表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の引退カフェ経営。静かに暮らしたいのに、元婚約者が「君の淹れる紅茶じゃないとダメだ」と泣きついてくる。知らんがな。  作者: 綾瀬蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/50

第31話 森の主(熊)の人間化と、女将軍のときめき

 ある日の午後。

 『カフェ・オアシス』のテラス席で、一匹の巨大なグリズリーが深いため息をついていた。

 創業時からの古株、通称「熊さん」だ。


「グルルゥ……(最近、影が薄い気がする)」


 無理もない。

 最近のカフェは、聖獣ルゥが銀髪の美青年に変身して接客したり、魔王様が常連化したりと、キャラの渋滞が起きている。

 ただの「強い熊」では、マスコットとしての地位が危ういのだ。


「あら、熊さん。元気ないわね?」


 私が残り物のパンを持っていくと、熊さんは悲しげな目でそれを受け取った。

 そこへ、エリザ(7歳)がトコトコとやってきた。


「くまちゃん、これたべる?」

「グ?(なんだこれ?)」


 エリザが差し出したのは、魔王様が置いていった『種族進化の木の実(試供品)』だった。


「おじちゃんがね、『これをたべると、なりたい自分になれるよ』って!」

「ガウ!(食べる!)」


 熊さんは迷わず木の実を丸呑みした。

 ルゥのようにシュッとしたイケメンになって、ちやほやされたい。そんな下心が爆発した瞬間――。


 ボフンッ!!


 茶色の煙が森を包み込んだ。


 ◇◇◇


「……く、熊さん?」


 煙が晴れたそこに立っていたのは、ルゥのような「儚げな美青年」ではなかった。


 身長2メートル超え。

 丸太のような太い腕、厚い胸板。

 無精髭を生やした、渋くてワイルドな「ナイスミドル(おじ様)」だった。

 頭には熊耳、お尻には丸い尻尾がついている。


「ガウ……いや、あー、あー。喋れるようになったか?」


 声まで、重低音の渋いバリトンボイスだ。

 ルゥが「王子様系」なら、熊さんは「歴戦の傭兵系」である。


「す、すごいです熊さん! とってもダンディですわ!」

「パパより強そう!」


 騒ぎを聞きつけたセリーヌ様とエリザが目を輝かせる。

 そこへ、ちょうど非番で来店したヒルデガルド将軍が現れた。


「店主、いつものシュークリームを……む?」


 将軍は、テラスに立つ半裸の巨漢(熊さん)を見て足を止めた。

 普段は「筋肉と効率」しか愛さない鉄血の女将軍が、その逞しい肉体を凝視する。


「……なんだ、その見事な大胸筋は。それに、傷だらけの背中……歴戦の猛者か?」

「ガウ?(俺のことか?)」

「ほう、言葉は少ないが、眼光は鋭いな。……悪くない」


 ヒルデガルド将軍の頬が、ほんのりと朱に染まった。

 どうやら彼女の「筋肉フェチ」センサーにクリティカルヒットしたらしい。


「貴様、名はなんと言う? どこの部隊だ?」

「俺は……ただの熊だ」

「謙遜するな。その腕、ただ者ではない。……どうだ? 私と手合わせ(組み手)をしないか?」


 将軍が熱っぽい視線で迫る。

 熊さんは困った。彼はただ、蜂蜜を舐めて昼寝がしたいだけなのだ。


「グルル……(面倒くさい)」

「言葉はいらないと言うのか? いいだろう、体で語り合おうではないか!」


 勘違いした将軍が、大剣を捨ててタックルを仕掛けてきた。

 

 ドスゥッ!!


 熊さんは反射的に、その太い腕で将軍を受け止めた。

 いわゆる「お姫様抱っこ」の状態だ。


「……ッ!?」

「あぶないぞ、人間」

「わ、私の突進を……片手で……!?」


 ヒルデガルド将軍は、目の前にある分厚い胸板と、野性的な髭面を見上げ、完全に乙女の顔になってしまった。


「つ、強い……! これが……『包容力』……!?」


 カァァァッ……と顔を真っ赤にして、将軍はその場で気絶してしまった。


 ◇◇◇


 その後。

 熊さんは「人間姿は肩が凝る」と言って、すぐに元の熊姿に戻ってしまった。

 しかし、ヒルデガルド将軍だけは、その後遺症を引きずっていた。


「……なぁ店主。あの時の『髭の大男』は、もう来ないのか?」

「さあ、気まぐれな方ですからね(目の前で蜂蜜舐めてますけど)」


 将軍は残念そうにシュークリームを齧りつつ、チラチラと熊さん(獣姿)を見ている。


「ふん……まあいい。この熊の背中を見ていると、なぜかあの男を思い出して落ち着くのだ」


 そう言って、彼女は熊さんの背中に寄りかかって休憩し始めた。

 熊さんも、まんざらでもなさそうに「グフッ」と鼻を鳴らしている。


 ルゥとセリーヌ様に続き、ここにもまた新たな異種族カップル(?)が誕生しそうだ。

 『悪役令嬢カフェ』は、今日も種族の壁を超えた愛とカオスに満ちている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ