第22話 娘の学園お受験と、魔王直伝の『護身魔法』
時は流れ、愛娘エリザは6歳になった。
今日は、帝国屈指の名門校『帝国立魔法学園・初等部』の入学試験日だ。
「ううっ……エリザ……本当に行くのか? パパと離れて暮らすなんて……」
「パパ、なかないで。寮にはいるわけじゃないよ? 毎日おうちに帰るよ?」
朝のカフェ『オアシス』にて。
真新しい紺色のブレザーに袖を通したエリザが、ボロボロ泣いている父親(皇帝)の背中をさすっていた。
ジーク様は「いっそ学園を王宮の敷地内に移築するか……」と危険な独り言を呟いている。
「ほらジーク様、鼻をかんで。エリザ、ハンカチとティッシュは持った?」
「うん! あと、おじちゃん(魔王)がくれた『非常用魔石』と、ママ特製の『マドレーヌ』も持ったよ!」
私はエリザのリュックを確認し、背中をポンと叩いた。
「いい? 先生の言うことをよく聞いて、魔法を使う時は『手加減』よ。半分……いいえ、十分の一くらいの力でね」
「はーい!」
一抹の不安を抱えつつ、私たちは試験会場へと向かった。
◇◇◇
試験会場には、緊張した面持ちの貴族の子供たちが集まっていた。
試験内容は二つ。『魔力測定』と『実技面接』だ。
まずは魔力測定。水晶玉に手を触れ、その輝きで魔力量を測るというオーソドックスなものだ。
「次、エリザ・フォン・ガルディア様」
試験官に呼ばれ、エリザがトコトコと水晶の前に立つ。
周りの親たちが「あれが噂の皇女殿下か」「カフェの娘だろう?」とざわめく。
「では、手を乗せてください」
「はい!」
エリザが小さな手を水晶に乗せた。
その瞬間。
カッッッ!!!!
太陽が爆発したような閃光が走り、会場中がホワイトアウトした。
「目が、目がぁぁぁ!!」
「な、なんだこの魔力は!?」
パリーン!!
小気味よい音がして、測定用の水晶(国宝級)が粉々に砕け散った。
「あちゃー……」
「……またやったか」
保護者席の私とジーク様は同時に顔を覆った。
エリザは「あれ? 壊れちゃった。もろいねぇ」と無邪気に首を傾げている。
試験官は泡を吹いて倒れかけていたが、なんとか気を取り直して次の実技へと進んだ。
◇◇◇
続いて、実技面接。
中庭にて、的に向かって得意な魔法を披露するというものだ。
「ではエリザ様。何か簡単な攻撃魔法を見せていただけますか? 小さな火の玉などで結構ですので」
試験官の先生が優しく促す。
エリザは少し考え込み、ニコッと笑った。
「わかった! じゃあ、おじちゃんに教えてもらった『ごしん(護身)まほう』をやるね!」
「ほう、護身ですか。感心ですねぇ」
先生が微笑ましく見守る中、エリザはスッと右手を掲げた。
そして、無邪気な声で詠唱する。
「――深淵より来たりて、全てを無に還せ。極大消滅呪文!」
ズオォォォォォォッ……!!
上空に直径50メートルほどの『ブラックホール』が出現した。
周囲の空気、光、音、そして的のカカシが一瞬にして吸い込まれ、消滅していく。
学園の結界が悲鳴を上げ、校舎のガラスがビリビリと震える。
「ぎゃああああああ!!」
「ご、護身!? これのどこが護身だぁぁぁ!?」
「世界が終わるぞぉぉぉ!!」
先生たちが抱き合って絶叫する。
私は慌てて止めに入った。
「エリザ! ストップ! それは『国を滅ぼす時に使うやつ』でしょ! もっと可愛いやつにして!」
「えー? じゃあ……『プチ・メテオ』!」
エリザが杖を振ると、ブラックホールが消え、代わりに空から燃え盛る隕石(直径2メートル)が降ってきた。
「ぜんぜんプチじゃなーい!!」
結局、ジーク様が剣で隕石を一刀両断し、事なきを得た。
校庭には巨大なクレーターができ、先生たちは腰を抜かして白目を剥いている。
エリザは不思議そうに私を見た。
「あれぇ? おじちゃん(魔王)は『悪い虫がつかないように、これくらいはやれ』って言ってたよ?」
「おじちゃんには後でお説教しておきます(怒)」
◇◇◇
試験終了後。
学園長室に呼び出された私たちは、土下座せんばかりの勢いで学園長(震えている)から合格通知を渡された。
「ご、合格です……! 文句なしの主席です……! ですので、どうか校舎だけは破壊しないでください……!」
「ご迷惑をおかけしました。お詫びにこれを」
私は持参した『特製マドレーヌ(精神安定効果付き)』を箱ごと差し出した。
一口食べた学園長は、涙を流して落ち着きを取り戻した。
「……はぁ、美味しい。生きているって素晴らしいですね」
帰り道。
エリザは合格通知を胸に抱き、ジーク様と手をつないで歩いていた。
「パパ、みてみて! ごうかくだよ!」
「ああ、すごいぞエリザ。……だがパパは心配だ。あんな魔法を使ったら、男の子たちが怖がって近寄ってこないんじゃないか?」
ジーク様が本気で心配している。
私は苦笑した。
「あら、いいじゃないですか。悪い虫除けには最適ですよ」
「……それもそうか。よし、入学祝いにパパがもっと強い結界魔法を教えてやろう」
「あなたも余計なことを教えないでください!」
最強幼女の学園生活は、入学前から波乱の予感しかない。
とりあえず、明日からのお弁当には、先生へのお詫び用クッキーを常備させておこうと、私は心に誓ったのだった。




