第20話 未来から来た美少女と、パパの精神崩壊
ある日の午後。
『カフェ・オアシス』の裏庭で、魔王ヴェルニヤ様と、4歳のエリザが遊んでいた。
「見ておれエリザ。これが我輩の新作魔法『時空転移ゲート(おやつ取り寄せ用)』だ」
「わぁ〜! すごーい! おじちゃんてんさーい!」
魔王様が調子に乗って魔力を注ぎ込んだ、その時。
カッッッ!!
魔法陣が暴走し、目がくらむような閃光が走った。
ドォォン! という音と共に、庭に煙が立ち込める。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
店番をしていたジーク様(現皇帝)が、剣を抜いて飛び出してきた。
私も慌ててお玉を持ったまま駆けつける。
「ゲホッ……すまん、出力を間違えた」
煙の中から魔王様と、無傷のエリザが出てきた。
しかし、そこにはもう一人、見知らぬ人影が立っていた。
「……あれ? ここ、は……?」
煙が晴れると、そこにいたのは一人の少女だった。
透き通るような銀色の髪に、アメジスト色の瞳。
背筋がスッと伸びた立ち姿は優雅で、この世のものとは思えない美少女だ。年齢は16歳くらいだろうか。
ジーク様が息を呑んだ。
「……美しい。だが、どこかで見たような……」
少女はキョロキョロと周囲を見渡し、私とジーク様を見つけると、信じられないものを見るように目を見開いた。
「嘘……お父様? それに、お母様?」
「「えっ?」」
お父様。お母様。
その言葉に、私たちは固まった。
銀髪に、紫の瞳。そして、私が若い頃に着ていたエプロンによく似たドレス。
「まさか……エリザ、なのか?」
ジーク様が震える声で尋ねると、少女――未来のエリザは、花が咲くように微笑んだ。
「はい! まあ、懐かしい……! 私、子供の頃に戻ってしまったのね!」
彼女は駆け寄ってきて、ジーク様と私を交互に抱きしめた。
「会いたかったです! 今の時代のお父様たちは、こんなに若かったのですね!」
「お、俺の娘が……こんな絶世の美女に育つとは……!」
ジーク様は感涙し、未来の娘を抱きしめ返した。
足元では、4歳のエリザ(チビザ)が「おねえちゃん、だれー?」と不思議そうに見上げている。
「貴女が私なのね。ふふ、食いしん坊な顔をしているわ」
「えへへ、おねえちゃん、きれい!」
大小のエリザが並ぶ光景は、眼福以外の何物でもなかった。
◇◇◇
せっかくなので、私は未来の娘に特製ランチを振る舞うことにした。
メニューは、彼女のリクエストで『懐かしのオムライス』。
「ん〜っ! 美味しい! やっぱりお母様の味が世界一ですわ!」
未来エリザは、上品な手つきながらも、凄まじいスピードでオムライスを平らげていく。
その食べっぷりは、間違いなく私の娘だ。
「それで、未来のエリザ。将来の夢は叶ったのか?」
ジーク様がデレデレしながら尋ねた。
「はい! 私、王宮の料理長兼、外交官として働いていますの」
「おお! 素晴らしい! やはり俺の娘は天才だな!」
「それに……来月、結婚するんです」
ピシッ。
ジーク様の動きが止まった。
店内の時が止まった。
「……け、けっこん?」
「はい。とっても素敵な方なんですよ。小さい頃、私の『お弁当』を食べて感動してくれたのがきっかけで……ずっと仲良しで」
未来エリザは頬を染めて、左手の薬指を輝かせた。
それを見た瞬間。
ガターン!!
ジーク様が椅子から転げ落ち、床に突っ伏した。
「嘘だ……嘘だと言ってくれ……! 俺のエリザが……どこの馬の骨とも知らん男に……!」
「あら、お父様ったら。未来でも同じ反応をしていましたわよ?」
「許さん! パパは許さんぞぉぉぉ! その男を今すぐ連れてこい! デュエルだ!!」
ジーク様が半狂乱になって暴れだした。
未来エリザは「ふふ、お父様ったら相変わらずね」と余裕の笑顔だ。
どうやら未来のジーク様も、相当な親バカらしい。
その時、エリザの体が光り始めた。
魔王様の魔法の効果が切れてきたようだ。
「あら、もう時間みたい」
「行っちゃうのかい、エリザ?」
「はい。……お母様、お父様。私、とっても幸せになりますから。安心して育ててくださいね」
彼女は最後に、4歳のエリザの頭を撫でた。
「いっぱい食べて、いっぱい笑ってね。素敵な未来が待っているから」
「うん! ばいばーい!」
光の粒子となって、未来のエリザは消えていった。
あとに残ったのは、温かいオムライスの空き皿と、
「結婚……結婚……ううぅ……」とうなされ続ける、現皇帝陛下の屍だけであった。
◇◇◇
その夜。
ジーク様は4歳のエリザを抱きしめて離さなかった。
「エリザ……約束してくれ。パパ以外の男の作った料理は食べないって」
「うーん? おいしかったらたべるよ?」
「ガハッ……(吐血)」
最強のパパの試練は、まだまだ続きそうだ。
けれど、あんなに素敵に笑うお嬢さんに育つのなら。
私たちの子育ても、きっと間違いじゃない。
「さあ、明日も美味しいご飯を作りましょうか」
私は夜空を見上げて微笑んだ。
過去も、現在も、未来も。
『悪役令嬢カフェ』には、いつだって笑顔と「ごちそうさま」が溢れているのだから。
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