表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/111

61.共に生きて

◎◎アイオス◎◎



皆が食堂から去り、レッティと二人きりになった。誰も戻って来ないことを確認してから再び椅子(いす)に座り直し、恋人の話を聞く姿勢(しせい)を取る。


「レッティ。何を不安に思っている?」


上目遣(うわめづか)いに見上げてくる彼女の髪を軽く()でて問う。


「わたし、アイオスと一緒にいてもいい?」

「戦いにはさすがに連れて行けない」

「そうじゃなくて、その後」

「迎えに来るとさっき言ったばかりだが」


レッティの表情は晴れない。求めている言葉とは違うようだ。


「······(さっ)せなくてすまない。はっきり言ってくれないか」


謝って説明を求める。少し考えるような間があって、レッティは話しだした。


「わたし、アイオスの邪魔になってしまわないか心配なの」


邪魔だと思ったことなどないが。取り()えず口を(はさ)まず彼女の話に耳を傾ける。


「あのね。わたし、全種族の共存というアイオスの願いが(かな)うかもしれないことがすごく嬉しい」


初めてその理想を話した時から、叶う可能性が低いと分かっていても彼女は応援してくれていた。


「新しい魔王になってこれから頑張るなら、きっと忙しくなるよね。もっと色んな人と(かか)わることになるよね」


「そうだな」


「そんな時、足手まといになってしまわないか心配なの。だって、未来でわたしはアイオスに対する人質として、魔王に(さら)われたんでしょう。それと同じように、魔族との共存を(こころよ)く思わないひとが、わたしを人質にしてアイオスの夢を(さまた)げることがあるかもしれない」


確かに無いとは言い切れない。万が一そうなって何かしらの要求を突き付けられたら、彼女を失わないために応じざるを得ない。それが原因で共存の道が断たれる可能性も十分考えられる。


「わたしは弱いから、何もできない。わたしのせいでアイオスの夢が叶わなくなるなんて嫌」


だんだんレッティの言いたいことがわかってきた。共存を目指す上で失敗のリスクを生むかもしれない自分を、側に置いてもいいのかと聞いているのだ。


共存できる世界が実現するまで、何年かかるか分からない。一時的に距離を置くことはできないし、したくない。なぜなら彼女はヒト族だ。俺とは生きられる時間が違う。


魔王に殺されることが無かったとしても、彼女は確実に俺より先に寿命を迎えてしまうのだから。


限りある時間を、短くても共に()りたいと望むから、時間を(さかのぼ)って救いに来た。


元より気持ちを言葉にするのは苦手だが、精一杯、これから先の未来を考えて口を開く。


「他種族と共存し、同族の置かれた状況を改善したいと望むのは、魔族としての俺の願いだ」


別離(べつり)を言い渡されるとでも思っているのか、レッティの黒い瞳は(うる)んでいる。


「だが、俺個人の一番の願いは、お前と共に生きることだ」


見つめる先の潤んだ瞳が見開かれる。俺は腕を伸ばして彼女を引き寄せ、抱き()めた。


「魔族と他種族の融和(ゆうわ)が叶っても、隣にお前がいなくては意味がない」


「······!」


「今は一時的にここに滞在してもらうだけだ。ラグズを(たお)して戦いを終わらせたら、真っ先に迎えに来る」


「······うん」


「以前は、外の大陸に帰した方がお前にとっては良いと思っていた。だが、今は······」


少しだけ、抱き締める腕に力を込める。


「たとえ今、お前が外の大陸に戻りたいと言っても帰さない。俺が、帰したくない」


レッティの肩が(ふる)えた。泣いているかもしれないと心配になって少し身を離して表情を(うかが)うと、どうやら笑っているようだった。


やっと不安そうな表情が消えたのでほっとする。


椅子(いす)の上で不自然な姿勢でもあったので、一度抱き締めていた腕を()く。するとレッティは立ち上がって俺の(ひざ)の上に移動し、両腕をこちらの首に(から)めて身を寄せた。


「······それ、プロポーズ?」


少し間をおいて、小さく尋ねてくる。(かす)かに(しゅ)が差した(ほほ)と期待に満ちた黒い瞳。見下ろして、頷く。


「そう受け取ってもらって構わない」


「······じゃあ、ちゃんと言って?」


レッティの瞳は今にも泣きそうに潤んでいるが、唇は笑っている。


「お前が生きる残りの時間(とき)を、俺の妻として隣で過ごしてほしい」


レッティは俺の首に回した両腕に力を込め、首筋に頬擦(ほおず)りする。


「うん。わたし、あなたの妻になる」


細い身体を抱きしめ返して、言葉を続ける。


「もしもお前の身に何かあっても俺が必ず助けに行くから、大人しく待っていろ」


先ほど言っていた彼女の不安を払拭(ふっしょく)するためにそう言う。


「もちろん何もないのが一番だが、何かあれば俺が必ず守る。俺ひとりでカバーできない部分は、仲間達に頼る」


問題をひとりで解決しようとは、もう思わない。砂漠の大陸で、彼女が教えてくれたのだ。今の俺には仲間がいるのだと。


「それから、お前は自分には何も出来ないと言ったが、そんなことはない。集落の皆の雰囲気(ふんいき)が明るくなったのはお前が来てからだ。俺が他種族との共存という夢を諦めずにいられたのは、お前がいたからだ」


実際、彼女を(うしな)った未来では集落の雰囲気が目に見えて暗くなった。


「暗黒大陸に帰ってきてほしいと願うのは俺だけじゃない。集落のみんなも、お前の帰りを待っている」


「うん。帰る。アイオスやみんながいる屋敷に絶対帰る」


腕の力を(ゆる)め、至近距離で満面の笑顔を浮かべるレッティは言った。


「わたし、アイオスの子どもをたくさん産むから!」


恋人の······妻の突然の宣言に、あっけにとられて目を(またた)かせる。


「わたしが生きられる時間は短いから、家族をたくさんつくって、あなたが(さみ)しくないようにする。

ヒト族の血を引くから、アイオスより寿命は短いかもしれないけど······その子達が結婚して子どもができたら、孫とか曾孫(ひまご)とか、家族の誰かは側にいるでしょ?」


なんとも気の早すぎる話に、どう反応していいかわからない。しかし、レッティが俺を(おも)って言ってくれているのはわかる。


「あ、でも、娘を(よめ)に出したくない、なんて言うのはなしよ?」


人差し指を立てて真剣な顔で言う彼女の仕草(しぐさ)に思わず笑ってしまった。それは一体何年後の話だ。


「笑ってるアイオスの顔、好き」


同じように笑いながら、レッティは手のひらを俺の頬に重ねた。


「ほとんどこっちの姿で過ごしてるけど、本当のあなたの姿も好き」


「······怖いと言ったくせに」


「冗談だよ?」


······あれは冗談だったのか。結構気にしていたというのに。


「ね、すぐ言ってもいい?」

「何を?」

「アイオスと夫婦になったって、今すぐみんなに言っていい?」

「······」


今すぐ報告されると少々気まずい。どういう顔をしていいかわからなくなる。


「······戦いが終わってからでは駄目(だめ)か?」


「えぇ〜っ、それだとミライとカザマに報告する(ひま)ないじゃない!」


ぱたぱたと両足をばたつかせ、「あと、黙ってるなんて我慢できない!」と頬を(ふく)らませて不満を(うった)えてきた。


「······なら、せめて明日に」

「ん〜、わかった。しょうがないなぁ」


(あま)えるようにもう一度抱きついてくる妻の抱擁(ほうよう)に応えながら、こういうことは他人にどう伝えるものなのかと密かに悩んだ。


挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ