エピローグ
あれから、一年。
北の辺境は、かつてないほどの活気に満ちていた。
私の力によって蘇った大地は豊かな恵みをもたらし、人々の暮らしは格段に良くなった。
王都から帰順した兵士たちも、今ではすっかり辺境の民として、たくましく暮らしている。
そして、私は。
セラフィーナ・フォン・グライフェンとして、カイ様の隣に立っていた。
城の皆は、私を「春を呼ぶ姫君」と呼び、心から慕ってくれた。
もう、誰も私を「魔女」とは呼ばない。
あの日以来、カイ様は毎日、どんなに短いものでも、必ず私に手紙をくれるようになった。
それは、公務の合間に走り書きされた「今日のスープは美味かった」という一言だったり、夜、寝室の枕元にそっと置かれた「愛している」という言葉だったりした。
先代様がくれた手紙は、私の心の支えだった。
けれど、カイ様がくれる日々の言葉は、私の血となり、肉となり、私という人間そのものを形作っていく、かけがえのない宝物だ。
今日も、執務室で仕事をする彼の机の上に、小さな花を添えて、一通の手紙を置く。
『カイ様へ。
今夜は、星がとても綺麗です。
バルコニーで、あなたと一緒に見られたら嬉しいです。
愛を込めて。
あなたのセラフィーナより』
言葉は、時を超えて想いを届ける奇跡。
そして、すぐそばにある温もりを確かめ合うための、最高の贈り物。
手紙をテーマにした、私たちの恋物語は、これからも続いていく。
北の地で、永遠に紡がれていく、温かい物語として。




