69.戦いの後
◎◎ミライ◎◎
亡くなった魔族達を埋葬した後、カザマ、セレネさん、モニカ、アイオスは南の廃城へ行き、そこに残っている魔族達の説得に向かった。俺を含む他のみんなはオアシスの町に戻って戦いの後片付けをすることになった。
俺も魔族達の元へ行きたかったが、セレネさんにカザマの方が交渉に適していると言われてしまった。
負傷者の手当、破壊された物の撤去。暑い日差しの中、流れる汗を拭いながら作業すること数時間。町が落ち着きを降り戻してきたので、木陰に入って休息を取った。
「カザマ達、上手くやってるかな」
差し入れに貰った水を飲みながら独りごちる。
同じように休憩する冒険者達に、町のひとが水や軽食を差し入れている。
オアシスの町の住民は強い日差しの降り注ぐ大地に住むからか、褐色の肌のひとが多い。そういえば変化魔法を使用したアイオスも似たような肌色なのは、この大陸の住民に合わせているからかもしれない。
建物と建物の間から見える青空をぼーっと眺めていると、マリーナがやってきた。俺の隣に腰掛ける。
「お疲れさま、ミライ。ここ、風が通って気持ちいいわね」
木々の間から通り抜ける風が、程よく汗を乾かしてくれる。
「あれ、カーネリアは一緒じゃないのか?」
姉妹セットでいることが多いのでそう尋ねると、マリーナはちょっとだけ拗ねたような顔をした。
「······お姉ちゃんなら、フェンと一緒にいるわ」
「嫉妬?」
冗談で言ったのだが、マリーナの表情がますます険しくなった。まさか本気で嫉妬してるのか。
「ねぇ、ミライ······フェンは、お姉ちゃんのこと何か言ってなかった?」
「いや、特に何も」
答えてから、ふと思い出す。雪の大陸でカーネリアはよくフェンに話しかけていたし、夜に二人で飲んでいることもあった。気が合うのか、楽しそうに談笑しているのを何度か見かけたことがあるが、まさか。
「······え?まさか二人ってそういう仲?」
「違うわよ!!」
いつの間にか良い仲になっていたのかと思ったら、マリーナが強めに否定した。
「違うのよ、お姉ちゃんがちょっとフェンを気に入ってるだけで。まだお付き合いしてるわけじゃないの!」
まだ、というのは将来的にそうなる可能性があると思っているのか。
「お姉ちゃん、結婚願望が強いから、気になる異性には積極的にアプローチするタイプなの。それが、今回はフェンってだけ」
自分が婿候補にターゲットされていることにフェンは気付いてるんだろうか。いや多分気付いてないな。
しかし、フェンとカーネリアか。うーん、二人がくっつく未来はちょっと想像できない。多分フェンは、カーネリアのことは飲み友達くらいにしか思ってないと思う。
こんな顔をしているということは、マリーナは姉に恋人ができることに否定的なのだろう。いつまでも現状のままでいられないことはわかっているだろうに。
「お姉ちゃんに幸せになってもらいたいとは思うんだけど。いつか結婚しちゃうと思うと寂しいっていうか······相手がフェンだとさらに複雑······」
「フェンだと駄目なのか?」
「駄目っていうか······フェンって、知識豊富で基本真面目だけど、私生活乱れてるでしょ」
フェンの汚部屋を思い出すと反論できない。だが、誰しも欠点はあるものだと思う。限度はあるかもしれないが、そういう所を補い合うのが夫婦じゃないだろうか。
「偏見だけど、研究者って家庭を省みないひとが多いし。結婚しても幸せになれるのか心配だわ」
「うーん、まぁ······」
確かにフェンは錬金術の研究が最優先だろう。フォローする言葉が見つからない。
「仮に二人がそういう関係になったとしても、邪魔する気はないのよ。文句は言うけど」
マリーナはひとつため息をついてから表情を緩めた。
「ごめんね、ミライにこんなこと話しちゃって。あたし、もう少し向こうを手伝ってくるわ」
マリーナは立ち上がって木陰から出た。
「あっ、今の話、お姉ちゃんとフェンには内緒だからね!」
踏み出した足を止めて一度振り返り、そう言い残す。
小走りに去っていく背中を見送り、俺はもうちょっと休憩してからにしようと思った。異世界人とは身体の作りが違うのだ。同じペースで動いていたら倒れる。
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戻ってきた交渉組の話よると、色々あったが魔族達の説得には成功したらしい。
疲れ果てた顔のカザマに話を聞くと、なんと魔族達と戦ったのだという。
ただし敵としてではなく、単に力試しとして。
強い者に従うという魔族らしい考え方だ。停戦と協力を求めるならば、まず力を示せと。
この考え方の魔族はまだ友好的な方だ。ラグズ陣営の魔族は問答無用で襲ってきたので、アイオスが速攻叩きのめして大人しくさせたらしい。
アイオスの強さは多くの魔族が知っていることだ。彼がいるだけで話を聞いてくれた魔族は多い。
それでも納得することが難しいと主張する魔族は、同行者であるカザマ達の力を試し、自分達に勝ったら指示に従ってもいいと言ったそうだ。
普通に考えて、本来はただの人間であるカザマが単独で複数の魔族に勝つのは無理である。セレネさんとカーネリアの援護を過分に受けて、なんとか勝利したという。
「普通の魔族にも苦戦するなんて······僕、本当に魔王を斃せるのかな······」
一応勝利したにもかかわらず、カザマのモチベーションが下がっている。実力の差に自信を失くしたらしい。
「もうアイオスが勇者でいいんじゃないかな。僕なんかよりずっと強いし」
大分投げやりになっている。カザマはやるときはやる男だが、たまにネガティブに拍車がかかる。
ほっといてもそのうち復活するが、軽く励ましておく。
「カザマは十分強いって。それに、アイオスは勇者の剣を扱えないだろ」
聖鉱石で造られた勇者の剣は、異世界の勇者にしか扱えない。触るだけでも魔力を吸うので、この世界の住民が勇者の剣を持つと弱体化してしまう。
「比べる相手が間違っています。アイオスは魔族の中でも良い血統に生まれついているそうではないですか。
あなたは異世界の者でありながら、努力して技を磨いてここまで強くなりました。誰にでも出来ることではありません」
セレネさんがカザマを慰めている。
「あなたが戦う姿に、多くの者が勇気をもらっています。力だけが強さではありません」
旅の間もこうして兄を励ましてくれていたのだろう。セレネさんに感謝だ。
カザマのことは彼女に任せて、俺はモニカの元へ行った。
「で、アイオスは?」
戻ってきた交渉組の中に、アイオスの姿は無かった。まだ廃城の魔族達の元にいるらしい。
「廃城の魔族達が暗黒大陸に戻るのを手伝うそうです。大分年季の入った船が停めてあって、彼らはそれに乗って砂漠の大陸に来ていました。アイオスは船の修理を手伝って、共に暗黒大陸へ渡ると言っていましたよ」
モニカが宿の窓から外を見たので、つられて俺も町の景色に目を向ける。ほとんど片付いたが、まだ戦闘の跡があちこちに見られた。
「この騒ぎがあった後なので······町には戻りづらかったでしょうし。暗黒大陸で落ち合うことになりました」
俺達は明日の朝、暗黒大陸へ渡ることになった。アイオスの集落で彼と合流する予定だ。
戦いの最中、ラヴェンナがアイオスも自分と同じ魔族であるとバラしたため、彼が魔族かもしれないという噂が流れている。セレネさんが“砂漠の勇者は実は魔族”という噂を流す前に広まってしまった。
悪い方に転がらないか心配である。
「大丈夫だと思うわよ」
モニカと二人で表情を翳らせていると、カーネリアがやって来た。
「町の修繕を手伝ってるとき、何人かに話を聞いたんだけどね。それほど悪い印象は与えてないみたいよ。
アイオスって、変化魔法のせいで種族的特徴が無くて、どこから来たかもわからない正体不明の男でしょ。定期的に食料や日用品を大量に購入していて、その運び先は不明。普通に怪しい、でも人助けをしているし、悪い人ではない。
多分だけど、今回のことが無くても魔族かもしれないって思われてたんじゃないかしら」
何十年もオアシスの町に通い続けていたら、顔も覚えられるだろう。オアシスの町の住民でも近隣の町の住民でもない、神出鬼没の砂漠の勇者。どこから来ているのか、何者なのか、違和感を覚える者がいてもおかしくない。
「害がないから見逃されていたのかもね。それに、疎う相手に砂漠の勇者なんて呼び名は付けないでしょう。
食料量販店の店主が、“今回の件で常連さんが来なくなったら寂しい”って言ってたわよ。
······中には出禁にするべきだって主張するひともいたけど、大半は砂漠の勇者を友好的に見ていたわ。過去に助けられたお礼がしたいって声も聞いたし」
本人は融和を願いながら今まで何もしてこなかった、と言っていたが、ちゃんと今までの行いの結果は出ていたのだ。
再会したら、またオアシスの町を訪れても大丈夫だとアイオスに伝えてやらなくては。




