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66.襲撃(2)

「······ラヴェンナ!」


死霊術師(ネクロマンサー)の姿を認め、アイオスが前に出て巨大トカゲに斬りかかる。しかし斬りつけた傷はすぐに再生し、(ふさ)がってしまった。


アイオスは巨大トカゲの()いた炎のブレスを(かわ)し、死霊術師(ネクロマンサー)に向かって叫ぶ。


「ゾンビ(ども)()めろ!」


その声に気付いたラヴェンナがアイオスを見下ろす。


「······あらぁ?そこにいるの、アイオスじゃなぁい」


いつか同じような台詞(せりふ)を聞いた気がする。


「魔王様に協力する気になった?」


赤い(くちびる)(ゆが)めて笑う。ラヴェンナは両腕を広げ、人々を襲うゾンビとめちゃくちゃになった町を示し、自慢気(じまんげ)(かた)った。


「見なさい!いい景色でしょ?あたくし達魔族は大きな力を手に入れた。

まるで生まれ変わったかのよう······今まで出来なかったことが簡単にできる。あたくしはこの力で、最強のゾンビ軍団を作り上げる!!」


そう言って高笑いする。自身の力に()いしれていた。

(おそ)らく、魔石の欠片(かけら)を取り込んだことで死霊魔術(ネクロマンシー)も強化されたのだ。ゾンビに再生能力が付与(ふよ)されているのはそのせいだろう。


「アイオス、あたくしの軍門(ぐんもん)(くだ)りなさい。悪いようにはしないわぁ。アナタなら、ゾンビにしなくても十分強い。魔石を取り込めば、さらに強くなれる」


誘うように白すぎる腕がアイオスに向けて伸ばされる。それを冷たく一瞥(いちべつ)し、彼は返事の代わりに剣を向けた。


「町を襲い、住民を傷付けるお前を許すことはできない。引かないというのならば、ここで引導(いんどう)(わた)す」


その返答が気に入らなったのか、ラヴェンナは笑みを消して手を下ろした。


「どの立場でものを言っているのかしらぁ。今ではもう、あたくしの方が強いのよ?殺されなくなければ(したが)いなさい」


()ぎた力は、いつか自分自身の身を滅ぼす」


「あっそ。まぁ、期待してなかったから別にいいわぁ」


そっけなくそう言うと、ラヴェンナは魔法陣を展開した。無差別に魔弾の雨が降り(そそ)ぐ。


ゾンビ達は傷付いても再生する。(あるじ)の魔弾に撃たれても、何事も無かったかのように起き上がった。


俺達はそうもいかないので回避(かいひ)行動を取った。何人か被弾(ひだん)したが、怪我人(けがにん)の治療はヒーラーに任せて死霊術師(ネクロマンサー)の動向を(うかが)う。


「みんなまとめて殺して、あたくしの配下に加えてあげる!」


変異モンスターが建物の(かげ)から現れ、ゾンビと共に逃げ遅れた住民や冒険者を襲い始める。ゾンビだけならともかく、変異モンスターよる攻撃が加わると戦いが(きび)しくなる。


「住民の避難を優先させろ!変異モンスターと戦う自信の無い者は足手まといだ。住民を守りながら下がれ!」


精悍(せいかん)な顔立ちの冒険者が叫ぶ。指示に従う者が多かったので、名の知れた冒険者なのかもしれない。


俺はゾンビを斬り倒しながらなんとかラヴェンナに近付こうとする。恐らく、彼女を(たお)せるのは勇者の(つるぎ)を持つ俺かカザマだけだ。


俺が斬ったゾンビは起き上がってこない。それに気付いたラヴェンナは(まゆ)をひそめた。


「なぁに、アナタ······その剣、まさか勇者!?」


それが意味するところを理解したのか、死霊術師(ネクロマンサー)の顔色が変わる。乗っている巨大トカゲを回頭(かいとう)させ、この場を離れようとした。


まずい、逃げられる。と思ったら、フェンが周囲の建物を足場に跳躍(ちょうやく)し、ラヴェンナの背後に接近するのが目に入った。(クロー)死霊術師(ネクロマンサー)の首へと振り下ろす。


ラヴェンナはその攻撃を魔術師とは思えない反応速度で(かわ)す。しかし躱されることを予期していたのか、フェンは反対の手に持っていた何かを女の顔に向かって投げた。


フェンが地面に降りたと同時、投げつけた何かが爆発した。爆弾だ。


その爆発音に多くの者が何事かと反応する。ゾンビを操る死霊術師(ネクロマンサー)身体(からだ)(かし)ぎ、トカゲの肩から地面に落下した。


ちょっと形容するのが(はばか)られる惨状(さんじょう)に、思わず目を()らしかける。しかし傷付いた頭部の損壊(そんかい)をそのままに、ラヴェンナは立ち上がった。


焼け()げた頭部がゆっくりと再生していく。しかしまだ視界は回復していないらしく、動きが緩慢(かんまん)だ。


チャンスとみて俺は勇者の(つるぎ)を握り直して接近した。しかし、剣を振りかぶり斬りかかろうとしたところで、横合いから叩きつけられた巨大トカゲの太い尻尾に邪魔をされた。


衝撃で数メートル飛ばされたが、すぐに態勢を立て直す。


怒りの形相(ぎょうそう)死霊術師(ネクロマンサー)が巨大トカゲに寄りかかり、自身を傷付けたフェンを(にら)みつけていた。


「女の顔を傷付けるなんて、最低ねぇ······!」


元通(もとどお)りになっているではないか」


悪びれずに軽く肩をすくめるフェンに、巨大トカゲの変異モンスターが襲いかかった。


フェンは軽い身のこなしで変異モンスターの攻撃を避け、距離を取っていく。彼がモンスターを引き付けてくれているうちに、俺は再び死霊術師(ネクロマンサー)に接近を(こころ)みた。


俺を近付けさせまいと、ラヴェンナは魔法で牽制(けんせい)してきた。当たればただでは済まないので、神経を集中させて回避する。


魔法攻撃とゾンビの邪魔が入って思うように距離が縮まらない。その間に、ラヴェンナは別の変異モンスターに乗って逃げようとしていた。鳥のような形状のモンスターだ。


「逃がさないわよっ!」


マリーナの放った雷魔法が鳥型の変異モンスターを直撃した。傷付いた翼はすぐに再生を始めたが、まだ飛べない。


ゾンビの輪を振り切ったアイオスが()び出し、鳥型変異モンスターに追撃を加えた。連続して攻撃を与えることで再生を遅らせ、飛び出すのを(ふせ)いでいる。


ラヴェンナは舌打ちをして、大きく息を吸い込んだ。


「聞きなさい!いいこと教えてあげるわぁ。そこにいる青紫色の髪の男は、あたくしと同じ魔族!(いつわ)りの姿に(だま)された(おろ)か者達。すぐそばに敵がいるとも知らないで!」


「!!」


その声にぎょっとしたのは俺達だけではない。死霊術師(ネクロマンサー)台詞(せりふ)が耳に届いた冒険者達が、そろってアイオスを見る。


どこからどう見ても、今のアイオスは魔族には見えない。

敵の言葉を信じる者がどれだけいるだろう。こちらを(まど)わすための()(ごと)だと思ってくれればいいのだが。


アイオスは一瞬戸惑(とまど)ったように動きを止めたが、すぐに何事もなかったかのように攻撃を再開する。


俺も加勢したいが、死霊術師(ネクロマンサー)の視線が俺に向いている。唯一(ゆいいつ)自身を殺せる勇者の(つるぎ)を持つ俺を、最優先で警戒しているらしい。


フェンとアイオスはそれぞれ変異モンスターを引き付けてくれている。マリーナは俺の後方でゾンビから距離を取りながら援護してくれている。


町の入口付近に残してきたカザマ達は無事だろうか。彼らもこちらに合流してくれれば、活路(かつろ)が開けるかもしれない。


襲いかかってくるゾンビの中に、魔族以外の姿が混じり始めた。犠牲が出始めている。


もしかしたら、未来では死ななかったはずのひとが死んでいるかもしれない。そう考えると、言いようのない罪悪感(ざいあくかん)を感じる。


弱気になりそうな心を(ふる)い起こし、唇を()()め、それでも前を向く。今の俺に出来るのは、一刻も早く死霊術師(ネクロマンサー)を斃し、オアシスの町を救うことだ。


周りの冒険者の援護を受けながら、俺は戦い続けた。


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