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第7章 この女幽霊、分かってるじゃねぇか!

"数本の黒い髪が、リ・パイの耳元をかすめて、前方へと流れていく。


「これって……髪の毛!?」


目の前で揺れる黒い髪を見て、リ・パイは瞬時に悟る。自分の背後にいるのは、おそらく……。

あの白装束の女幽霊だ!

廊下で音もなく俺の背後に現れるなんて、あいつ以外に考えられねぇ!

しかも、髪の毛の動きからして……。

俺の背中に、ぴったりくっついてやがる!

道理で背中がゾクゾクするわけだ!

……って、怖すぎんだろ、マジで!


リ・パイの背中は、一瞬で冷や汗に濡れた。


「くそっ、俺が買ったの、本当に恋愛ゲームなのかよ?」

「二度とやるか、こんなクソゲー!」


リ・パイは心の中で悪態をつく。

もしこれをホラー脱出ゲームとして評価するなら、確かに良くできている。

雰囲気作りも、身体的な感覚も、まるで本物みたいだ。

……だが、俺はこんなリアルなホラーゲームをやりたいわけじゃない。


今、リ・パイの頭の中には、ただ一つの考えしかなかった。

さっさとここからずらかる!


「……ん? こいつ……俺を攻撃してこない!」


リ・パイはふと、そのことに気づく。

もしこの白装束の女幽霊が俺を襲うつもりなら、背後から不意打ちされたらひとたまりもなかったはずだ。

さっき2階に来た時もそうだった。あいつは俺に手を出さなかったし、客間まで追ってくることもしなかった。

できないのか? それとも、する気がないのか?

どちらにせよ、こいつが手を出してこないという事実は、リ・パイの心の中の恐怖をいくらか和らげた。


その時、大量の黒い長い髪が、リ・パイの頭上から垂れ下がってきた。

上から垂れてくるってことは……まさか。


「マジかよ……」

「俺の身体、よじ登ってんのか?」

「逆さまになって、俺の目の前に現れるつもりか?」


リ・パイは内心ビビりまくる。

これがもし美女だったら、こういう逆さまの体勢(いわゆる69的な?)も悪くないかもしれないが……。

こいつは、恐ろしい女幽霊なんだぞ!

たとえこいつが俺に危害を加えないとしても、こんな顔と顔がくっつくような状況は、めちゃくちゃ怖い!


リ・パイは、ぎゅっと目を閉じた。

そうだ、見なければ怖くない! 俺がお前を見なければ、お前は俺を怖がらせられない!

……だが、次の瞬間、リ・パイは意を決して目を開けた。

目を閉じていたら、まな板の上の鯉だ。

背後の女幽霊が今のところ何もしなくても、こいつが中立なのか友好的なのか、確信は持てない。


リ・パイの指は、腕ボウガンの引き金にかかっている。いつでも発射できる準備はできている。

銀の矢……幽霊にも効く……よな?


ふぅ……


冷たい風が、リ・パイの耳元に吹き付けられた。

リ・パイは思わず肩を震わせる。

この女幽霊……やるじゃねぇか!

ちょっと恋愛ゲームっぽくなってきたじゃん。

……まあ、怖すぎて、まったく興味が湧かないけどな。

あの蒼白い顔は、今でもはっきりと覚えている。

もしこの女幽霊と深い関係になんてなったら……リ・パイは(いろんな意味で)萎えちまうだろうと思った。


「クフフ……」

「勇敢な訪問者さん、怖がっているの?」


氷のように冷たい声が、リ・パイの耳元で響く。

骨身に染みるような冷たさに、リ・パイはまるで氷室に放り込まれたような気分になる。


リ・パイは返事をせず、ゆっくりと前へ歩を進める。

あと数歩で、もう一つの客間だ。

探索は止められない。

こんな気味の悪い場所、一刻も早く抜け出したい。


「あなた、この家の女主人に会いに来たの?」

「もしそうなら……」

「お願いがあるの!」


か細い声が、リ・パイの耳元でこだまする。

それを聞いて、リ・パイは足を止めた。

女主人って……あの砕かれた美人(ブロークン・ビューティー)、エローラさんのことか。

背後にいるこいつ……。

何か知ってるのか?

襲ってこないなら、話を聞いてみる価値はあるかもしれない。

もしかしたら、メインクエストを発行してくれるNPCかもしれないしな!


「……あんたは誰だ? 俺に何を手伝えって?」


リ・パイは平静を装い、努めて淡々とした口調で尋ねる。


「実は……」

「私がここの主人、エローラ・ベートよ!」


女幽霊はそう答えた。


「あんたがエローラ!?」


リ・パイは一瞬、呆気にとられる。

このゲームでの俺の目的は、エローラを呼び覚ますことだ。

まさか、こんなに早くご本人登場とは!?


「下の階にいる、あの狂った女は見たでしょう?」

「あれは私の執事よ」

「彼女は私の財産を狙って、私を殺して……体をバラバラにしたの……」

「今、私はこうして幽霊の姿でしかいられない」

「勇敢な訪問者さん、私を助けてくれる?」


女幽霊の声は相変わらず冷たく、リ・パイの耳にまとわりつくように響く。


「どうやって助ければいいんだ?」


リ・パイは、なにかがおかしいと感じていたが、それが何なのかすぐには言葉にできない。とりあえず、女幽霊の話に合わせてみる。


「私の体は、あの狂った女によってたくさんの欠片に分けられて、この屋敷のあちこちに隠されているの」

「私の体を集めて、元通りに繋ぎ合わせてもらえれば、私は復活できるかもしれない」

「お願い、私の体のパーツを探し集めてくれない?」


女幽霊は問いかける。


「体のパーツ集め、か……」


リ・パイは呟く。

それって、まさに俺がここでやるべきメインクエストじゃないか!

こいつに言われなくても、どのみち探さなきゃならんのだ。


「もし、あなたが私を助けてくれるなら……」

「私が復活したら、あなたのしたいようにしてくれて構わないわ!」


女幽霊は、なおもリ・パイの耳元で息を吹きかける。

リ・パイは、ゾクッとして身を震わせた。


したいようにしていい……。

これは、ついに恋愛ゲームのルートに戻ってきたってことか?

ようやく、まともになってきたじゃねぇか!

……それにしちゃ、ここまでの前フリがホラーすぎるだろ!


リ・パイが承諾しようとした、その時。脳裏に何かが閃いた。


違う!!!

おかしい!!!


リ・パイははっきりと覚えていた。階下のリビングで、エローラさんの写真を見たことを。

印象的な、金髪のウェーブヘア。

それに対して、この女幽霊は……。

黒いストレートで、胸は……まあ、控えめだ。

幽霊ってものに詳しいわけじゃないが、普通の感覚で言えば、死んだ後の幽霊ってのは、生前の姿とそう変わらないもんじゃないのか!?

金髪ウェーブが、地味な黒髪ストレートになるなんてありえんだろ!

……まあ、髪は染められるし、胸だって盛れるのかもしれないが、そんなの無理やりすぎる。


こいつ、何か企んでるな。


リ・パイは瞬時に警戒レベルを引き上げる。


「助けるのは構わないが」

「この屋敷は広いんだ。あんたの体がどこにあるかなんて、俺には分からないぞ」

「それに俺は丸腰同然だ。下の階の女にでくわしたら、抵抗する間もなくやられちまう」


リ・パイは疑いを顔には出さない。

この女幽霊は、十中八九まともな奴じゃない。利用できるだけ利用して、敵対するのはできるだけ後にしたい。


「分かってるわ」

「さっきあなたが出てきた部屋に、私の頭部があったはずよ」

「こっちの部屋には、私の左脚があるわ」

「右脚と胴体は、たぶん3階ね」

「腕は……おそらく、どちらも1階にあると思う」


女幽霊は、体のパーツの分布状況をあっさりと口にした。

リ・パイは内心喜び、その情報をしっかりと記憶に刻む。

パーツの場所が分かれば、探索度を上げるのはずっと楽になる!

50%に達したら、さっさとこんな場所からはおさらばだ!

メインクエストがどうとか、知ったこっちゃない。


「それと、1階のあの狂った女だけど……」

「確かに、ちょっと厄介ね」

「でも安心して。夜中の12時を過ぎれば、彼女は怖がって上の階には上がってこないわ」

「だから、まずは他のパーツを安心して集めるといいわ」

「腕については……」

「他のパーツを集め終わったら、屋根裏部屋を見てみるといいかもしれない」

「あそこには、なにか役に立つものがあるみたいだから」


女幽霊は続けた。"


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