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星降る夜の終わりに、あなたからの手紙を  作者: 九葉


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最終話

結:第二話『春の訪れと二人の誓い』


私たちが手を取り合った瞬間、私の内から溢れ出した祝福の光は、城の窓という窓から解き放たれ、灰色の空を覆っていた分厚い雲を瞬く間に吹き払った。

雲の切れ間から差し込んだ太陽の光が、雪に覆われた大地を照らし、まるでダイヤモンドのようにきらきらと輝かせる。


城壁の外で武器を構えていた王都の騎士団は、そのあまりにも神々しい光景に度肝を抜かれ、動きを止めた。


「な、なんだ、今の光は……!?」

「天変地異か……!?」


彼らの動揺を、私は肌で感じていた。


「カイ様、城壁へ!」


私たちは、城で最も高い塔のバルコニーへと駆け上がった。

眼下には、三百の軍勢と、その中心で忌々しげにこちらを見上げるクラヴィス様の姿が見える。


彼は、私がカイ様の隣に立っているのを見ると、顔を怒りで歪ませ、叫んだ。


「セラフィーナ! その男に騙されているのか! その呪われた力で、国に反旗を翻すつもりか!」


呪われた力。

もう、その言葉は私の心を傷つけなかった。

私は一歩前へ出ると、城壁から身を乗り出し、澄んだ声で言い放った。


「いいえ、クラヴィス殿下! この力は呪いなどではございません! これは、この北の大地と、ここに生きる人々を守るための、祝福の光です!」


私の声に応えるかのように、城壁の足元、凍てついていた地面の雪が、みるみるうちに溶けていく。

そして、雪の下から現れた黒い土を突き破り、小さな緑色の芽が、一斉に顔を出したのだ。

それは、ほんの数秒の間に若葉を広げ、みるみるうちに成長し、色とりどりの花を咲かせ始めた。

真冬の辺境に、一夜にして春が訪れたかのような、奇跡の光景だった。


兵士たちが、息を呑む。

彼らが踏みしめている大地が、生命の喜びに満ちていく様を、目の当たりにしているのだ。

剣を握る彼らの腕から、力が抜けていくのが分かった。

戦意など、あろうはずもない。


クラヴィス様だけが、その光景を信じられないといった顔で、わなわなと震えていた。


「ま、魔女め……! 妖術で我らを惑わす気か! 者ども、かかれ! あの魔女を捕らえよ!」


しかし、彼の号令に応える者は、もう誰もいなかった。

兵士たちは武器を降ろし、ただ呆然と、眼前に広がる奇跡の花畑を見つめている。

彼らもまた、この北の地で生まれた者たち。厳しい冬を知る者たちにとって、この光景がどれほど神聖で、尊いものか、理解できないはずがなかった。


カイ様が、私の隣で静かに告げた。


「クラヴィス王子。これ以上、この聖なる地を軍靴で踏み荒らすというのならば、グライフェン家は、代々この地を守りし鷲の誇りに懸けて、貴殿を侵略者として迎え撃つ。……兵士たちの命を、無駄にするおつもりか」


その声は静かだったが、北の山々に響き渡る王者の風格があった。

完全に孤立したクラヴィス様は、悔しさに顔を真っ赤にすると、悪態をつきながら馬首を返し、少数の側近と共に王都へと逃げ帰っていった。

残された兵士たちは、武器を置いたまま、辺境の民に迎え入れられた。


戦は、終わった。

一滴の血も流れることなく。


バルコニーの上で、私とカイ様は、眼下に広がる春の景色を見下ろしていた。

城からは歓声が上がり、人々が抱き合って奇跡の訪れを喜んでいる。


「……終わった、のですね」


「ああ。……終わった。そして、ここからが始まりだ」


カイ様はそう言うと、私の肩を優しく抱き寄せた。

彼の灰色の瞳には、もう氷の影はなかった。

そこには、春の空のように穏やかで、温かい光が宿っていた。


「セラフィーナ。俺は、父からの手紙で、お前のことを知った」

「わたくしも、同じです」

「だが、これからは違う」


彼は、私の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「これからは、俺自身の目で、お前のことを見て、俺自身の言葉で、お前に想いを伝えたい。……俺の隣に、いてくれるか」


それは、今まで聞いたどんな言葉よりも、甘く、優しい響きを持っていた。


私は、最高の笑顔で頷いた。


「はい、カイ様。あなたの言葉を、これからは、わたくしにください」


過去からの手紙は、もうない。

私たちの物語は、今、始まったばかり。


カイ様が、ゆっくりと顔を近づけてくる。

私は、そっと目を閉じた。

初めて触れた彼の唇は、雪解け水のように清らかで、春の陽だまりのように、温かかった。


遠くで、教会の鐘が、高らかに鳴り響いていた。

それは、北の地に、長く厳しい冬の終わりと、新しい時代の幕開けを告げる、祝福の音色だった。

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