終わりのはじまり
夜の街を、俺は必死に走っていた。
背後から追いかけてくるサイレンの音と、赤色灯の強烈な光が、逃げ場のない現実を突きつけてくる。汗が目に滲み、呼吸は乱れ、肺が焼けるように苦しかった。それでも足を止めることはできない。
どうして、こんなことになったのか。
ほんの出来心だった。冗談の延長、悪ふざけのはずだった。笑い話で終わると、誰もが思っていた。それなのに、今や俺は警察に追われ、犯罪者として街を駆け抜けている。
曲がり角で足を滑らせ、壁に肩をぶつけた。痛みに顔をしかめながら、再び走り出す。アスファルトを叩く靴音が、まるで心臓の鼓動と重なり、頭の奥で響いていた。
頭の中に、断片的に過去の光景がよぎる。
酒に酔って笑い合う仲間の顔。
愚痴を言い合いながら、くだらない話で夜を潰した居酒屋の灯り。
あの日、確かに俺たちは笑っていたはずだった。
——だが、あれが始まりだった。
気づけば、あの悪ふざけが俺たちを取り返しのつかない場所へと導いていた。
「なぜ、俺は走っているのか」
自分でも分からない問いが、胸の中で何度も繰り返された。
答えはまだ出ない。ただ一つ確かなのは、もう後戻りはできないということだけだった。




