悪友たちの酒宴
居酒屋の暖簾をくぐると、むっとした煙と油の匂いが押し寄せてきた。
週末の夜とあって、店内はどこも賑やかだ。小さな個室に足を踏み入れると、すでにいつもの顔ぶれが揃っていた。
「おう、遅かったな!」
ジョッキを高く掲げたのは、Aだった。昔から調子のいいやつで、結婚も離婚も経験した今も、人懐っこい笑顔だけは変わらない。
隣ではBが腕を組み、相変わらず真面目そうな顔で小言を口にしていた。
「もう少し時間守れよ。大人なんだから」
だが、その言葉に本気の棘はない。
Cは疲れ切った表情でグラスを傾けていた。社会人になってからはめったに誘いに応じなくなった彼だが、今日は珍しく参加していた。ネクタイを緩め、どこか影のある目をしている。
奥の席にはDが座り、煙草を指で弄びながら薄く笑っていた。元ヤンの風格は抜けないが、話してみれば誰より家族思いで義理堅い男だ。
「よし、揃ったな」
Aが声を張ると、全員がグラスを手にした。
「乾杯!」
五つのジョッキがぶつかり合い、泡が零れ落ちる。焼き鳥が運ばれ、テーブルは一気に賑やかになった。
他愛もない冗談。昔話に花を咲かせる声。誰かが笑えば、また誰かが乗っかる。
高校を卒業してから二十年以上が過ぎたが、この瞬間だけは時間が巻き戻されたかのようだった。
だが、その笑い声の奥には、誰も口にしない重い影が潜んでいた。
社会に出てからの挫折や孤独。誰もがそれを抱え込みながら、気づかぬふりをしてジョッキを傾けていた。
あの夜、俺たちはただ酔って騒いでいただけのつもりだった。
けれど、そのテーブルにこぼれ落ちた一言が、のちに俺たちを大きな破滅へと導くことになる。