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悪役令嬢の引退カフェ経営。静かに暮らしたいのに、元婚約者が「君の淹れる紅茶じゃないとダメだ」と泣きついてくる。知らんがな。  作者: 綾瀬蒼


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第28話 南の島のバカンスと、魔王印の『極上かき氷』

 南国のバカ王子の一件から数日後。

 国からの正式な謝罪と招待を受け、私たちは『カフェ・オアシス』を臨時休業し、南の島へバカンスに来ていた。


「うわぁ〜! 海だー! おっきいー!」


 真っ白な砂浜、エメラルドグリーンの海。

 麦わら帽子を被ったエリザ(6歳)が、浮き輪を抱えてはしゃいでいる。


「……暑い。我輩は溶けてしまいそうだ」

「文句を言わないでください、ヴェルニヤ様。日焼け止めならありますわよ」


 パラソルの下では、黒い水着姿のセリーヌ様が、ぐったりしている魔王様に冷たいジュースを渡している。

 そして。


「……レティシア」

「はい、ジーク様」

「その……水着は、少し布面積が少なくないか?」


 ジーク様(アロハシャツ着用)は、私の水着姿を見て顔を赤くし、タオルで隠そうとしてくる。

 普通のワンピースタイプの水着なのだけれど、過保護な旦那様には刺激が強かったらしい。


「レティシアさん! こっちです! いい波が来てますよ!」


 元気に手を振っているのは、故郷に凱旋したソフィアだ。

 彼女の案内で、私たちはプライベートビーチを満喫していた。


 しかし、問題が一つあった。

 

「……暑すぎる」


 南国の日差しは容赦ない。

 冷たい飲み物はすぐにぬるくなり、子供たちもバテ気味だ。

 この国には「冷やす魔法」の使い手が少なく、氷菓子といえば「氷砂糖」くらいしかないらしい。


「……よし。やりますか」


 私は立ち上がった。

 元カフェ店主の血が騒ぐ。暑いなら、涼しいものを作ればいいじゃない!


「魔王様、ちょっと氷を出していただけませんか? 極上のやつを」

「ん? 氷など造作もないが……何に使う?」

「ジーク様は、その聖剣で氷を薄く削ってください。ミクロン単位でお願いします」

「料理に聖剣を使うのか!?」


 ◇◇◇


 数分後。

 ビーチの一角に、即席の『出張カフェ・オアシス』がオープンした。


「いらっしゃいませー! 特製『ふわふわかき氷』はいかがですかー!」


 私の声に、暑さに参っていた現地の人々や観光客が集まってくる。


 器に盛られているのは、雪のように真っ白でフワフワな氷。

 ジーク様が神速の剣技で削り出した氷は、口に入れた瞬間に溶ける奇跡の食感だ。

 その上には、ソフィアが用意した完熟マンゴーとパッションフルーツの濃厚ソースがたっぷりとかかっている。


「なんだこれは!? 冷たい! 頭がキーンとしない!」

「フルーツの甘みと氷の清涼感が最高だ!」

「生き返るぅぅぅ!」


 飛ぶように売れていく。

 魔王様も「……ほう。悪くない」と言いながら、舌を黄色くしてマンゴー味を食べている。


 その時だった。

 

 ズザザザザッ……!!


 海面が盛り上がり、巨大な触手が何本も飛び出した。

 現れたのは、船をも沈める海の魔物、クラーケンだ。


「ギャァァァ!! 魔物だー!!」

「かき氷の甘い匂いに釣られて出てきたのか!?」


 人々がパニックになって逃げ惑う。

 せっかくのバカンスが台無しだ。


「……おい、イカ」


 ジーク様がかき氷のスプーンを置き、スッと立ち上がった。

 その背後には、同じく不機嫌な魔王様と、人間の姿になった聖獣ルゥが並ぶ。


「俺たちの『家族サービス』を邪魔するとは……いい度胸だな?」

「我輩のかき氷に砂が入ったぞ。万死に値する」

「俺は腹が減った。……イカ焼きが食いたい」


 世界最強の男たちが殺気を放つ。

 クラーケンは「ヒッ!?」と青ざめた(ように見えた)が、時すでに遅し。


 ドォォォォォン!!


 一瞬だった。

 魔法と剣技の乱舞により、巨大クラーケンは瞬く間に「下処理済みの食材」へと変わった。


 ◇◇◇


「はい、お待たせしました! 『特製・焼きイカ』です! 醤油の香ばしい香りがたまりませんよ!」


 数分後。

 かき氷屋の隣に、焼きイカ屋がオープンしていた。

 新鮮なイカを鉄板で焼き、特製ダレを絡めた一品は、かき氷で冷えた体に最高に合う。


「うめぇぇぇ! 魔物がこんなに美味いなんて!」

「甘いかき氷と、しょっぱいイカの無限ループだ!」


 ビーチはさっき以上の大盛況となった。

 エリザも口の周りを醤油だらけにして、焼きイカを頬張っている。


「ママ! イカさんおいしいね!」

「ふふ、そうね。海からの贈り物ね」


 ソフィアが感極まったように呟く。


「……魔物襲撃すら『イベント』に変えてしまうなんて。やっぱりレティシア様のお店は最強です」


 南国の太陽の下。

 私たちのバカンスは、お腹も心も満たされて、最高のものとなったのだった。

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