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悪役令嬢の引退カフェ経営。静かに暮らしたいのに、元婚約者が「君の淹れる紅茶じゃないとダメだ」と泣きついてくる。知らんがな。  作者: 綾瀬蒼


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第42話 完璧店主の乱れ酒と、皇帝陛下の理性の限界

 その夜、『カフェ・オアシス』では久々の「大人たちの宴」が開かれていた。

 エリザやプルちゃんが寝静まった後、私たちは店内でグラスを傾けていた。


「クックック。見ろレティシア、これが魔界で千年に一度実る『宝石果実』のワインだ」


 魔王ヴェルニヤ様が、虹色に輝く液体が入ったボトルをドンと置いた。

 甘く芳醇な香りが漂う。まるで高級なフルーツジュースのようだ。


「へぇ、美味しそうですね。アルコール度数は?」

「安心しろ、人間でも飲めるように調整してある。……たぶんな」

「たぶんって何ですか」


 私は苦笑しつつ、その美しさに惹かれて一口飲んでみた。

 

 コクッ。


 口いっぱいに広がる、花畑のような香りと濃厚な甘み。

 酒精の強さは全く感じない。とろけるような美味しさだ。


「あら、美味しい! これならいくらでも……」


 私はクイクイとグラスを空けた。

 二杯、三杯。

 ジーク様が心配そうに見ている。


「レティシア? あまりペースが早すぎないか?」

「だいじょーぶですよぉ、ジークさまぁ」


 ……ん?

 自分の声が、なんだかフワフワしている。

 世界がキラキラして、目の前にいるジーク様が、いつもの三割増しで格好良く見える。


「あーれー? ジーク様、なんで揺れてるんですかぁ? あ、二人に増えた」

「……完全に酔っているな」


 ジーク様が頭を抱えた。

 どうやら魔界のワインは、「口当たりはジュースだが、後からハンマーで殴られたように回る」危険な代物だったらしい。


 ◇◇◇


「ねぇねぇ、魔王さまぁ」


 顔を真っ赤にした私は、隣に座っていた魔王様のほっぺたを、ムニムニと掴んだ。


「魔王様ってぇ、いつも偉そうですけどぉ、実は寂しがり屋ですよねぇ〜?」

「い、痛いぞレティシア! やめろ、威厳が!」

「お店に来てくれるのは嬉しいですけどぉ、たまにはお野菜も食べてくださいねぇ? 偏食はメッですよぉ?」


 私は魔王様の頬を引っ張り、説教モード(物理)に入った。

 普段は言わないような本音が、ポンポン飛び出す。


「ソフィアちゃんもぉ! もっと自信持っていいんですよぉ! 貴女は可愛いんですからぁ!」

「ひゃっ!? て、店長!? 抱きつかないでください!」

「イグニスくーん! 火加減強すぎー! でもステーキおいしー!」

「お、おう! 任せとけ!(店主、キャラ変わりすぎだろ……)」


 私は千鳥足で店内を練り歩き、従業員たちに絡みまくった。

 そして最後に、ジーク様の前に戻ってきた。


「……ジークさま」

「レティシア。水を持ってこようか?」


 ジーク様が立ち上がろうとした瞬間。

 私は彼の上に、どすん! と乗っかった。膝の上だ。


「レ、レティシア!?」

「ん〜……。ジーク様の匂いがするぅ」


 私は彼の胸に顔を埋め、深呼吸した。

 硬い筋肉と、安心する香り。

 あぁ、幸せだなぁ。


「ジーク様ぁ。だーいすき」

「ッ……!!」

「いつもぉ、私のこと守ってくれてぇ、ありがとごじゃいますぅ。えへへ」


 私は彼の首に腕を回し、猫のように擦り寄った。

 普段は照れくさくて言えない言葉が、スラスラと出てくる。


「私ねぇ、ジーク様のお嫁さんになれてぇ、ほんとーによかったぁ……」

「…………」


 ジーク様が固まっている。

 見上げると、彼は手で口元を覆い、耳まで真っ赤になって震えていた。


「……魔王」

「なんだ」

「……俺は今、猛烈に感動しているのと同時に、理性の糸が切れそうだ」

「知らんがな。爆発しろ」


 ジーク様は深呼吸を繰り返し、震える手で私の背中を抱きしめ返した。


「……俺もだ、レティシア。愛している。……だが、これ以上はやめてくれ。心臓が持たん」

「やだぁ。離れないもん」


 私はさらにギュッと抱きつき、そのまま彼の首筋に「ちゅっ」とキスをした。

 それがトドメだった。


 バタンッ!!

 ジーク様が椅子ごと後ろに倒れ、気絶した(尊死)。


「あらぁ? ジーク様、寝ちゃった?」


 ◇◇◇


 翌朝。


「……頭が痛い」


 私はガンガンする頭を押さえて目覚めた。

 記憶がない。昨夜、何かとんでもないことをしたような気がするのだが……。


「おはよう、レティシア」


 隣で寝ていたジーク様が、爽やかな、しかしどこか生温かい笑顔でこちらを見ていた。


「あ、おはようございますジーク様。私、昨日……」

「ああ。とても可愛かったよ。……『一生離れないもん』と言ってくれたことは、忘れないからな」

「えっ」


 ジーク様は嬉しそうに、魔法で録音していたらしい魔石を再生した。


 "『ジーク様ぁ、だーいすきぃ♡ ちゅっ♡』"


「ギャァァァァァァァァ!!」


 私は顔から火が出るほどの羞恥に襲われ、枕に顔を埋めてのたうち回った。

 

 それ以来、カフェの酒棚には『店主の飲酒禁止』という張り紙が貼られることになった。

 ただしジーク様だけは、「またあのワインを仕入れてくれ」と魔王様にこっそり頼んでいるらしい。

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