第18章 目覚め
"テディベア姿のエローラは顔を上げ、その大きなボタンの目でじっとリ・パイを見つめていた。
リ・パイがどんな方法で自分の身体を目覚めさせるのかは分からない。だが、彼の様子を見る限り、嘘を言っているようには見えなかった。
その事実に、エローラの心は小さく、しかし確かに高鳴っていた。
(数百年よ……ベート家で、眠りから目覚めた者なんて、一人もいなかった……)
(……まさか、本当に私は目覚めることができるの?)
次の瞬間、エローラは突然、凍りついた!
目の前で、リ・パイが……自分の身体に巻かれた包帯を、解き始めているではないか!!!
(な、なな、何これ!!!)
「ま、待ちなさい……これは、私を目覚めさせるための、必要な手順……なのよね?」
「お、落ち着いて……」
エローラは心の中で必死に自分に言い聞かせる。
魔術の愛好家として、彼女は術の体系によってその手段が異なることを知っていた。
もしかしたら、包帯を解くのは、下心からではないのかもしれない……。
――だが、その次の瞬間、エローラは再び硬直した……。
(……こ、この男! 何をしようとしてるの!!!)
テディベア状態のエローラは、もう我慢の限界だった。毛むくじゃらの小さな手で、リ・パイの脚をバンバンと叩き始める。
しかし、そんな抵抗はまったく無意味だった……。(描写)
エローラの心は、ぐちゃぐちゃにかき乱されていた。
後悔、羞恥、憤り、苦痛、やるせなさ……。
(どうして私は、こんな男に自分を目覚めさせるなんて約束を、馬鹿みたいに信じちゃったのよ!)
(こいつ、全然、私を起こす気なんてないじゃない!)
(……最低!!!)
テディベアのエローラは、リ・パイの後ろで、怒りに任せて拳や脚を振り回した。
だが、リ・パイは隣で暴れる小さなぬいぐるみのことなど、まるで気にも留めていない。
エローラは、本気で泣きたかった。
自分の身に起こっていることをすぐそばで見ているのに、それを止めることができない。
なんとも奇妙で、屈辱的な感覚……。
だが、すぐに、エローラの心には別の奇妙な感覚が湧き上がってきた。
自分の意識が……まるで身体から引き剥がされていくような……!
「……これは……?」
「……どういうこと!?」
エローラは羞恥も憤りも忘れ、魂に起こっている変化を注意深く感じ取ろうとする。
……間違いない!
魂が、確かに引き寄せられている!
(……まさか……)
(彼は……その……下心からじゃなくて、本当に……その……変な方法で、私を目覚めさせようとしてる……?)
羞恥と憤りの中に、ふと、罪悪感にも似た感情が芽生える。
激しい衝撃音の中、エローラの魂はついにテディベアの体から完全に離れ、本来の自分の肉体へと吸い込まれていった。
魂と肉体が、融合を始める。
身体の感覚が、ゆっくりとエローラに戻ってくる。
――その時、物音に気づいた女執事が、こっそりと客間の外から顔を覗かせた。
「なっ……!!!」
女執事の心臓が、激しく跳ね上がる。
(こ、この男! なんてことを……! お嬢様の、お身体に……!!!)
目の前の光景に、女執事は言葉を失うほどの衝撃を受けた。
てっきり、この男は誠実に、お嬢様を目覚めさせようとしているのだと信じていたのに。
まさか……死ぬ前に、己の欲望を満たそうとしていただけだったなんて!
女執事は、迷わず、血の滴る骨切り包丁を再び抜き放った。
(……なんてこと。こんなにも簡単に人を信じてしまうなんて……!)
状況が切迫していたとはいえ、安易に信用すべきではなかったのだ。
女執事は包丁を握りしめ、リ・パイの背後から斬りかかろうと身構えた。
――突如、女執事は、まるで雷に打たれたかのように全身を震わせ、手にした骨切り包丁を取り落としそうになった。
「こ……!」
「これは……! 本当に……!!!」
女執事の瞳が、微かに揺れる。
彼女が見たのは――長い間、深い眠りにあったエローラの、足の指が、ぴくりと動いた瞬間だった!!!
こ……これは……!
これはつまり……!
お嬢様の身体に、意識が戻ったということ……!!!
女執事は、そっと骨切り包丁を収め、音もなく厨房へと身を隠した。
(……私としたことが、とんだ思い違いを……)
女執事は、自身の浅はかさを恥じた。
あの方は、お嬢様を救おうとしていたというのに、自分はもう少しで斬り捨てるところだった。
……衝動的に動かなくて、本当によかった……。
客間では。
エローラの意識は、完全に自身の身体へと戻っていた。
だが、彼女は目を開ける勇気が持てずにいた。
(……このまま、寝たふりを続けよう)
リ・パイは、エローラがまだ目覚めないのを見て、自分の「努力」が足りなかったのかと思い……。
エローラは、ついに耐えきれなくなり、ぱちりと目を開けた……。
……しばしの沈黙。
二人はソファに座ったまま、気まずさで何を話せばいいのか分からないでいた。
そこへ、女執事が服の束を抱えて入ってきて、張り詰めた空気を破った。
「お嬢様、私の服でよろしければ、ひとまずこちらをお召しください」
女執事は、一揃いのメイド服をエローラに手渡した。
エローラは顔を赤らめ、ちらりとリ・パイに視線を送る。
「……じゃあ、俺はちょっと席を外すよ」
リ・パイは、やけに紳士的に立ち上がり、客間を出て行った。
(……まあ、着替えとさっきの行為じゃ比べ物にならないけど、一応、体裁は整えないとな)
リ・パイは、客間と厨房を繋ぐ廊下に立ち、階段の方へ目をやった。
(……あと数分もすれば、あの悪霊は封印を破るだろうな)
急がなければならない。
`「砕かれた美人の覚醒に成功!」`
`「探索度:60%」`
`「砕かれた美人の好感度がDからAに上昇」`
(探索度がまた上がったか……)
(別に、報酬とかはなしかよ)
(好感度だけは、やけにサクサク上がるんだな)
リ・パイはぶつぶつと呟いた。
これから2階の悪霊と対峙するというのに、何のボーナスもなしか。このシステム、本当にケチくさいぜ。
その時、着替えを終えたエローラが、女執事を伴って廊下に出てきた。
リ・パイの目が、カッと見開かれた。
メイド服を纏ったエローラの姿は、息をのむほどに……凄かった!
容姿については、もはや言うまでもない。輝く金色の巻き毛、長い睫毛、大きな瞳、西洋人特有の彫りの深い目元、そして瑞々しい紅色の唇……。
だが、ポイントはそこじゃない。190センチ近い長身のエローラが、160センチそこそこの女執事のメイド服を着ているのだ。それはもはや、コスプレ衣装――いや、エロ装備の域に達していた。
ロングスカートのはずが、ミニスカートになっている。
胸元の布地も、はち切れんばかりに張り詰めている。
……もし、2階の悪霊が封印を破る寸前でなければ、リ・パイはエローラを引っ張って、もう一度「気付け」をしてやりたいくらいだった。
エローラは、リ・パイの熱い視線に気づき、頬を赤らめた。
彼女はもう36歳だが、これまでの人生を魔術の研究に捧げてきたため、恋愛経験は皆無。ましてや、先ほどの客間での出来事は……。
精神的には、エローラはまだ20歳そこそこの乙女と大差なかった。
だから、リ・パイを前にすると、どうしても恥じらいが先に立ってしまう。
「……こほん!」
「……そろそろ、本題について話し合うべきではございませんか?」
女執事が、二人の間に漂う奇妙な雰囲気を察して咳払いをした。
(……今、お二人に『もう一回戦』を始められては困りますわ!)
(悪霊は、まだ上の階にいるのですから!)
「あ! そ、そうね!」
「えっと、その……まずは、ありがとう。私を眠りから目覚めさせてくれて」
エローラはリ・パイに向かい、淑女の礼をとった。
リ・パイがエローラの声を聞くのは、これが初めてだった。
まるでナイチンゲールのように、澄んでいて美しい声だ。
彼女の類まれなる美貌に、実によく似合っている。
「礼なら、後でいくらでも聞くさ」
「今はまず、上の奴をどうするか、それを話し合おうぜ」
リ・パイは階段に視線を送る。
コンパスの震えが、さらに激しくなっている。――奴が封印を破るのも、時間の問題だろう!"




