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悪役令嬢の引退カフェ経営。静かに暮らしたいのに、元婚約者が「君の淹れる紅茶じゃないとダメだ」と泣きついてくる。知らんがな。  作者: 綾瀬蒼


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第17話 爆誕! 最強の赤ちゃん、初泣きで国を揺らす

 その日、カフェ『オアシス』を中心とした半径数キロメートルの森が、物理的に震えた。


「うおおおおお!! レティシア! レティシアぁぁ!!」

「うるさいですわ兄様! 落ち着いてください!」

「ひぃぃ! ジーク様が放つ魔力で、店の窓ガラスが割れそうです!」


 カフェの二階、寝室の前。

 大陸最強の皇子ジークフリードは、完全にパニックに陥っていた。

 中で、妻であるレティシアの出産が始まったからだ。


「俺が変わってやりたい……! くそっ、なぜ男には産めないんだ!」

「落ち着けジークよ。余もカイルが産まれた時は、王宮の柱をへし折ったものだ」

「陛下、それは何の慰めにもなりません」


 廊下には、ジーク様、ライオネル国王、そしてなぜか魔王ヴェルニヤ様までが待機していた。

 魔王様は「我輩の加護がある子が、そう簡単にくたばるものか」と腕組みしているが、その貧乏ゆすりは止まっていない。


 そして――。


 オギャアアアアアッ!!


 元気な産声が、屋敷中に響き渡った。

 その瞬間。


 ドオォォォォン!!


 産声に合わせて衝撃波が発生し、カフェの屋根から大量の雪(季節外れの桜吹雪?)が舞い上がった。

 森中の魔力が渦を巻き、空に巨大な虹がかかる。


「……な、なんだ今の魔力は!?」

「産声だけで天候を変えただと……!?」


 男たちが愕然とする中、扉が開いた。

 汗だくの産婆(王宮筆頭医官)が、満面の笑みで出てくる。


「おめでとうございます! 元気な女の子ですよ!」


 ◇◇◇


「……可愛い」


 ベッドの上で、私は生まれたばかりの我が子を抱きしめた。

 ふわふわの銀色の髪はジーク様譲り。

 ゆっくりと開いた瞳は、私と同じアメジスト色だが、奥底に魔王様のような強い光を宿している。


 名前は、二人で決めていた。

 『エリザ』。


「よく頑張ったな、レティシア」


 部屋に入ってきたジーク様は、私とエリザを見ると、ボロボロと涙を流して膝をついた。


「ああ……なんて小さいんだ。壊れてしまいそうだ」

「抱っこしてあげてください、パパですよ」

「パ、パパ……!」


 ジーク様は震える手で、恐る恐るエリザを受け取った。

 その瞬間、エリザがキャッキャと笑い、小さな手をジーク様の頬に伸ばした。


 バチバチッ!

 ジーク様の頬に、小さな静電気が走る。


「……っ!? こ、これは……」

「どうしました?」

「今、俺の魔力が吸い取られたぞ? しかも、代わりに活力を与えられた……」


 後ろから覗き込んだ魔王様が、面白そうに目を細めた。


「ほう。生まれながらにして『魔力吸収』と『譲渡』のスキル持ちか。しかも無自覚に魅了チャームを振り撒いておる。……こりゃあ、末恐ろしいな」

「魅了……?」

「見ろ。あの堅物たちがどうなっているか」


 魔王様が指差した先には、ライオネル国王と、いつの間にか到着していた帝国皇帝オズワルド様がいた。

 二人の国王は、エリザを見た瞬間、デレデレに顔を崩壊させていた。


「ばぶぅ……だと? 天使か? 天使なのか?」

「帝国の全財産を譲ろう。孫よ、何が欲しい? 城か? 国か?」


 早くも二つの大国が、一人の赤子によって陥落していた。


 エリザはそんな大人たちの反応などどこ吹く風。

 私の胸元に顔を埋め、クンクンと匂いを嗅いでいる。


「あら、お腹が空いたのかしら?」

「いや、違うな。レティシア、厨房から甘い匂いがしていないか?」

「ええ、今日はセリーヌ様がプリンを焼いていますけど……」


 エリザは厨房の方角をじっと見つめ、口をもぐもぐさせ、それから満足そうに「あーうー(プリンだわ)」と呟いた。


「……レティシア」

「はい」

「この子は間違いなく、君の子だ。食い意地(グルメな才能)まで引き継いでいる」


 ジーク様は愛おしそうに、私とエリザをまとめて抱きしめた。


「世界で一番、愛しているよ。俺の宝物たち」


 こうして爆誕した最強のベビー、エリザ。

 彼女は、

 ・父から「膨大な魔力と美貌」を、

 ・母から「鋼のメンタルと食への執着」を、

 ・魔王から「加護」を、

 ・二人の祖父(国王・皇帝)から「権力」を受け継いだ。


 この子が将来、どんな『悪役令嬢(物理)』に育つのか……今はまだ、誰も知らない。

 ただ一つ確かなのは、カフェ『オアシス』が、ますます騒がしくなるということだけだ。


「よし、今日から店は『離乳食カフェ』も始めるぞ!」

「気が早いですわよ兄様!!」

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