第33話 伝説のドラゴンの面接と、直火焼きレアステーキ
その頃、『カフェ・オアシス』は深刻な人手不足に悩まされていた。
客足が途絶えないのは嬉しい悲鳴だが、コンロの火力が足りない。スープを煮込みながら肉を焼き、パンを焼くには、どうしても手が(そして火が)足りないのだ。
私は店の前に『急募:厨房スタッフ(火属性優遇)』という張り紙を出した。
数日後。
カランカラン、とドアベルが鳴り、熱風と共に一人の青年が入ってきた。
「よう! バイト募集の張り紙を見たんだが!」
燃えるような赤髪をツンツンに逆立てた、野性味あふれる青年だ。
瞳は爬虫類のように縦に割れ、口元からはチラリと鋭い牙が覗いている。
そして何より――全身から漂う熱気がすごい。彼が歩くだけで、観葉植物が少ししおれた気がする。
「いらっしゃいませ。面接希望の方ですか?」
「おう! 俺様はイグニス。種族は『炎竜』だ!」
ガタッ!!
店内でコーヒーを飲んでいたジーク様と魔王様が、同時に椅子を蹴って立ち上がった。
「竜だと……!? Sランク指定の災害級魔獣ではないか!」
「なぜ伝説のドラゴンが、こんなカフェにバイトに来る?」
ジーク様が剣に手をかけるが、イグニス君は鼻を鳴らした。
「腹が減ったからに決まってんだろ! この店から漂う『肉の匂い』が、俺様の巣(火山)まで届いてきてな……居ても立ってもいられねぇんだよ!」
どうやら、私の焼くステーキの匂いは、数百キロ離れた火山にまで届いていたらしい。恐るべし換気扇の威力。
「なるほど、志望動機は『まかない』ですね。分かりやすくて良いです」
「店主!? 冷静すぎないか!?」
「ちょうど火力担当が欲しかったんです。採用試験をします」
私は彼を厨房に招き入れ、分厚いキングボアの肉塊を渡した。
「このお肉を、最高の焼き加減で焼いてみてください。ただし、厨房を燃やしたら不採用です」
「おう、任せとけ! 俺様のブレスにかかればイチコロだぜ!」
イグニス君は肉をフライパンに乗せると、大きく息を吸い込んだ。
胸がカッと赤く発光する。
「お、おい待て! 室内でブレスを……!?」
「ふんぬぅぅぅ……」
ボッ!!!
彼の口から、針のように細く、しかし青白く輝く「超高温の炎」が放射された。
それはレーザービームのように正確に、肉の表面だけを舐めた。
ジュワァァァァァァッ!!!!
爆発的な音と共に、肉の表面が一瞬で焦げ茶色に変わり、香ばしい香りが弾ける。
時間にしてわずか三秒。
「へへっ、完成だ!」
彼が皿に盛ったステーキからは、湯気が立ち上っている。
私はナイフを入れた。
表面はカリッと香ばしく、しかし中は――美しい薔薇色のミディアムレア。肉汁が閉じ込められ、キラキラと輝いている。
「……すごい」
「どうだ! 俺様の炎は1500度から調整可能だぜ!」
私は一口食べた。
口に入れた瞬間、クリスピーな表面の食感と、レア肉の甘みが同時に押し寄せてくる。
これは、普通のコンロでは絶対に出せない味だ。
「合格です! 採用です!」
「やったぜ! じゃあこの肉食っていいか!?」
「ええ、まかない付きですよ」
こうして、カフェに最強の「グリル担当」が加わった。
◇◇◇
その後のランチタイム。
新メニュー『ドラゴン直火焼きステーキ』は、爆発的な人気となった。
「いらっしゃいませ! 焼き加減はどうする!?」
「ウェルダンで頼む!」
「よっしゃ! ふんぬッ!(ブレス発射)」
厨房でドラゴンが火を吹くたびに、客席から「おお〜!」と歓声が上がる。
もはや鉄板焼きのパフォーマンスショーだ。
ジーク様は呆れつつも、ステーキを頬張っている。
「……悔しいが、美味い。肉の旨味が逃げていない」
「我輩の激辛麻婆も、こやつの火力で作ればもっと美味くなるかもしれん」
「パパ! エリザも火吹きたい!」
「それはダメだ!」
イグニス君は大量のまかない肉(給料代わり)を山盛りにし、幸せそうに笑った。
「人間界も悪くねぇな! 毎日こんな美味い肉が食えるなんてよ!」
ただし欠点が一つあるとすれば。
彼が厨房にいると室温が50度を超えてしまい、私が熱中症になりかけることだ。
早急に魔王様に頼んで、『絶対零度エアコン』を導入してもらわなくては。
私のカフェ経営は、設備投資との戦いでもあるのだ。




