第39話 ソフィアの初デートと、カオスなファッションショー
その日、開店前の『カフェ・オアシス』の二階から、悲痛な叫び声が響いた。
「む、無理ですぅぅ! デートなんて行けませんんん!」
声の主は、新米店員のソフィアだ。
彼女は頭を抱え、テーブルに突っ伏していた。
「どうしたのソフィアさん? レオン様とのデート、楽しみにしてたじゃない」
「そ、そうなんですけど……私、着ていく服がないんです!」
ソフィアが涙目で訴える。
彼女が国を追放された時に着ていたのは、今はもうボロボロのドレス一着のみ。
普段はカフェの制服で過ごしているため、いわゆる「デート服」を一着も持っていないのだ。
「あんな素敵な騎士様の隣を歩くのに、こんな格好じゃ……私、やっぱり辞退します!」
「あら、諦めるのは早いわよ」
私がパチンと指を鳴らすと、頼もしい援軍たちが集まった。
「任せなさい! お洒落のことなら、帝国一のファッショニスタ、このセリーヌにお任せあれ!」
「……戦場での装いなら助言できるぞ(なぜかいるヒルデガルド将軍)」
「エリザもえらぶー!」
ここに、第1回『ソフィアのデート服・選考会』の開催が宣言された。
なお、男子禁制のため、ジーク様と魔王様とドラゴンは一階へ追放済みだ。
◇◇◇
エントリーNo.1:セリーヌ皇女の提案
「デートといえば、やはり『清楚かつ豪華』! これですわ!」
セリーヌ様が魔法収納から取り出したのは、レースとフリルが幾重にも重なった、ピンク色の特大ドレスだった。
スカートの直径が2メートルはある。
「……セリーヌ様。これ、カフェのドアを通れますか?」
「そこは気合ですわ! 歩くたびに薔薇の香水を撒き散らす機能付きですのよ!」
「目立ちすぎてデートどころじゃありません……却下です」
エントリーNo.2:ヒルデガルド将軍の提案
「デートとは、男と女の戦場だ。ならば身を守る備えが必要だろう」
将軍がドサッと置いたのは、ミスリル銀で作られた鎖帷子と、鉄のガントレットだった。
「この鎖帷子は軽いぞ。ナイフ程度なら通さん。さらにスカートの下には投げナイフを仕込める」
「暗殺しに行くわけじゃないんです! 却下!」
「むぅ……防御力が足りないと思うがな」
エントリーNo.3:エリザ(7歳)の提案
「えっとねー、ルゥちゃんといっしょ!」
エリザが持ってきたのは、白いモフモフの「狼の着ぐるみ(パジャマ)」だった。
耳としっぽがついている。
「……可愛いけど。可愛いけどね、エリザ。これだとレオン様が『聖獣とデートしてる』と勘違いしちゃうから」
「ぶー。かわいいのにー」
◇◇◇
三者三様、方向性が尖りすぎていた。
ソフィアが「もうだめだ……」と絶望している。
「……仕方ありませんね。私の出番のようですね」
私は袖をまくり、ソーイングセットを取り出した。
元悪役令嬢として、ドレスのリメイクや刺繍はお手の物だ。
「ソフィアさん、貴女の持っている『ボロボロのドレス』を貸して。それと、市場で買ってきた安い布も」
私はハサミを入れ、魔法のように針を動かした。
派手すぎて時代遅れだったドレスの装飾を外し、シンプルなラインに修正する。
そこに、彼女の瞳の色に合わせた青い布をアクセントに加え、清楚なワンピースに仕立て直した。
仕上げに、レオン様から貰った「ピンクのリボン」を髪に結ぶ。
「……はい、完成よ。鏡を見てみて」
ソフィアがおそるおそる鏡の前に立つ。
そこには、飾り気はないけれど、清潔感と彼女本来の可憐さが引き立つ、素敵な女性が映っていた。
「……これ、私……?」
「ええ。とっても素敵よ。これなら自信を持って隣を歩けるわ」
セリーヌ様たちが「おおーっ!」と感嘆の声を上げる。
「さすがはお義姉様! 素材の良さを活かしてますわ!」
「うむ、動きやすそうだ。いざという時は走って逃げられるな」
「ソフィアおねえちゃん、プリンセスみたい!」
ソフィアは鏡の中の自分を見つめ、ポロポロと涙を流した。
「ありがとうございます……! 私、行ってきます! 精一杯、楽しんできます!」
◇◇◇
日曜日。
待ち合わせ場所の噴水広場。
ガチガチに緊張して待っていたレオン騎士は、現れたソフィアを見て、彫像のように固まった。
「お、お待たせしました、レオン様」
「…………美しい」
彼は語彙力を失い、ただそれだけ呟いて、真っ赤な顔で手を差し出した。
二人がぎこちなく歩き出すのを、物陰からこっそり見守る集団がいた。
「よかったな、ソフィア」
「うむ。だがあの男、ソフィアの手を握るのに30分もかけておるぞ。じれったい」
「パパ、じゃましないでね?」
変装した私たち(カフェ一同)だ。
こうして、ソフィアの初デートは、大成功(と、大量のストーカーによる見守り)のうちに幕を開けたのだった。




