55.きょうだい(2)
「ところで、ミライ達は一度魔王を斃したって話だけど。やっぱり強かった?僕、正直すごく不安なんだ······魔族の王って、どんな相手だった?」
カザマは魔王についての情報を何も知らない。俺も魔王と戦う前は色々と不安だったので、兄の気持ちはわかる。
俺の場合は魔族の協力者というアドバンテージがあったので、事前に情報を得ることができた。通常なら魔王とは初見で戦わなければならないのだ。
魔王城の最奥で対面した時の事を思い出す。
「偉そうな顔色の悪いオッサンだった」
「僕が聞きたかった答えと違う!」
カザマの望む回答ではなかった。まぁ、わかってて言ってたんだが。能力とか攻撃パターンとかが知りたかったんだろう。
「······ラグズは魔石を取り込んだことで高い再生能力を備えている。加えて、その肉体もかなり変異していた。通常の対人戦とは違う戦い方になる。言うまでもなく物理的に強く、魔力も高いため強力な魔法を放ってくる」
俺の代わりにアイオスが真面目に答えた。
「そう!そういうことが聞きたかったんだよ。ラグズって魔王の名前?魔石って何?」
「その辺りの内容はカーネリアやセレネとも共有しなければならない。先に聞きたければ説明するのもやぶさかではないが、どうする?」
フェンの言うように、カザマとその仲間達に説明しようと思っていた内容だ。今、カザマだけに話すと二度手間になる。
「あ、そっか······うーん、気になるけど後でまとめて聞くことにするよ」
少し悩んで、カザマはそう言った。その胸中では様々な疑問が渦巻いているに違いない。
「あ、じゃあ、ミライに聞きたいんだけど、空から降ってきたときに剣に雷を帯びていたよね。あれってどうやったんだい?魔法?」
「いや、残念ながら俺には魔法適性はないよ。あれは剣に蓄えた魔力を使って属性を付与しただけ」
実は、あの一撃で勇者の剣の魔力はほぼ使い切っていた。もう一度やれと言われてもできない。あの威力が出たのは、魔力を込める加減がわからなくてやり過ぎただけである。
「僕にもできるかな?勇者の剣を手にしたばかりで、まだそんなに使いこなせてないんだよ」
「できると思うぞ。適性の確認はマリーナ······いや、カザマはカーネリアに見てもらうといいんじゃないか」
カザマの場合はマリーナよりも、共に旅をしたカーネリアに手伝ってもらったほうがいいだろう。
「うん、そうするよ」
「せっかくだし、訓練を兼ねて対戦しようぜ」
「手加減しないよ?」
「こっちの台詞だって」
砂漠の大陸で少しだけカザマが剣を振るうのを見たが、かなり様になっていた。多分それなりに強い。
俺だって新たな加護のおかげで戦闘力は上がったと思うが、正式な勇者であるカザマ相手にどれだけやれるだろうか。
「ミライは兄と再会して以降、雰囲気が明るくなったな」
俺とカザマのやり取りを見て、フェンがどこか嬉しそうに言う。
「子供っぽくなったようにも見えるが」
アイオスがちょっと失礼なことを言っている。
「マリーナもだな。姉から離れようとしない。もともと仲の良い姉妹ではあるだろうが。
ちなみに君もだぞ。自覚が無いようだが」
「······そうだろうか」
俺は自分が浮かれていることを自覚しているが、アイオスは無自覚なようだ。
道中ヴァイオレットと手を繋ぎっぱなしだったのを、他人からどう見えているか考えたことはないんだろうか。仲が良いのは結構だが。
そういえば、この世界では異種族婚は珍しいのだろうか。色々な種族が共存しているため、他にもアイオスとヴァイオレットのような異なる種族のカップルがいてもおかしくはない。
混血種に出会ったことはないが、気付いていないだけでどこかにいるのかもしれない。もしかしたら、過去の勇者の子孫もいたりして。
なんだか眠くなってきた。宿に戻ったら一眠りしよう。ああでも、腹が減ったから何か食べたいな。
この世界に召喚されてから今までの中で、一番落ち着いた時間だ。
以前は早く元の世界に帰りたくて焦っていた。時間が経てば立つほど俺の日常が遠ざかっていく気がして、こっちの世界での生活に馴染むのが恐かった。
しかし今は、何度かゲートを利用する経験を経たことで、魔王を斃せば帰れることがわかっている。そしてカザマも生きている。
元の世界に帰った時のために、行方不明になっている間の言い訳を考えるのが億劫だが、それは後でカザマと一緒に考えよう。異世界にいました、なんて言って信じてもらえるわけがないし。
「せっかく異世界召喚されたんだし、魔法が使えたら良かったんだけどなぁ」
「僕達は魔法が使えないから、この世界のひと達がちょっと羨ましいよね」
カザマも俺と同じ考えらしい。やっぱり魔法使いって憧れるよな。
「君達の世界に魔法は無いのだったな。しかし、魔法という概念はあるのが面白い」
「漫画やゲームでよく使われる設定なんだよ」
「それはミライ達の世界の娯楽か。想像がつかないな」
フェンにゲームの説明をしても多分伝わらないだろう。
「こっちの世界にはゲーム機はおろかテレビすらないからね。
漫画は、絵で表現した物語だよ。絵本とはちょっと違うんだけど」
カザマが簡単に説明する。この世界の娯楽の本と言えば冒険者の書いた伝記や恋愛小説などだ。あとは子ども向けの絵本。
「アイオスの屋敷で見た絵本は、冒険者視点のやつが多かったな」
暇つぶしに本棚を漁った時のことを思い出す。
山に巣食うドラゴンを倒す話、廃城に現れるゴーストを倒す話などの冒険譚。これらは、もしかしたら実話だったりするんだろうか。この世界だったらありえる。
「へぇ。アイオスが子どもの時に読んでた本?」
「いや。絵本はヴァイオレットが子ども達のために買ってきたものだ」
カザマの問いに、特に何も考えず答えるアイオス。
「えっ、子持ちだったんだ!?」
俺は魔族の集落を訪れたことがあるので、アイオスの言う“子ども達”が屋敷で保護している親を失くした子ども達だと知っている。しかし、何も知らないカザマはアイオスの子だと勘違いした。
「違う、言葉が足りなかった······保護している孤児達のことだ」
やや焦った様子でアイオスが補足する。
「孤児?」
「家族を失くし行き場を無くした者たちを、アイオスは自分の屋敷で保護しているのだよ。彼がヒト族の姿をとっているのは、住民の食料などを賄うために砂漠の大陸に出入りしているからだ」
それでもまだ言葉の足りないアイオスの代わりにフェンが説明する。
「そうだったんだ······」
カザマは想像と違う魔族の実態に驚いているようだ。
カザマがどんな風に魔族について聞いているかは知らないが、俺と同じでこの世界の住民でないため、受け入れるスピードが早い。少し前まではやや遠慮気味だったが、今はすっかり打ち解けたようで普通にアイオスと言葉を交わしている。
アイオスも、出会った頃に比べたら大分気楽に話してくれるようになった。
最初の頃は答えたくない質問には沈黙で返すし、声音も冷たかった。
フェンは一見、出会った頃から変わらないように見えるが、距離は縮まっていると思う。最初はただの仲間として接していたとすれば、今は友人として接してくれている、という感じだ。
フェンとアイオスだけでなく、マリーナとモニカも大切な仲間で友人だと思っている。たとえ住む世界が違って、魔王を斃して元の世界に帰ったら会えなくなるとしても。
再び魔王城に行く前に、仲間達ひとりひとりにしっかり礼を言っておこう。後悔のないように、この世界にいる間にできることをしようと思った。




