄色い悲鳴を上げている。


 一方、魔王様は――。


「ほう。これが『ジドウハンバイキ』か」


 店の外の自販機に夢中になっていた。

 硬貨(私が持っていた日本円のへそくり)を入れると、ガコンと出てくる黒い液体。


「……コーラ、だと? 毒々しい色だが……」


 プシュッ。グビグビ。


「……ッ!! なんだこの刺激は! 口の中で何かが弾けている!」

「炭酸ですよ、魔王様」

「美味い! これは魔界の秘薬に匹敵するぞ! 全部買え! 買い占めろ!」


 魔王様は自販機の前で小銭を投入し続けていた。


 ◇◇◇


 夕方。

 商店街に「蛍の光」が流れ始める頃、ようやくゲートの魔力が溜まった。


「レティシア、そろそろ潮時だ。警察官ポリスという名の騎士団が、営業許可証を確認しに来るぞ」

「それはまずいですね(無許可営業ですし)。撤収しましょう!」


 私たちは店を閉め、最後の客を送り出した。


「ありがとー! また来るねー!」

「お兄さん(ジーク)かっこよかったわよー!」


 商店街の人々に手を振りながら、魔王様が詠唱を完了させる。


 カッッッ!!!!


 再び閃光が走り、カフェは日本の駐車場から消滅した。

 後に残ったのは、謎のログハウスがあった痕跡と、「あのオムライスは伝説だった」という都市伝説だけだった。


 ◇◇◇


 帝国の森に戻った私たちは、どっと疲れが出て座り込んだ。


「ふぅ……驚いたな。異世界(日本)というのは、あんなに騒がしい場所なのか」

「でも、楽しかったよ! これ、おみやげ!」


 エリザが見せてくれたのは、商店街のコンビニで買った『ポテトチップス』や『チョコレート』の山だった。

 魔王様も、両手いっぱいにコーラのペットボトルを抱えている。


「クックック。これで当分、魔界での晩酌は安泰だ」

「私は、懐かしい空気が吸えてよかったです」


 私はコンビニの袋から『カップ麺』を取り出した。

 久しぶりに嗅ぐ、ジャンクな香り。


「今日の夕飯は、これにしましょうか」

「かぷめん? なんだそれは?」


 その夜、帝国最強の家族たちは、日本のカップ麺を啜りながら、「この縮れた麺、魔法がかかっているに違いない」と真剣に議論を交わしたのだった。

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