第20章 計画が狂っちまったぜ
"リ・パイは、あの肉塊にくっついている頭が、次々と目を閉じていくのに気づいた。
まるで、何か形のないものが、絶えずそこから抜き取られているかのように見える。
(……効いてる!)
リ・パイの胸が、かすかに高鳴った。
(魔女の技ってのはやっぱすげぇな! 何を抜くにしても効率が良すぎるぜ!)
この調子なら、あと数秒もすれば、この肉塊の中の魂は完全に抜き取られるだろう。
魂が抜き取られていくにつれて、肉塊の動きはどんどん鈍くなっていく。
その時、肉塊はちょうど悪霊のすぐそばまで来ていた。
悪霊の顔色が変わる。
肉体に異常なほど渇望している彼女にとって、この肉塊が放つ抗いがたい引力は、はっきりと感じられたのだ。
肉塊の中の魂が減っていくにつれて、それはまるで渦のように、悪霊自身の魂を激しく引き寄せ始める。
悪霊は、ちらりとリ・パイの腕ボウガンに目をやった。――瞬間、奴らの計画を悟った。
(……なるほど、私をこの肉体に無理やり押し込んで、デモンハンターのボウガンで仕留めるつもりね!)
「クフフ……」
「……甘いわねぇ、あなたたち!」
「そんなことで、この私をどうにかできるとでも思った?」
悪霊は冷笑を数度漏らすと、突如、前方に伸ばしていた黒髪をさっと引き戻し、すぐそばの肉塊へと襲いかかった。
黒々とした髪は、剃刀のように鋭い。肉塊は一瞬にして、数本の手足を切り落とされた。
「――まずい! あいつ、バラバラにする気だ!」
リ・パイは問題に気づいた。
もし、この肉塊がバラバラにされてしまえば、それはもはや完全な「器」ではなくなる。
そうなれば、悪霊がその体内に吸い込まれることもない。
「こ、これは……どうすれば……?」
エローラは少しうろたえている。
実戦経験の少ない彼女は、こういう不測の事態に陥ると、すぐに頭が真っ白になってしまうようだ。
これは、彼女の計画にはなかった展開だ。
「ケチるな! 一番前の実、全部爆破だ!」
リ・パイは鋭く叫んだ。
この肉塊が悪霊を仕留めるための「器」である以上、悪霊に破壊させるわけにはいかない。
リ・パイの指示を聞いて、エローラの心に少しだけ覚悟が戻る。
バチバチッ!という音と共に、日光果が次々と炸裂した。
今回、エローラは出し惜しみしなかった。残っていた日光果の、実に半分近くを一気に使ったのだ。
目も眩むような強烈な光が、瞬く間に廊下全体を覆い尽くす。
ジュウウウウッ……!
黒い煙……!
悪霊の黒髪は、甚大なダメージを受けた。
その皮膚も、焼け焦げていない箇所はどこにもない。
今回ばかりは、悪霊もついに耐えきれず、苦悶の叫びを上げ続けた。
だが、残念ながら日光果の数には限りがある。悪霊にダメージを与えることはできても、それだけで完全に仕留めることはできないのだ。
しかし、今回の爆破は、悪霊の髪の大部分を破壊することには成功した。
まるで畑のニラのように刈り取られていた肉塊の四肢は、ようやくその危機を逃れた。
エローラはすぐに呪文を唱え始め、肉塊から魂を抜き取る作業を再開する。
肉塊は、ブルブルと激しく震えている。
(……なんでこんな目に……)
内心、非常にやるせない気持ちでいっぱいだった。
自分はトイレで大人しく丸まっていただけなのに、あの恐ろしい女が、なぜか骨切り包丁を咥えながら窓から這い入ってきたのだ!
あの女にされたことを思い出すだけで、肉塊は恐怖のあまりトイレから飛び出した。
そしたら、廊下では誰かが喧嘩しているじゃないか!
喧嘩は勝手にやってくれればいいのに、あの女幽霊(悪霊)ときたら、こっちに向き直って自分を削り始めたのだ!
同じ2階でしばらく暮らした仲だというのに、なんて無情なんだ!
肉塊は、とても傷ついていた。
だが、この女幽霊には物理攻撃が効かないことも知っている。
反撃の機会すらない。
生き延びるためには、ひたすら前に進むしかない。
――その時、悪霊のかろうじて残っていた数本の黒髪が、突如として肉塊に絡みつき、ぐいっと前方に放り投げた!
肉塊は、加速しながらリ・パイとエローラの二人に向かって突進していく。
「――まずい!」
エローラの顔色が変わった。
この肉塊の体内には、まだ2、3体の魂が残っている。このまま突っ込んできたら……!
危ない!
「クフフフ……」
「そいつを使って、私をどうにかしようとしたんでしょ?」
「……自業自得じゃない!」
悪霊が、再び冷笑する。
彼女の髪は、まるで誰かにむしり取られた後のように、数えるほどしか残っておらず、頭にまばらにぶら下がっている。その姿は、どこか滑稽ですらあった。
だが、エローラとリ・パイに、悪霊を嘲笑う余裕などない。
肉塊は、もう目の前まで迫っていた。
リ・パイは、ぐっと奥歯を噛みしめ、エローラの前に立ちはだかった。
(男として、こういう時は、後ろの女を守らなきゃならねぇ!)
たとえ、その女が自分より20センチも背が高くても……だ!
「ドシンッ!」
鈍い衝突音!
リ・パイは、肉塊に真正面から弾き飛ばされ、背後の壁に激しく叩きつけられた。
「……っつぅ……! マジで……痛ぇ……」
リ・パイは床に崩れ落ち、痛みに顔を歪める。
このゲーム、感覚がリアルすぎる。
エローラを目覚めさせた時にも、リ・パイはそれを痛感していた。
そして今、壁に叩きつけられた衝撃で、骨が何本か折れたような気がする。
……痛い、マジで痛い……。
「あ、あなた!」
リ・パイが自分を守るために弾き飛ばされたのを見て、エローラの心には、感動と心配が入り混じっていた。
だが、感傷に浸っている時間はない。
あの肉塊が、目の前に迫っているのだ!
肉塊の体内には、まだ数体の魂が残っている。もう、これ以上抜き取る時間はない!
エローラの目に、絶望の色がよぎる。
悪霊が手を下すまでもない。この肉塊だけで、自分は潰されてしまうだろう。
彼女は魔女であり、接近戦の能力など皆無だ。
リ・パイは背後の壁際で、怪我をしているように見える。
そして、女執事のレイクは、おそらくまだトイレから出てきていない。
――誰も、彼女を救うことはできない!
肉塊に残った二つの頭が、ギャアギャアと叫びながら、手足を振り回してエローラに襲いかかる。
こいつを倒して、この階から脱出しない限り、自分に生きる道はないと、肉塊は本能で理解していた。
肉塊がエローラに衝突する寸前――リ・パイが、震える腕を持ち上げた。
一筋の銀色の光が、肉塊へと放たれる。
「……ブシュッ!」
銀色の矢が、肉塊の身体を貫いた。
次の瞬間、肉塊の身体に、ひび割れが生じ始める。
頭が、手足が、次々と粉末となって崩れ落ちていく。
巨大な身体も、それに続いて砕け散り、大量の粉末がまるで津波のようにエローラに押し寄せ、彼女は危うく押し倒されそうになった。
「こ、これは……」
「……最後の、矢を使ったの?」
エローラは呆然としながらも、何が起こったのかを理解した。
リ・パイは、彼女を救うために、腕ボウガンに残っていた最後の矢を、使ってしまったのだ。
デモンハンターの矢は、魔物に命中すると、標的もろとも粉末と化し、回収して再利用することはできない。
つまり……。
悪霊を討伐する計画は、これで完全に、実行不可能になったということだ!
「使っちまったもんは、しょうがねぇだろ」
「……俺が生きてる限り、あんたを誰にも傷つけさせたりしねぇよ」
リ・パイは、そんなキザなセリフを吐きながら、胸を押さえてエローラの方へ歩み寄る。
肋骨が、何本か逝ったっぽい。
右腕も骨折しているようだ。さっき矢を放つ時、危うく狙いがずれそうになった。
だが、真の男たるもの、ここで弱音は吐けない。気迫だけは、見せつけないと。
「……大丈夫?」
エローラは、すぐにリ・パイの身体を支えた。
身長190センチ超えのエローラの身体は、リ・パイに妙な安心感を与えてくれる。
「……へいき……」
リ・パイは、ちょうど柔らかい感触の場所に寄りかかる形になり、痛みが少し和らいだような気がした。
その時、廊下に再び、陰鬱な風が吹き荒れた。
廊下の中央に浮かぶ悪霊の周囲に、黒い霧のようなものが渦巻き始めている。何やら、よからぬことを企んでいるようだ。
「――まずい!」
「あいつ、もうすぐ封印を破るわ!」
エローラの顔色が変わる。
今度こそ、もう……逃げることすら、間に合わないかもしれない……。"




