表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の引退カフェ経営。静かに暮らしたいのに、元婚約者が「君の淹れる紅茶じゃないとダメだ」と泣きついてくる。知らんがな。  作者: 綾瀬蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/50

第33話 伝説のドラゴンの面接と、直火焼きレアステーキ

 その頃、『カフェ・オアシス』は深刻な人手不足に悩まされていた。

 客足が途絶えないのは嬉しい悲鳴だが、コンロの火力が足りない。スープを煮込みながら肉を焼き、パンを焼くには、どうしても手が(そして火が)足りないのだ。


 私は店の前に『急募:厨房スタッフ(火属性優遇)』という張り紙を出した。


 数日後。

 カランカラン、とドアベルが鳴り、熱風と共に一人の青年が入ってきた。


「よう! バイト募集の張り紙を見たんだが!」


 燃えるような赤髪をツンツンに逆立てた、野性味あふれる青年だ。

 瞳は爬虫類のように縦に割れ、口元からはチラリと鋭い牙が覗いている。

 そして何より――全身から漂う熱気がすごい。彼が歩くだけで、観葉植物が少ししおれた気がする。


「いらっしゃいませ。面接希望の方ですか?」

「おう! 俺様はイグニス。種族は『炎竜レッドドラゴン』だ!」


 ガタッ!!

 店内でコーヒーを飲んでいたジーク様と魔王様が、同時に椅子を蹴って立ち上がった。


「竜だと……!? Sランク指定の災害級魔獣ではないか!」

「なぜ伝説のドラゴンが、こんなカフェにバイトに来る?」


 ジーク様が剣に手をかけるが、イグニス君は鼻を鳴らした。


「腹が減ったからに決まってんだろ! この店から漂う『肉の匂い』が、俺様の巣(火山)まで届いてきてな……居ても立ってもいられねぇんだよ!」


 どうやら、私の焼くステーキの匂いは、数百キロ離れた火山にまで届いていたらしい。恐るべし換気扇の威力。


「なるほど、志望動機は『まかない』ですね。分かりやすくて良いです」

「店主!? 冷静すぎないか!?」

「ちょうど火力担当が欲しかったんです。採用試験をします」


 私は彼を厨房に招き入れ、分厚いキングボアの肉塊を渡した。


「このお肉を、最高の焼き加減で焼いてみてください。ただし、厨房を燃やしたら不採用です」

「おう、任せとけ! 俺様のブレスにかかればイチコロだぜ!」


 イグニス君は肉をフライパンに乗せると、大きく息を吸い込んだ。

 胸がカッと赤く発光する。


「お、おい待て! 室内でブレスを……!?」

「ふんぬぅぅぅ……」


 ボッ!!!


 彼の口から、針のように細く、しかし青白く輝く「超高温の炎」が放射された。

 それはレーザービームのように正確に、肉の表面だけを舐めた。


 ジュワァァァァァァッ!!!!


 爆発的な音と共に、肉の表面が一瞬で焦げ茶色に変わり、香ばしい香りが弾ける。

 時間にしてわずか三秒。


「へへっ、完成だ!」


 彼が皿に盛ったステーキからは、湯気が立ち上っている。

 私はナイフを入れた。

 表面はカリッと香ばしく、しかし中は――美しい薔薇色のミディアムレア。肉汁が閉じ込められ、キラキラと輝いている。


「……すごい」

「どうだ! 俺様の炎は1500度から調整可能だぜ!」


 私は一口食べた。

 口に入れた瞬間、クリスピーな表面の食感と、レア肉の甘みが同時に押し寄せてくる。

 これは、普通のコンロでは絶対に出せない味だ。


「合格です! 採用です!」

「やったぜ! じゃあこの肉食っていいか!?」

「ええ、まかない付きですよ」


 こうして、カフェに最強の「グリル担当」が加わった。


 ◇◇◇


 その後のランチタイム。

 新メニュー『ドラゴン直火焼きステーキ』は、爆発的な人気となった。


「いらっしゃいませ! 焼き加減はどうする!?」

「ウェルダンで頼む!」

「よっしゃ! ふんぬッ!(ブレス発射)」


 厨房でドラゴンが火を吹くたびに、客席から「おお〜!」と歓声が上がる。

 もはや鉄板焼きのパフォーマンスショーだ。


 ジーク様は呆れつつも、ステーキを頬張っている。


「……悔しいが、美味い。肉の旨味が逃げていない」

「我輩の激辛麻婆も、こやつの火力で作ればもっと美味くなるかもしれん」

「パパ! エリザも火吹きたい!」

「それはダメだ!」


 イグニス君は大量のまかない肉(給料代わり)を山盛りにし、幸せそうに笑った。


「人間界も悪くねぇな! 毎日こんな美味い肉が食えるなんてよ!」


 ただし欠点が一つあるとすれば。

 彼が厨房にいると室温が50度を超えてしまい、私が熱中症になりかけることだ。

 

 早急に魔王様に頼んで、『絶対零度エアコン』を導入してもらわなくては。

 私のカフェ経営は、設備投資との戦いでもあるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ