60.これからの世界のために(3)
アイオスを黙らせたセレネさんは話を進める。
「今の魔王が存在していては共存はおろか停戦も叶いません。ですので、現魔王を討つという方針は変えません。
此度の戦いが終われば、わたくしは王に、魔族に対する不当な対応を改めるように進言します。全種族が等しく共存できる道を模索すると約束しましょう」
王の覚えがめでたいセレネさんがそう言ってくれたのはかなり心強い。思いの外大きく話が進みそうな予感に驚く。
「暴君である魔王を討つために勇者カザマに協力し、共存の意思ある魔族として、あなたを我が王に紹介します。同行して頂けますね?」
確認の形を取っているが、有無を言わさぬ圧力がある。ほぼ強制だろう。
「ただし、そのためには、ある程度魔族の意思を統一して頂かなくてはなりません。魔族をまとめ導く代表者······新たな魔王が必要です」
「俺に魔王になれと?」
「もちろん、これまでの魔王と同じでは困ります。質問ですが、魔王とはどうやって選ばれるのです?」
セレネさんはすっかりいつもの調子を取り戻して喋っている。
魔王が現れる条件は、暗黒大陸以外には伝わっていない。彼女の問いは俺達が共有しようと思っていた内容を含むものだったので、アイオスは以前俺達に話したのと同じ内容を語った。
瘴気を含む大量の魔力が凝縮された魔石を取り込み、適応した者が魔王を名乗っていること。
聖鉱石······聖石は瘴気を中和し魔力を吸収する。だからこそ、それで作られた勇者の剣は魔王の心臓を破壊できるということ。
聖鉱石に適合するための条件は、異世界の者で、かつ精霊に加護を与えられた者であること。
そして、魔石を心臓の核とすることで魔王が得られる強大な力と支配能力。今の暗黒大陸と魔族の現状について話した。
「······なるほど。喪われた文献は、魔族側に残っていたのですね」
「なんで異世界の者しか勇者の剣が扱えないんだろうと不思議に思っていたよ」
「魔王って、そういう経緯で現れていたのね」
長く生きているセレネさんでも知らない情報に、カザマもカーネリアも驚きを隠せないようだ。
「不死の力の源は瘴気に汚染された魔石······暗黒大陸の環境が悪くなっている原因でもあるようですし、瘴気の問題も解決する必要がありそうですね」
暗黒大陸に住まう魔族達のためにも、この問題はぜひとも解決してもらいたい。
「とにかく、魔王が自称なら別に魔石を取り込む必要はなさそうですね。統率して導く能力があれば」
今でもアイオスは自分の集落の代表のような立場なので、その点は問題ないと思う。
一部の魔族には外の大陸の者達に肩入れする裏切り者と思われているかもしれないが、誤解が解ければ話を聞いてもらえるだろう。
まだまだ問題は山積みだろうが、具体的な話が出たことで気分が上向きになった。全種族が共存する世界も夢じゃないと思える。
平和な世界のためにも、まずは争いの元凶である魔王ラグズの討伐が先決だ。
魔王城の構造や、一度戦ったラグズの攻撃パターンなども話した。俺とカザマ、どちらかの勇者の剣を届かせることができればこちらの勝利だ。
連携力を高めるため、俺達はそれぞれの得意とする戦い方を開示し、何日かは協調性を高めるための戦闘訓練に時間を使うことにした。
セレネさんは回復魔法と光魔法を得意とする。
カーネリアは風、土、氷魔法に適性があり、かなり高レベルな魔法を使えるらしい。
前衛は俺、カザマ、モニカ、アイオス。後衛にマリーナ、フェン、セレネさん、カーネリア。バランスが取れていると思う。
改めて、新たな仲間たちを加えて魔王を討つために皆で協力すると約束した。
「ひとつ、気がかりがある」
話し合いか終盤に差し掛かったところで、アイオスが懸念事項があると言い出した。俺が合流する少し前の出来事で、ガルグに関する話だという。
「ガルグが死に際に空に放った赤い光。あれは、何かの合図だったかもしれない」
ガルグは最期に「後悔させてやる」と言って謎の魔法を放ち、事切れたという。
空に打ち上げられた赤い光。信号弾のようなものだろうか。誰に、何を知らせるために?
「推測だが、勇者を殺すという任に失敗したことをラグズに知らせるためのものだったと思う。
予定通りに勇者を始末できなくなったなら、何か別の罠を用意してくる可能性が考えられる」
過去を変えたことにより、魔王がどんな行動に出るか分からなくなった。こういったことも起こり得ると分かっていたが、不安を感じてしまう。
気を引き締め、油断せずに挑まなくてはならない。
「俺からも話しておきたい事があるんだけど、いいかな?」
みんなの視線を集め、俺は新しく得た加護と代償について話した。
以前の加護と引き換えに、戦うための新たな加護を得た。しかしそれは条件付きで、俺自身が勇者としての意識を持ち、仲間から勇者として信頼されていなければ戦えないこと。
再びこの世界へ転移するために精霊の力を借り、代償として俺自身と俺に関わった者達の時間転移を禁じられたことを説明した。
「だからもう、前みたいにやり直せない。次が、正真正銘最後の戦いだ。誰も犠牲になってほしくない。みんなで生きて勝利しよう」
俺の言葉にみんなが頷く。
話し合いを終えて解散しようとすると、席を立とうとしたアイオスをヴァイオレットが袖を掴んで呼び止めた。
「どうした、ヴァイオレット?」
大人しく俺達の話し合いを聞いていたヴァイオレットは、少し不安そうな表情でアイオスを見上げている。戦いに赴く恋人の身を案じているんだろうか。
「······アイオス、魔王になるの?」
「必要なら。不服か?」
「ううん、そうじゃなくて。アイオスの望みが叶うなら、わたしは応援する。戦いに行くことも、アイオス達は負けないって信じてる」
なら、ヴァイオレットは何を不安に思っているのだろう。仲間達も心配そうに彼女の様子を伺っている。
「戦いが終わったら、迎えに来てくれる?わたし、暗黒大陸に戻っていい?」
「もちろん、戦いが終われば迎えに来るが。今更集落から追い出す気はない」
しかし、まだヴァイオレットは何か言いたそうにしている。が、言葉にならない。
もしかして、俺達がいたら話しにくいことだろうか。カザマに視線を向けてみる。
「······僕達は先に部屋に戻ろうか」
俺と同じことを考えたらしいカザマが気を利かせて言う。
気にはなるが、俺達は二人を残して食堂を出ることにした。
しかし、カーネリアが出て行ったと見せかけて扉に張り付き、二人の会話に聞き耳を立てようとしていた。呆れた目でみんなが見つめる中、そんな姉をマリーナが引き剥がして部屋に引きずって行った。




