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71.魔王城

◎◎ミライ◎◎



「本当に橋が無い······」


魔王城の城門(じょうもん)の前に()かっていた石橋が落ちていた。


無いのは橋だけではなかった。城門とその周辺が破壊され、大きく(えぐ)れている。


ひとまず周囲を探索(たんさく)すると、魔王城近くの()れた森で何人かの魔族を発見した。具合(ぐあい)が悪いらしく、木の(みき)にもたれて(うずくま)っている。

ラグズ陣営(じんえい)のようだが戦う気力は無くしていて、一応話ができる状態だったので彼らに話を聞いた。(しぶ)るかと思ったが、アイオスの姿を見て意外にもすんなりと起こったことを話してくれた。


(いわ)く、城の破壊は魔王ラグズの仕業(しわざ)らしい。


魔王城に(とど)まっていた魔族の話によれば、砂漠の大陸がある方角で赤い光が打ち上がり、それをラグズに報告したところ、彼は配下(はいか)の魔族に命令して魔王城の床を破壊させた。


地下に瘴気(しょうき)源泉(げんせん)があるかもしれないという(うわさ)は魔族達の間でだいぶ前から(ささや)かれていたらしい。しかし有害な瘴気の(みなもと)を暴くなんて、自分達の首を自分で()めるようなものだ。だから今まで誰も手を出さなかった。


瘴気の源泉が本当にあるのか、それを確かめるためにラグズは魔王城を破壊するという暴挙(ぼうきょ)にでた。


そして、ラグズにとっては幸運にも、俺達にとっては不幸にも······瘴気の源泉は発見され、そこからじわじわと高濃度の瘴気が()れはじめた。


最初は問題なかったという。ラヴェンナを(ふく)む何人かの配下を引き連れた魔王は地下に降り、探索の結果魔石を発見した。


ラグズは配下が自分と並ぶ力を持つのを嫌がり、魔石を取り込むことを(きん)じたという。ラヴェンナに魔石の欠片(かけら)をいくつか持たせ、砂漠の大陸で変異モンスターを(つく)るよう指示を出した。


禁じられたにもかかわらずラヴェンナが魔石の欠片を取り込んだのは、彼女が自らの意思で魔王に従っていたからだ。支配命令を受けていなかったから命令違反も可能。(つか)える(あるじ)の命令に(そむ)いてでも力を欲したのだ。

実際、強化された死霊魔術(ネクロマンシー)には苦戦(くせん)させられた。


そして、ラグズ自身はさらなる力を求め、地下にあった魔石の一部を取り込んだという。

複数の魔石を取り込んだ魔王など前代未聞(ぜんだいみもん)だ。


しかし、その判断は間違っていたらしい。


肉体は過剰(かじょう)に変異し、ほとんど自我(じが)を失ったラグズは暴走、城にいる配下を殺しはじめた。


支配命令が()けたのはその悲劇(ひげき)が始まってすぐだったそうなので、暴走により能力が安定しなくなったのかもしれない。


元々支配命令により強制的(きょうせいてき)(したが)わされていた魔族は早々(はやばや)逃走(とうそう)。何人か残ってラグズを()めようとした者もいたようだが、太刀打(たちう)ちできずに殺されるか重症を()って逃げ出した。


ラグズに忠誠(ちゅうせい)(ちか)う魔族は城に残ったが、ほとんど殺されてしまったらしい。

ラグズが正気に戻ることを信じて一時撤退(てったい)、様子を見ていたが状況は改善せず、高濃度の瘴気のせいで体調を(くず)す者が出始めた。


魔石を取り込むなと命じたラグズの言葉に背き、地下に降りて魔石を取り込んだ者が数名いたそうだが、全員適合すること無く命を落とした。死ぬことを恐れたラグズ陣営の魔族達はひとり、またひとりと城を後にしたそうだ。


枯れた森にいるこの魔族達は、帰る集落が無くてここに留まっていたという。


「俺の集落へ行くといい。俺の名を出せば受け入れてもらえるはずだ」


そんな彼らに、アイオスは自分の集落に行くようにと指示した。ただし、今後は無駄(むだ)な争いは(ひか)えること、と条件を付けて。約束を守れないなら追い出す、最悪始末(しまつ)すると威圧感(いあつかん)を出して(おど)していた。


脅し方がやっぱりアイオスも魔族だなぁと思わせたが、始末するのは本当に最後の手段だろう。


「······で、どうする?」


落ちた橋の前へ戻ってきて、俺達は立ち止まった。このままでは魔王城の内部へ入れない。


「確か、(ほり)(かこ)まれているから出入り口は正面の門しかないと言っていたな」

フェンが堀の(ふち)を歩きながら言う。

「ならば、向こう側へ(わた)る手段はないのではないか?」


それは困る。新たに橋を掛けている時間など無い。


「アイオス、お前なら向こう側へ渡れそう?」


「行けると思う。······俺に全員(かか)えて()べと言いたいのか?」


他に手段がないならそれしか無いと思うのだが、アイオスはちょっと嫌そうだ。


「そういえば、あなた翼人(よくじん)だったわね」

「······というか、なぜまだその姿なのです?ここは暗黒大陸。わたくし達はすでにあなたの正体を知っていますし、変化魔法を使う理由がないのでは?」


カーネリアが思い出したように言い、セレネさんが今更(いまさら)な疑問を発する。


「············」


アイオスは黙って変化魔法を解いた。(はだ)色が変わり、角と翼が出現する。


「ひとまず、俺が魔王城の様子を見てくる」


翼を広げて風魔法を展開しようとしたので、俺は慌てて止めた。


「待てって!ひとりじゃ危険だろ!」


いくらアイオスでも、暴走した魔王に遭遇(そうぐう)したら無事じゃ済まない気がする。


「そうよ。行くならみんなで行かなくちゃ。······ちょっと待ってね、もしかしたら橋の代わりを掛けられるかもしれない」


そう言ってカーネリアは地面を調べている。


「土魔法で橋を掛けるの?お姉ちゃん」


「ええ。······でもこの土、不純物(ふじゅんぶつ)が多いわね。難しいかも。

うーん、(すべ)る危険はあるけど、氷魔法の方がいいかしら」


カーネリアはみんなを下がらせて杖を(かま)えた。


詠唱(えいしょう)の後、魔王城に向かって広範囲に氷魔法が放たれた。術者であるカーネリアを起点(きてん)に、扇状(おうぎじょう)に氷の道が()かれる。

平坦(へいたん)ではなく所々起伏(きふく)があるが、渡れないほどではない。


「やっぱりいつ見てもすごいな、カーネリアの魔法は」


カザマが感嘆(かんたん)の声を()らす。俺もびっくりだ。


「わたしのコントロール()にあるうちは()けたり割れたりすることはないから、ゆっくり渡ってちょうだい」


マリーナが真っ先に姉の(つく)った氷の橋に足を下ろす。彼女に続いて俺達も慎重に橋を渡った。

最後にカーネリアが渡り終え、全員が魔王城の内部に立った。


エントランスホールは完全に破壊されていて、瓦礫(がれき)散乱(さんらん)する奥の方にはラグズに殺された魔族の遺体があった。


思ったより内部は静かだった。ラグズはどこにいるのだろう。

案外(あんがい)、正気を取り戻してこの惨状(さんじょう)に玉座で頭を抱えてはいないだろうか。しかしそんな(あわ)い期待は、ホールの中央に()いた穴から聞こえた(さけ)び声に打ち(くだ)かれた。


「!!」


(けもの)咆哮(ほうこう)ではない。(あき)らかに正気を失ったひとの声だった。


「下にいるのか!?」


穴の下を慎重に(のぞ)き込むと、外の堀ほど深くはなかった。魔王城には元々地下牢(ちかろう)があり、その床が見える。それも大部分が破壊され、さらに地下へ続く大きな口を開けていた。


薄暗い地下牢へと目を()らすと、無事な床には拷問(ごうもん)器具のような物が置いてあった。


俺達の目的は魔王ラグズの討伐(とうばつ)。降りないわけにはいかないだろう。

だがここから飛び降りるのは危険なので、地下へと続く階段へ向かった。(さいわ)い階段は破壊されておらす、無事に地下へ降りることができた。


セレネさんが人数分生成(せいせい)してくれた光球(こうきゅう)が周囲を()らす。


「ラグズはさらに下か······」


眼下(がんか)の穴を見下ろしてアイオスが(つぶや)く。


急な傾斜(けいしゃ)だが、降りられない程ではない。恐らくラグズやその配下達はここから降りたのだろう。


「行くしかないでしょう。待っていて、魔王が出てきてくれるなら別ですが」


瘴気(しょうき)の濃度が濃い地下へみんなを行かせるのを躊躇(ためら)うアイオスに、セレネさんが言う。


「ここまで来たんだから、覚悟はできてるわ。ここだって十分瘴気が濃いのだから、降りたところでたいした差はないわよ」


マリーナの言う通り、もう俺達は瘴気の源泉(げんせん)の真上にいるのだ。気にしても仕方(しかた)がない。


「では、行きましょう」


セレネさんはもう一つ光源(こうげん)を生成し、道の先を照らした。


アイオスとフェンが先に降り始め、後に続く者が足を滑らせないように注意を(はら)う。


マリーナとカーネリアは思ったより身軽で、ひょいひょいと(あぶ)なげなく降りていく。モニカは(やり)を地面に突き立てながらそれを支えにして、不安定な足場を慎重に降りていた。


俺とカザマもモニカの真似(まね)をして、剣を地面に()して身体(からだ)を安定させながら降りることにした。


「大丈夫、セレネ?手を貸そうか」


杖でバランスをとろうとしているが、急斜面(きゅうしゃめん)で今にも転びそうなセレネさんにカザマが手を差し()べる。


「すみません、カザマ······あっ」


カザマに手を伸ばしたセレネさんの片足ががくりと下がった。とっさにカザマの腕に(つか)まって(なん)(のが)れたが、杖が手を離れて斜面を転がっていった。


「申し訳ありません······わたくしのせいでカザマまで落ちては大変ですし、先に行ってください」


「放ってなんて行けないよ。僕を巻き込んでも構わないから、掴まってて」


離れようとしたセレネさんの手を(にぎ)って、自身の腕から離さないようにする。


彼女が足を滑らせたときは俺も手を貸したほうがいいだろうかと思ったが、ここはカザマに任せよう。なんか嬉しそうだし。

落ちた杖はカーネリアが拾っていたので問題ない。


しばらく(くだ)っていくと、突然足元の感触(かんしょく)が変わった。土と岩のでこぼこした感触から、平らな(かた)い床の感触へと。


「ここは······空間が(ひろ)がっているのか?」


未知(みち)の物への興味を(にじ)ませた声を発したのはフェンだ。セレネさんが光球を分散(ぶんさん)させ、地下に拡がる空間の全貌(ぜんぼう)(あらわ)にする。


ここが、決戦の場だ。


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