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悪役令嬢の引退カフェ経営。静かに暮らしたいのに、元婚約者が「君の淹れる紅茶じゃないとダメだ」と泣きついてくる。知らんがな。  作者: 綾瀬蒼


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第41話 パパの日曜大工と、難攻不落の『スライム要塞』

 ある晴れた休日。

 庭で洗濯物を干していると、ジーク様(休日モード)が腕組みをして何かを睨みつけていた。


「……ううむ。やはり、これでは防犯上問題があるな」

「どうしたんですか、ジーク様?」


 彼の視線の先には、ペットのお掃除スライム『プルちゃん』がいた。

 プルちゃんは庭の隅に置かれた、空の木箱(ミカン箱)の中でプルプルと震えている。一応、そこが彼の寝床なのだが……。


「エリザが拾ってきた大事な家族だ。あんな粗末な箱では、雨風もしのげないし、外敵カラスなどに襲われるかもしれない」

「まあ、スライムですから大丈夫だと思いますけど……」

「いや、ダメだ! 俺が作る! 世界一快適で安全なマイホームを!」


 ジーク様の職人魂(?)に火がついてしまった。

 彼は上着を脱ぎ捨て、タンクトップ姿になると、倉庫からトンカチやノコギリを取り出した。


「材料なら、宝物庫にいい木材が余っていたはずだ」


 彼が空間魔法から取り出したのは、虹色に輝く巨大な丸太だった。


「……ジーク様? それ、まさか『世界樹』の枝じゃありません?」

「ああ。建材としては最高級だ。湿気も防ぐし、魔力も通す」


 ペット小屋に使う木材ではない。

 さらに、釘の代わりに『ミスリル銀』を使い、屋根には『竜の鱗(イグニスの脱皮したやつ)』を敷き詰めるという。


「さあ、作業開始だ!」


 ガガガガガッ!! ドゴゴゴゴッ!!


 凄まじい音が響き渡る。

 ジーク様は剣技で木材を一瞬で切り出し、魔法で接合し、目にも止まらぬ速さで組み立てていく。

 その背中は、日曜大工のお父さんというより、要塞を建築する工兵のようだった。


 ◇◇◇


 数時間後。


「完成だ……!」


 汗を拭うジーク様の前には、信じられない物体が鎮座していた。


「……えっと。これは?」

「プルちゃんの家、名付けて『あぶそりゅーと・ディフェンス・ハウス(絶対防御小屋)』だ」


 それは、もはや小屋ではなかった。

 高さ1メートルほどの、黒光りする「ミニチュアの城塞」だった。

 銃眼のような窓、跳ね橋付きの入り口、そして屋根にはなぜか小型の魔導砲(飾り?)がついている。


「すごいパパ! かっこいいー!」


 エリザが大喜びで飛び跳ねる。

 そこへ、昼寝から起きてきた魔王ヴェルニヤ様が通りかかった。


「ん? なんだこの禍々しい魔力を放つ物体は……」

「おお、ヴェルニヤか。ちょうどいい、強度テストをしてくれ」

「は?」

「全力の攻撃魔法を撃ち込んでみてくれ。壊れたら作り直す」


 ジーク様が真顔で言った。

 魔王様は呆れつつも、面白そうにニヤリと笑った。


「ほう。我輩の魔法を受けて無事な小屋など、この世に存在するかな? ……後悔するなよ? 『黒き雷よ、穿て(ブラック・ボルト)』!」


 バチバチバチッ!!

 魔王様の手から、岩をも砕く漆黒の雷撃が放たれた。

 直撃コースだ。プルちゃんの家が木っ端微塵に――。


 カィィィィン!!


 小屋の表面に幾何学模様の結界が浮かび上がり、魔王の魔法を綺麗に弾き返した。


「なっ……!?」

「ふっ、甘いな。表面には『魔法反射コーティング』を施してある」

「バカな! ただの犬小屋に国家予算レベルの結界だと!?」


 魔王様が驚愕していると、さらに小屋の自動防衛システムが作動した。


 "『侵入者検知。排除シマス』"


 屋根の魔導砲(飾りじゃなかった)が光り、魔王様に向けて水鉄砲のような勢いで聖水を噴射した。


「うわっぷ!? 冷たっ! 聖水!? 目が、目がぁぁ!」

「よし、動作確認完了だ。これで野良猫が来ても安心だな」

「過剰防衛すぎるだろ!!」


 魔王様が目を洗いに井戸へ走っていく。

 

 主役のプルちゃんはというと、恐る恐る小屋に近づき、入り口の匂いを嗅いで……。


 スポンッ。


 中に入り、窓から顔を出して「プルプル(快適!)」と震えた。

 どうやら気に入ったらしい。世界樹の香りと、守られている安心感が心地よいようだ。


「よかったな、プルちゃん。これでどんなドラゴンが来ても大丈夫だぞ」

「パパすごーい!」


 満足そうに笑うジーク様を見て、私はため息をつきつつも微笑んだ。

 

 こうして『カフェ・オアシス』の庭には、魔王城よりも堅牢な「伝説のスライム小屋」が設置された。

 後日、泥棒が入ろうとしたが、小屋からの迎撃(ゴム弾発射)に遭い、泣いて自首したという事件が起きたのは、また別のお話。

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