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悪役令嬢の引退カフェ経営。静かに暮らしたいのに、元婚約者が「君の淹れる紅茶じゃないとダメだ」と泣きついてくる。知らんがな。  作者: 綾瀬蒼


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第38話 エリザの拾い物と、最強の『お掃除スライム』

 雨上がりの午後。

 庭で遊んでいたエリザ(7歳)が、何かを両手で大事そうに包んで戻ってきた。


「ママ、パパ! みてみて! おともだち!」

「お友達? カエルか何かか?」


 ジーク様が屈み込んで覗き込むと、エリザが手を開いた。

 そこにいたのは、プルプルと震える、青いゼリー状の生き物だった。


「……スライムか?」

「うん! 葉っぱのしたで、ふるえてたの。……飼ってもいい?」


 エリザが上目遣いでジーク様を見上げる。必殺の「おねだりビーム」だ。


「も、もちろんいいぞ! エリザが望むなら、城の一つや二つ!」

「ちょっと待ってください」


 私は慌てて止めた。

 スライムは最弱の魔物だが、何でも溶かして食べる習性がある。飲食店で飼うのは衛生的にどうなのだろう。


「……お腹が空いてるみたい。ごはんあげていい?」

「うーん、残り物ならいいけど……」


 私が許可すると、エリザはゴミ箱へ向かった。

 そこには、イグニス(炎竜)が焼きすぎた「黒焦げの肉」や、魔王様が残した「激辛スパイスの塊」など、産業廃棄物レベルのヤバイ残り物が捨てられていた。


「はい、どうぞ!」


 エリザがそれらをスライムの前に置く。

 スライムは一瞬ためらったようだが、意を決して飛びついた。


 ジュワワワワッ……!!


 恐ろしい音がして、スライムが発光し始めた。

 ドラゴンの炎成分と、魔王の魔力成分を摂取した結果――。


 ポンッ!

 スライムは一回り大きくなり、体がダイヤモンドのように硬質で透明な輝きを放ち始めた。


「「「進化した!?」」」


 ◇◇◇


 進化したスライム(命名:プルちゃん)は、驚くべき能力を発揮し始めた。


 バシャッ。

 ソフィアが誤って、床に水をこぼしてしまった。


「ああっ、いけない!」


 彼女が雑巾を取りに行こうとした、その瞬間。


 シュバッ!!!


 青い閃光が走った。

 気づけば、床の水は完全に消滅し、フローリングは鏡のようにピカピカに磨き上げられていた。

 その中心で、プルちゃんが「エッヘン」という感じで震えている。


「えっ……? こぼした水ごと、汚れを食べたの……?」


 それだけではない。

 厨房で私が使い終わった鍋を置くと――シュバッ!

 一瞬で油汚れが分解され、新品同様の輝きを取り戻した。


「すごい……! 最強の『自動食器洗い機』だわ!」

「なんという洗浄力だ。イグニスの焦げ付きすら分解するとは」


 プルちゃんは「汚れ=ごはん」と認識したらしい。

 店内を高速移動し、埃一つ、油一滴残さず掃除しまくる。

 その動きは音速を超えていた。


「ふむ。便利だが、少々張り切りすぎではないか?」


 魔王ヴェルニヤ様が、コーヒーを飲みながら感心していた。

 その時。プルちゃんのセンサーが反応した。


 "ピピピ……【検出:魔王のローブに付着した微細なパンくず】"


 シュバァッ!!!


 プルちゃんが魔王様の顔面めがけて飛びかかった。


「ぬおっ!? な、何をする貴様!」

「プルプル!(汚れは消毒だー!)」


 プルちゃんは魔王様の顔とローブを猛烈な勢いで「洗浄」し始めた。

 スライムの体液は強力な洗浄液だ。


「やめろ! 溶ける! 我輩の威厳ごと溶けるぅぅ!」

「すごいぞプルちゃん! 魔王の結界を突破した!」


 ジーク様が呑気に拍手している。

 数分後。

 そこには、全身ツルツルピカピカになり、肌年齢が若返った魔王様がへたり込んでいた。


「……解せぬ。なぜ我輩がスライムごときに洗濯されねばならんのだ」

「綺麗になってよかったじゃないですか」


 こうして、カフェに新たな従業員(ペット兼掃除係)が加わった。

 プルちゃんがいれば、大掃除も怖くない。

 ただし、うっかり化粧をしていると「汚れ」と判定されてスッピンにされるので、女性陣は戦々恐々としているとか。


「プルプル〜♪(今日もいい仕事した)」


 最強幼女が拾ったスライムは、やはり規格外の存在だった。

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