表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の引退カフェ経営。静かに暮らしたいのに、元婚約者が「君の淹れる紅茶じゃないとダメだ」と泣きついてくる。知らんがな。  作者: 綾瀬蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/50

第30話 十年目の結婚記念日と、変わらない愛の誓い

 その日は、朝からカフェ『オアシス』が臨時休業となっていた。

 理由は、従業員たちによる「ストライキ」――ではなく、「強制休暇命令」が出されたからだ。


「パパ、ママ! きょうはおみせのことなんてわすれて、デートしてきて!」

「そうですよ兄様。たまには夫婦水入らずで過ごしていただかないと、こちらの身が持ちませんわ(砂糖を吐きすぎて)」

「店長、ここは私たちに任せてください!」


 娘のエリザ、妹のセリーヌ、そして弟子のソフィアに背中を押され、私とジーク様は店を追い出されてしまった。

 今日は、私たちの十回目の結婚記念日なのだ。


「……追い出されてしまったな」

「ふふ、そうですね。では、お言葉に甘えましょうか」


 ジーク様は皇帝の正装ではなく、出会った頃のようなラフなシャツ姿。私もエプロンを外し、お気に入りの白いワンピースに着替えていた。

 私たちは手を繋ぎ、懐かしい森の小道を歩き出した。


 ◇◇◇


 向かった先は、店の裏手にある小高い丘。

 かつて、過労で倒れそうだった私を、ジーク様が連れ出してくれた「逃避行」の場所だ。


「懐かしいな。あの頃の君は、今にも消えてしまいそうだった」

「ジーク様もですよ。目の下にクマを作って、殺気立っていました」


 私たちは草の上に座り、私が作ったサンドイッチを広げた。

 王宮の豪華なフルコースもいいけれど、こうして二人で空を見上げながら食べる食事が、一番贅沢だ。


「レティシア」


 食べ終えると、ジーク様が真剣な瞳で私を見つめた。


「十年だ。……長いようで、あっという間だった」

「ええ。毎日が騒がしすぎて、退屈する暇もありませんでしたね」

「俺は……君を幸せにできているだろうか?」


 世界最強の皇帝陛下が、不安そうな顔をしている。

 彼はいつだって、私のことになると臆病だ。


「君は本来なら、王宮でかしずかれて暮らすべき女性だ。なのに、こんな辺境で働かせて、苦労をかけて……」

「ジーク様」


 私は彼の手を両手で包み込んだ。


「私、今『悪役令嬢』として、とっても幸せなんですよ?」

「悪役令嬢?」

「はい。だって、大国の皇帝を独り占めして、可愛い娘を我が物顔で育てて、魔王様まで顎で使っているんですもの。世界一贅沢で、強欲な女でしょう?」


 私が悪戯っぽく笑うと、ジーク様はぽかんとして、それから吹き出した。


「ははっ! 違いない。君には勝てないな」


 彼は懐から、小さな小箱を取り出した。


「記念日のプレゼントだ。……受け取ってくれるか?」


 開かれた箱の中には、七色に輝く宝石のネックレスが入っていた。

 『虹色水晶プリズム・クリスタル』。

 見る角度によって色を変える、世界に一つだけの宝石だ。


「綺麗……」

「君との毎日は、この宝石のように色鮮やかだ。……これからも、俺の人生を彩ってほしい」

「はい。喜んで」


 ジーク様が私の首にネックレスをかけ、そのまま肩を抱き寄せた。

 触れ合う体温。重なる吐息。

 十年経っても、胸の高鳴りは初めてキスをしたあの日と変わらない。


「愛しているよ、レティシア。昨日よりも、今日よりも。……明日はもっと」

「私も愛しています、ジーク様」


 木漏れ日の中で交わした口づけは、蜂蜜のように甘く、長く続いた。


 ◇◇◇


 夕方。

 手を繋いで店に戻ると、クラッカーの音が鳴り響いた。


「「「おかえりなさーい!!」」」


 店内は飾り付けられ、テーブルには豪華な料理が並んでいた。

 エリザ、セリーヌ、ソフィア、魔王様、ルゥ、ヒルデガルド将軍……。

 私たちの大切な家族全員が、笑顔で迎えてくれた。


「パパ、ママ! おめでとう!」

「お二人とも、顔が緩みっぱなしですわよ〜!」

「我輩からの祝いだ、最高級の酒を持ってきたぞ!」


 ジーク様は照れくさそうに、でも誇らしげに胸を張った。


「ああ、ただいま。……最高の記念日だったよ」


 賑やかな宴が始まる。

 笑い声が絶えない、温かな食卓。

 

 婚約破棄され、すべてを失ったと思っていたあの日。

 でも、失ったからこそ、私はこの場所に辿り着けた。


 『悪役令嬢カフェ』。

 そこは、行き場をなくした者たちが集い、世界で一番幸せな「家族」になれる場所。


 私の物語は、ここで一旦幕を閉じる。

 けれど、この温かい湯気と甘い香りの向こうで、私たちの毎日はこれからも続いていくのだ。


 ――本日はご来店、ありがとうございました!

 皆様の明日に、素敵な「美味しい幸せ」がありますように。

最後までお読みいただきありがとうございます。


『おもしろい』『続きが見たい』と思いましたら…


下にある☆☆☆☆☆から、作品への評価をお願いします。


面白かったら星5つ、正直な感想で構いません。


ブックマークもしていただけると嬉しいです。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ