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第4章 クローゼットの中の頭

" リ・パイはそれに手を伸ばし、取り出してみる。


「懐中電灯か……」


 リ・パイはわずかな月明かりを頼りに、手の中の物体を確認した。


 カチッ――


 リ・パイは懐中電灯のスイッチを入れる。

 光は弱々しく、時折チカチカと点滅している。どうやらバッテリー残量は残り少ないらしい。

 それでも、目の前の一角くらいは照らせるようになった。

 懐中電灯の光があるだけで、リ・パイの心はだいぶ落ち着き、物色を再開した。


 隣の引き出しから、リ・パイは一冊の日記を見つけた。


「『訪問者の日記』を入手しました。」

「探索度:10%」


 突如響いたシステムメッセージに、リ・パイはびくっと肩を震わせた。

 だが、すぐに安堵のため息をつく。

 探索度が上がった!

 どうやら、『砕かれた美人』のバラバラ死体パーツを集めるだけじゃなく、他の役立ちそうなアイテムを見つけることでも探索度は上がるらしい!

 それはありがたい。バラバラになった体を組み上げるなんて、正直かなり気味が悪い。他の方法で探索度を上げられるなら、それに越したことはない。


「この日記で探索度が上がったってことは、何か重要な手掛かりが書かれてるはずだ。」


 リ・パイは背後を懐中電灯で照らし、誰もいないことを確認してから、机の前に腰を下ろし、日記を開いた。


「7月4日

 優秀なデモンハンターたるもの、常に己を律し、実力向上に努めねばならん。目標は1ヶ月以内に二級デモンハンターのライセンスを取得することだ。

7月13日

 エローラ様はなんと魅力的なお方だ! 屋敷の前をうろついてしまった。

7月14日

 エローラ様はなんと魅力的なお方だ! 屋敷の前をうろついてしまった。

7月15日

 エローラ様はなんと魅力的なお方だ! 屋敷の前をうろついてしまった。

7月16日

 ハントよ、ハント! なぜこうも堕落してしまったのだ!

 立てた計画を忘れたのか?

 これ以上こんなことを続けてはならん!

7月17日

 エローラ様はなんと魅力的なお方だ! 屋敷の前をうろついてしまった。

 ……

 」


 数ページ読んだところで、リ・パイは思わず呆れて天を仰いだ。

 このハントとかいうデモンハンター、人の家の前をうろつくとか、どんだけ不審者なんだよ。

 まあ、まともな奴が日記なんて書くかよ、って話だよな。

 気を取り直して、リ・パイは続きを読む。


「7月25日

 今日、エローラ様の洋館の様子が少しおかしい。

 俺のコンパスが震えている。

 洋館の中に何か尋常じゃないものがいる気がする。

 善良なるデモンハンターとして、様子を見に伺うのは当然のことだろう。

 エローラ様の管家は非常に親切にもてなしてくれた。

 お茶を出してくれ、さらに焼き肉までご馳走になった。

 おお神よ、これほど美味い肉は生まれて初めてだ!

 残念ながら、エローラ様はご病気だそうで、今日はお会いできなかった。

 食事の後、少し眠くなってきた。

 管家が親切にも、一晩泊まっていくよう勧めてくれた。

 断る理由などあろうはずがない。

 屋根裏部屋の方から、何か妙な音が聞こえる気がする。

 もうダメだ、眠すぎる……。

 明日、管家に聞いてみよう。

 」


 日記はここで終わっていた。

 どう見ても、このハントとかいう男は、眠りに落ちた後、二度と日記を続ける機会はなかったのだろう。


「……マジで、ほんの一口しか飲んでなくて助かったぜ。」


 リ・パイは自分の幸運に感謝した。

 あの紅茶、絶対ヤバい薬が入ってたに違いねえ!

 それにあの焼き肉……絶対まともな肉じゃねえだろ!


 リ・パイはもう一度日記をパラパラとめくり、他に有用な情報がないことを確認してから、パタンと閉じた。

 顎に手を当て、リ・パイは日記から得られた情報の整理を始める。

 この日記を見つけたことで探索度が上がったということは、内容はこの洋館の秘密に関係しているはずだ。


「デモンハンター……」


 リ・パイは、このハントという男の職業に注目した。

 デモンハンターでさえ異常を感じるということは、この屋敷には間違いなく何かがある。

 さらに、日記にはこの家の女主人、エローラ様が病気だと書かれていた。

 本当に病気なのかどうかはわからん。

 日記の記述からすると、ハントは彼女に会えていないようだ。

 それ以外で役立ちそうな情報は……日記に出てきた屋根裏部屋、か。


 屋根裏部屋……。


 リ・パイは洋館の外から見た光景を思い出す。

 ここは3、4階建てくらいの建物だったはずだ。3階の上の、半階分くらいのスペースが屋根裏部屋だろう。

 屋根裏部屋に……何がある?

 これは、俺に屋根裏部屋を探索しろってことか?


 リ・パイは眉をひそめる。

 現実で脱出ゲームをやるなら、何の心配もなく楽しめる。

 だが今は、外の廊下には白い服の幽霊がうろつき、一階には「親切な」管家がいる状況だ。

 三階と屋根裏部屋……。

 さらにどんな危険が待ち受けているか、わかったもんじゃない!

 だか、行かなければ……探索度はまだたったの10%……。


「ふざけやがって!」


 リ・パイは思わず毒づいた。

 これはもう、屋根裏部屋を調べろって強制してるようなもんじゃねえか!

 この場所、バイオハザードよりよっぽど怖えぞ!


「ゲーム終了!」


 リ・パイは再度、離脱を試みた。


「『砕かれた美人』シナリオ探索度10%。50%未満のため、ゲームを終了できません。」


 離脱失敗。

 やっぱりダメか!


「はぁ……」


 リ・パイはため息をつき、現実を受け入れるしかないと覚悟を決めた。

 ここを出たら、このヘルメットは即効で売っ払ってやる。二度とこのクソゲーなんかやるもんか!


「……まずはこの部屋の中を探し尽くすか。まだ何か役立つものが見つかるかもしれねえし。」


 リ・パイは懐中電灯を手に、部屋の中を物色し始めた。

 書き物机の引き出しは、さっき調べた。日記と懐中電灯以外には何もなかった。

 リ・パイは隣の洋服ダンスに目を向けた。

 暗赤色の木製ダンスが、この雰囲気の中では、やけに不気味に見える。

 それに、一般的に言って、クローゼットってのはなんとなく怖いもんだ。

 開けた時、中から出てくるのが隣のヤバい奴だろうが、何か汚えモン――だろうが、どっちにしろ気分が悪くなるのは間違いない。

 だが、リ・パイに選択肢はなかった。

 ダンスの中に何がいようと、少なくともこの部屋は今のところ安全だ。屋根裏部屋に行くよりはマシだろう。


 リ・パイは深呼吸を一つ。片手に懐中電灯を持ちダンスを照らしながら、もう片方の手をゆっくりと前方へ伸ばす。

 震える指先が、ダンスの扉に近づいていく。

 取っ手を掴み……

 そっと引く……


 ギィィ……


 古びた蝶番が、苦しげな呻き声を上げた。

 懐中電灯の弱々しい光が、ダンスの隙間に差し込む。


「ヒュッ!!!」


 目の前の光景に、リ・パイは息を呑んだ!

 全身がこわばり、冷や汗が一気に背中を濡らす!

 手の中の懐中電灯を、危うく取り落としそうになった。


 洋服ダンスの隙間から、リ・パイが見たものは……


 頭部だった!"


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