第35話 嵐の夜の首なし騎士と、特製グリーンスムージー
ザァァァァァッ……!
激しい雷雨が、森の木々を揺らしている。
『カフェ・オアシス』の閉店後。
私と、残業をしていたソフィア、そして賄いを食べていたイグニス(炎竜)は、窓を打つ雨音を聞いていた。
「ひぃぃ……すごい嵐ですね……。お化けが出そうです……」
ソフィアが青ざめて震えている。
彼女は幽霊や怪談の類が大の苦手なのだ。
「へっ、だらしねぇな。幽霊なんて俺様の炎で焼き尽くしてやるよ」
「物理攻撃が効かないから幽霊なんですよ!」
そんな話をしている時だった。
ドンドンドン!
重々しい音が、店のドアを叩いた。
「ひぃぃぃッ!! で、出たぁぁぁ!!」
「……こんな嵐の夜に、誰だ?」
イグニスが警戒してドアを開ける。
そこに立っていたのは、全身を黒い鎧で覆った、大柄な騎士だった。
雨水が滴るマント。古びた剣。
そして――首から上がなかった。
「…………」
「…………」
沈黙。
次の瞬間、騎士は脇に抱えていた「兜(中身入り)」をスッと持ち上げ、私たちに見せた。
兜のバイザーが上がり、端正な顔立ちの男性がぺこりと頭を下げた。
『……夜分遅くに申し訳ない。ここは、飯屋だろうか?』
「ギャァァァァァァ!! 首がぁぁぁぁ!!」
ソフィアが絶叫して気絶した。
イグニスも「うおっ、デュラハンかよ! レアだな!」と驚いている。
私は……まあ、魔王様やドラゴンも見慣れているので、深呼吸を一つして笑顔を作った。
「いらっしゃいませ。雨宿りですか?」
『い、いや……実は、空腹で倒れそうで……』
首なし騎士――デュラハンさんは、申し訳無さそうに兜(自分の顔)をテーブルに置いた。
『私は彷徨える騎士なのだが、ここ数百年、まともな食事ができていないのだ』
「幽霊でもお腹が空くんですね」
『ああ。だが、見ての通り首が胴体と離れているため、食事をとるのが非常に難しくてな……』
彼は悲しげに言った。
『パンを齧ろうにも、両手が塞がっていると兜を持てない。胴体を動かして食べようとすると、胃袋までの距離感が分からず、こぼしてしまうのだ』
なるほど。首なし騎士特有の「嚥下問題」だ。
食べたいのに食べられない。それは料理人として見過ごせない悩みだ。
「分かりました。では、片手で、しかもこぼさずに栄養が摂れるものを作りますね」
私は厨房に入り、ミキサーを取り出した。
冷蔵庫にあるほうれん草、バナナ、リンゴ、牛乳、そして隠し味にハチミツと少しのヨーグルト。
これらを氷と一緒にミキサーにかける。
ガーッ!! という音と共に、鮮やかな緑色の液体が出来上がる。
「お待たせしました。『特製グリーンスムージー』です」
私はグラスに並々と注ぎ、長いストローを挿して提供した。
「これなら、ストローで吸うだけで栄養満点ですよ」
『おお……! 液体か! これならいけるかもしれん!』
デュラハンさんは、テーブルに置いた自分の顔の口元に、器用にストローを咥えさせた。
そして、ズズズッ……と吸引する。
『……んッ!!』
兜の中の目が、カッ! と見開かれた。
『う、美味い! 野菜の青臭さがなく、フルーツの甘みが体に染み渡る……! 冷たくてドロリとした喉越しが、乾ききった霊魂を潤していくようだ!』
ズズーッ、ズズーッ!
彼は猛烈な勢いで飲み干した。
首から入ったスムージーが、魔法的な繋がりで胴体の胃袋へ転送されていく(どういう原理かは深く考えないことにした)。
『ふぅ……生き返った(死んでいるが)。こんなに満たされたのは数百年ぶりだ』
デュラハンさんは満足そうに吐息を漏らした。
そして、懐から古びた金貨を一枚取り出した。
『代金だ。……この店はいいな。温かい』
「ありがとうございます。またいつでもどうぞ」
彼はマントを翻し、再び嵐の中へと消えていった。
気絶から目覚めたソフィアが「えっ、お化けは!?」とキョロキョロしている。
「帰りましたよ。美味しいって言ってくれました」
「そ、そうですか……。あー怖かった……」
翌日。
その金貨を鑑定してみると、博物館級の価値がある古代金貨だと判明した。
カフェの売上に大きく貢献してくれたデュラハン様。
それ以来、雨の日になると、たまに裏口の方で「ズズズッ」というスムージーをすする音が聞こえるとか聞こえないとか。
『悪役令嬢カフェ』は、生者にも死者にも優しいお店なのだ。
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