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【第21話】星屑の再誕

狼人が頭を振り、よろめきながら起き上がった。その体からは、焦げ付くような匂いが立ち上っている。


『グッ……人間ごときが……傷が治った程度で勝てると思うなよ……!』


苦痛に顔を歪ませながらも、狼人は憎々しげに唸った。その言葉に、私はニヤリと笑う。


「生憎、さっきみたいにはならないわよ!☆彡 分かったらさっさとかかっておいで!わんちゃん?」


私は堂々とポーズを決め、挑発した。この力を得た今の私に、最早、迷いなどない。


『舐めるなよ人間がァ!!』


狼人はグググ、と後ろ足に力を込めると、地を砕き、矢のように駆けだしてきた。その速度は、やはり驚くほど速い。


(はやい……けど!)


突き出された腕を、私は危なげなく回避する。その動きは、まるで予測していたかのように淀みがない。


「《ヴェーロ・タリエンテ》」


すれ違いざまに、私は魔法の刃を放った。それは、狼人の肩を切りつけ、さらに背後の廃墟の一角をもごっそりと切り落とした。


『グゥ……ならば!』


狼人は、よろめきながらも、至近距離からの咆哮を放った。耳をつんざくような衝撃に堪らず耳を抑える。その隙に、鋭い爪が私を切り裂こうと迫る──残念、それは幻影よ。


霧散する幻影に、狼人が呆然とする様子を見て、私はクスリと笑った。この一瞬の隙が、命取りになる。


「おーい、こっちよ?」


狼人が咄嗟に振り返りながら腕を振るうが、私の前に展開した《ルミナ・シェル》によって、その爪は受け止められた。


「《トラフィッジェンテ》」


間髪入れずに、私は魔法を放つ。最初に出した水の槍よりも鋭く、速く打ち出されたそれは、狼人の正面からその腹を突き抜け、風穴を空けた。


『ガァァァァァッ……!!』


狼人の苦悶の叫びが響き渡る。その巨体が、膝から崩れ落ちる。


「《ルミナ・バインド》」


私が次の魔法を発動させると、地面から立ち上がるように幾本もの光の鎖が現れ、狼人の両腕・両足をがんじがらめに縛りつけた。奴はもがき苦しむが、鎖はびくともしない。


「私の復帰祝いってことで、最後は盛大に決めちゃうわよ!☆彡」


私は、胸の前に杖を持って行き、詠唱を開始した。全身に漲る力が、今、一つの輝きへと収束していく。


夜天を穿ち、虚無を彩る、遠き星辰(せいしん)よ。

我が魂の叫びに応え、その光を地上へ解き放て。


狼人の眼前に、魔法の球体が発現する。それはまるで、周囲の光を吸い込むかのように輝きを増し、ドクンドクンと脈動しながら、夜空に浮かぶ星のごとく存在感を放ち始めた。



(これは──魔力の核、か?)

(最初に対峙した人間の魔法とはとても思えん…存在感も明らかに違う、ように見える…)



幾千の光年を旅した、微かなる輝きよ。

時の螺旋に囚われし、古き魂の囁きよ。

束ね、凝縮せよ、我が願いのままに。


球体はさらに輝きを増し、その密度は限界を超えていく。この空間に存在するあらゆる魔力と光が、この一点に吸い寄せられているかのようだ。


圧縮されし星の心臓よ、

熱と光、魔力の奔流を解き放つ刻は来た。

現実を焼き尽くし、新たな道を切り拓かん。


詠唱がクライマックスに達すると、球体は極限まで輝きを増し、見る者の目を焼くほどになる。そして一瞬、周囲の空間すら歪ませるかのように、その輝きが内部へと劇的に収縮した。次の瞬間、全てを解放する予感に、私は歓喜した。


絶望を砕き、希望を紡ぐ、終焉の閃光よ。 煌めき、爆ぜよ! 全てを無に帰し、そして再誕せよ! ──《アストラル・ノヴァ》!


解き放たれた魔力は、直後、その極限まで圧縮されたエネルギーを解放した。城塞都市の中心に、小規模な超新星爆発が起こったかのようだった。煌めく光の奔流が狼人を完全に飲み込み、一瞬の閃光の後には、塵一つ残さず消滅させていた。爆心地から広がる衝撃波が瓦礫を吹き飛ばし、夜空にはまるで星が瞬くような残光が広がった。


私は、その煌めく星の瞬きを背後に、堂々とポーズを決めた。


「さて、玖須田……だっけ? どっかで見た記憶があるんだけど……」


先ほどの傷は完全に癒え、漲る力が全身を巡っている。玖須田が言っていた「返して」という言葉が、頭の片隅で引っかかる。そして、この体に突然入ってきた新たな魔法の知識と、まるで欠けていた感覚が埋まっていくような、不思議な感覚。


「まぁ、おいおい分かってくるかな?」


(そういえば、市民たちは無事に逃げられたかしら?)


私の頭から、すっかりそのことが抜け落ちていたことに気づき、急いで周囲を見回した。彼らが城壁を越え、安全な場所へと辿り着けたのか、この目で確認する必要がある。


私は、魔法で体を浮かせ、ゆっくりと空へと浮かび上がった。眼下に広がるのは、先ほどまで壮麗だったはずの城塞都市の、変わり果てた姿だ。ザインの斬撃痕、玖須田の破壊痕、そして私の「アストラル・ノヴァ」による消滅の跡が、複雑に絡み合い、地獄絵図を描いていた。その光景は、もはや私たちが住んでいた場所とは呼べない。


しかし、その惨状の中に、かすかな希望の光を探す。

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