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悪役令嬢の引退カフェ経営。静かに暮らしたいのに、元婚約者が「君の淹れる紅茶じゃないとダメだ」と泣きついてくる。知らんがな。  作者: 綾瀬蒼


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第14話 元悪役令嬢、帝国舞踏会で『ざまぁ』返しをする

 帝国での生活が安定してきた頃。

 王宮にて、年に一度の『建国記念舞踏会』が開催されることになった。


 これは各国の要人が集まる一大イベントであり、当然、私の祖国(王国)からも貴族たちが招待されている。


「……本当に出なければなりませんか?」

「ああ。君には、俺の『パートナー』として隣に立っていてほしい」


 ジーク様が、これ以上ないほど真剣な顔で頭を下げてきた。

 さらに、セリーヌ様と皇帝陛下までもが、「レティシアが出ないなら、料理がマズくなるから中止だ!」と騒ぎ立てている。


 仕方がない。

 私は覚悟を決めて、数ヶ月ぶりにエプロンを脱ぎ、コルセットを締めることにした。


 ◇◇◇


 舞踏会当日。

 シャンデリアが輝く大広間は、着飾った貴族たちで埋め尽くされていた。


 その一角に、見覚えのある顔ぶれが固まっていた。

 王国の貴族たちだ。


「おい、聞いたか? あの『悪役令嬢』レティシアが、この国にいるらしいぞ」

「フン、どうせ薄汚い店で、日銭を稼いでいるのだろう?」

「王太子殿下に捨てられた女が、よくものうのうと生きていられるものだ」


 彼らは扇子で口元を隠しながら、相変わらずの陰口を叩いている。

 カイル殿下が廃嫡された後も、彼らの私に対する「蔑み」の意識は変わっていないらしい。


 その時。

 ファンファーレが高らかに鳴り響いた。


『――ガルディア帝国第二皇子、ジークフリード殿下! 並びに、そのパートナーの入場です!』


 重厚な扉がゆっくりと開く。

 大階段の上に現れた二人の姿に、会場中の視線が釘付けになった。


 漆黒の正装に身を包んだ、美貌の皇子ジークフリード。

 そして、その腕に手を添えているのは――。


「……な、なんだあの美女は……!?」

「どこの国の姫君だ?」


 どよめきが走る。

 それは、カフェの店主としての私ではない。

 公爵令嬢として培った立ち居振る舞いと、セリーヌ様が選び抜いた『深紅のドレス』を纏った、完全武装モードの私だ。

 化粧も髪型も完璧。背筋を伸ばし、冷ややかな微笑みを浮かべて階段を降りていく。


「……まさか、レティシアか!?」

「馬鹿な! あんなに美しかったか!?」


 王国の貴族たちが、幽霊でも見たかのように目を剥いている。

 かつて「地味でつまらない女」と私を嘲笑っていた連中が、今はただ、私の姿に見惚れ、圧倒されている。


(……ふふ、いい気味)


 私は内心でガッツポーズをした。

 最高の『ざまぁ』返しだ。


 ホールの中央に辿り着くと、一人の男爵が震える声で話しかけてきた。


「れ、レティシア嬢……? まさか、貴女が皇子殿下のパートナーなどと……」

「お久しぶりですわね」


 私は優雅に扇を開いた。


「ええ、現在は帝国でカフェを経営しつつ、ジーク殿下の個人的なご相談役(栄養管理)を務めさせていただいておりますの」

「そ、そんな……追放された身で……」

「何か文句があるか?」


 低い声が割り込んだ。

 ジーク様が、私を守るように前に出る。その瞳は氷のように冷たい。


「彼女は、帝国の『食』を救った英雄であり、我が国にとってなくてはならない至宝だ。……彼女を侮辱する者は、この私が許さんぞ」

「ひぃッ……!」


 さらに、皇帝陛下までもが玉座から降りてきた。


「うむ! レティシア殿のハンバーグがなければ、余はもう生きていけん! 彼女を悪く言う国とは、国交を断絶する!」

「わたくしもですわ! お義姉様をいじめる奴は、このセリーヌが許しません!」


 皇帝、皇子、皇女。

 帝国のロイヤルファミリー全員が、私のバックについて睨みを利かせている。

 王国の貴族たちは顔面蒼白になり、「し、失礼いたしましたぁぁ!」と蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


 ――勝った。

 私は扇の下でニヤリと笑った。


 会場に静寂が戻ると、音楽が変わった。

 ゆったりとしたワルツの調べ。


「……レティシア」


 ジーク様が、改めて私に向き直り、片膝をついた。

 会場中の息が止まる。


「今日は、君に見せたいものがあった」


 彼が取り出したのは、小さな小箱。

 開かれた中には、私の瞳と同じ色をした、大粒のサファイアの指輪が輝いていた。


「ジーク、様……?」

「もう、待てない」


 彼は熱っぽい瞳で私を見上げ、告げた。


「君の淹れる紅茶も、君の作る料理も、君の笑顔も……俺が一生独り占めしたい。……俺と、結婚してくれないか?」

「…………!」


 公衆の面前での、正真正銘のプロポーズ。

 

 返事は決まっている。

 私のスローライフを邪魔せず、私の料理を世界一美味しそうに食べてくれて、どんな時も私を守ってくれた人。


「……はい。喜んで」


 私が頷くと、会場が割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。

 ジーク様は私の指に指輪を嵌め、そのまま私を抱き寄せて――。


「特等席(俺の隣)は、もう誰にも譲らないからな」


 甘いキスが、私たちの契約(婚約)を封印した。


 ◇◇◇


 その後。

 振る舞われた料理(もちろん私の監修レシピ)は、「美味すぎる!」と大絶賛され、外交問題になりかけるほどの争奪戦となった。

 

 元悪役令嬢は、辺境のカフェ店主を経て、ついに大国の皇太子妃(予定)へと成り上がったのだ。

 

 まあ、結婚してもカフェは辞めないし、ジーク様にはこれからも皿洗いを手伝ってもらうつもりだけど。


 『悪役令嬢カフェ』。

 そこは、世界一美味しい紅茶と、世界一幸せな店主がいる、最高のお店。

 皆様も、疲れた時はぜひお立ち寄りください。

 

 ただし――元婚約者とナンパ男は、入店お断りですけれど?

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