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悪役令嬢の引退カフェ経営。静かに暮らしたいのに、元婚約者が「君の淹れる紅茶じゃないとダメだ」と泣きついてくる。知らんがな。  作者: 綾瀬蒼


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第18話 エリザのはじめてのおつかいと、最強のストーカー部隊

 月日は流れ、エリザは4歳になった。

 天使のような愛らしさと、大人顔負けの食への執着を持つ彼女は、カフェの看板娘として皆に愛されていた。


 ある日の朝。エリザはエプロンのポケットをギュッと握りしめ、私とジーク様に宣言した。


「パパ、ママ! エリザ、きょうは『ほしふるイチゴ』をとってくるの!」


 『星降るイチゴ』とは、森の奥深くにしか自生しない、宝石のように甘い幻の果実だ。

 明日はジーク様の誕生日。どうやら、パパのためにケーキの材料を採りに行きたいらしい。


「なっ……森の奥だって!? ダメだ、危ない! パパと一緒に行こう!」


 ジーク様(現皇帝)が即座に抱き上げようとするが、エリザはぷいっと顔を背けた。


「だめ! パパへのプレゼントだもん! ひとりで行くの!」

「ぐふっ……(尊死)」


 愛娘の健気な言葉に、ジーク様は胸を押さえてよろめいた。

 私はニコニコとエリザの頭を撫でる。


「偉いわね、エリザ。でも、森は広いから気をつけてね?」

「うん! ルゥちゃんと一緒だもん!」

「わふっ!(任せろ!)」


 護衛役の聖獣ルゥ(フェンリル)が、頼もしく胸を張る。

 私は「はじめてのおつかい」用のポシェット(防犯ブザーと魔石入り)をエリザに掛け、送り出した。


「いってきまーす!」


 エリザが元気よく森へと駆けていく。

 その背中が見えなくなった瞬間――。


「……行くぞ」

「おう」


 厨房の裏口から、黒い影たちが一斉に飛び出した。


 1. ジークフリード皇帝(親バカ)

 2. ヴェルニヤ魔王(叔父バカ)

 3. グリズリー(森の主)

 4. セリーヌ皇女&ヒルデガルド将軍(隠密装備)


 世界最強の戦力が結集した、史上最悪のストーカー部隊の結成である。


 ◇◇◇


 森の中。エリザはルゥの背中に乗り、楽しそうに歌を歌いながら進んでいた。


「ある〜こ〜♪ ある〜こ〜♪ おやつは〜げんき〜♪」


 平和な光景だ。

 だが、その半径50メートル以内の草むらでは、熾烈な戦いが繰り広げられていた。


 ガサッ!

 エリザの進路上に、凶暴なオークが現れようとする。


「……消えろ」

「滅せよ」


 ドシュッ!!

 ジーク様の飛剣と、魔王様の闇魔法が同時に炸裂。

 オークは声を上げる間もなく、分子レベルで消滅した。


「あれ? いま何かいた?」

「わふっ(気のせいだ)」


 エリザが首を傾げるが、そこには風が吹いただけだった。


 さらに進むと、増水した川が行く手を阻む。


「あーん、わたれないよぅ」

「チッ、整備不足だ。……氷結アイス・エイジ


 草陰のジーク様が指を振るうと、川が一瞬にして凍りつき、美しい氷の橋が出来上がった。


「わあ! すべり台だー!」

「わふーん!(楽しいー!)」


 エリザとルゥは氷の橋を滑り台にして、キャッキャと渡っていく。

 その様子を、大人たちは涙ながらに見守る。


「見たかヴェルニヤ。あの子の滑り方、俺にそっくりだ……」

「黙れ親バカ。バレるぞ」


 ◇◇◇


 そして、ついに森の最奥。『星降るイチゴ』の群生地に到着した。

 だが、そこには先客がいた。

 Sランク魔獣『キング・コング』だ。見上げるような巨体が、イチゴ畑を守っている。


「まずい! あれは危険だ!」


 ジーク様が飛び出そうとした、その時。


「ねえねえ、おさるさん」


 エリザがトコトコとコングに近づき、上目遣いで見上げた。


「そのイチゴ、パパにあげたいの。……ひとつ、ちょうだい?」


 コングが唸り声を上げ、エリザを見下ろす。

 そして――。


 ズキューン!!(ハートを射抜かれる音)


「ウホッ……(どうぞ……)」


 コングは頬を赤らめ、一番大きくて赤いイチゴを丁寧に摘み取り、エリザの小さな手に乗せた。

 まさかの「幼女の魅力チャーム」による平和的解決。


「ありがとう! おさるさん、やさしいね!」


 エリザはニッコリ笑って、コングの足を撫でた。

 コングは感涙して天を仰いでいる。


「……血筋だな」

「ああ、レティシアの『餌付けスキル』と、俺の『カリスマ』が融合している……」


 大人たちは戦慄しながら、安堵のため息をついた。


 ◇◇◇


 夕方。カフェ『オアシス』。

 先回りして何食わぬ顔で待機していたジーク様のもとに、泥んこになったエリザが帰ってきた。


「パパ! ただいま!」

「おかえり、エリザ! 寂しかったぞ!」

「これ、あげる!」


 エリザがポシェットから取り出したのは、少し潰れてしまったけれど、真っ赤に熟した『星降るイチゴ』だった。


「パパ、あしたおたんじょうびでしょ? だからね、エリザがとってきたの!」


 その言葉に、皇帝陛下の涙腺が決壊した。


「うっ、うぅ……! ありがとう、エリザ……! パパは世界一幸せ者だぁぁ!」

「パパ、なかないで? よしよし」


 号泣して娘に抱きつく父と、それを慰める4歳の娘。

 私は苦笑しながら、その光景を眺めていた。


「あらあら。……でも、皆様もお疲れ様でした」


 私はカウンターの奥に、泥だらけで帰ってきた「影の護衛部隊(魔王様たち)」のために、特大のスペシャル・パフェを用意した。

 彼らがこっそり守ってくれていたことは、エリザには内緒だ。


 ――こうして、エリザの「はじめてのおつかい」は大成功に終わった。

 

 このカフェでの毎日は、これからもきっとドタバタで、甘くて、温かい。

 元悪役令嬢レティシアの物語は、愛しい家族たちと共に、いつまでも続いていくのだった。

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