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49.相容れない二人

◎◎アイオス◎◎



ミライの兄だと聞いていたから、もう少し大人びていると思っていた。


だが実際のカザマはミライと対して変わらないくらいの少年で、言われなければどちらが兄でどちらが弟かわからないかもしれない。


彼らの前に姿を見せると、想定通りやや警戒した様子を見せた。ただ一人、ガルグだけは俺の姿を見て驚愕(きょうがく)の表情を浮かべている。


正体がバラされることを(さっ)し、どうやって切り抜けるか考えていることだろう。だが、逃げ道など与えない。

ガルグには、ここで引導(いんどう)を渡す。


同族同士で争うなど、本当はしたくない。だが、どれだけ言葉を交わしても、奴とは相容(あいい)れない。ラグズも同様だ。


魔族が今後も(ほろ)びずに生きていくためには、彼らのような思想の持ち主には退場してもらわなくてはならない。たとえ、同族殺しの汚名(おめい)を着ても。


ガルグの立っている位置がカザマに近い。その気なれば、剣を抜いてすぐに斬り殺すことができるだろう。細心の注意を払って二人を見る。


カザマの()げ茶色の瞳と目が合った。その双眸(そうぼう)にミライのそれが重なって見えた気がした。


「あの、僕達に何か用ですか?」


静かに彼らの反応を(うかが)っていると、カザマが口を開いた。


声音(こわね)から敵意は感じない。警戒心が薄いのは兄弟(そろ)って同じらしい。


「異世界からの来訪者(らいほうしゃ)、カザマ」


ガルグの動きに注意を払いながら、口を開く。魔術師の女二人は、いつこちらに攻撃を仕掛(しか)けてきてもおかしくない様子だったが、今は気にしない。


変化魔法を解き、先に俺が魔族ということを明かした後、ガルグも同じ魔族であると言い放つ。

そしていくつか言葉を交わした後、ついにガルグが動いた。


ガルクの手が剣を抜く。俺は地を()ると同時に、(ひそ)かに待機状態にしていた風魔法を発動して広げた翼に乗せた。事前にかけておいた支援魔法によるスピード強化も合わせ、一瞬でガルクに肉薄(にくはく)する。


ガルクの剣がカザマに届く前に防いだ。


甲高(かんだか)く響く金属音。背後に(かば)うカザマには、何が起きたのか分からなかっただろう。


鍔迫(つばぜ)り合い、間近でガルグと視線を交錯(こうさく)させる。


ガルグの瞳が苛立(いらだ)ちと怒りに燃えている。正体が完全にバレる前に、カザマを(ほうむ)りたかったのだろう。


考えてみれば、これまで勇者を殺すチャンスなどいくらでもあったはずだ。にも関わらず今まで共に旅をしていたのは、恐らくラグズの命令に違いない。

推測(すいそく)だが、ラグズの目の前に連れてきてから殺せとでも命じられていたのではないだろか。


他者が苦しむ様を見るのを好むラグズらしいやり方だ。


腕に力を込め、ガルグの剣を思い切り(はじ)く。カザマから引き離し、すぐさま距離をつめて斬りかかる。


「ぐうぅっ······!」


ガルグが(うめ)く。

変化魔法を使用している間は、本来の力を発揮(はっき)できない。本来の姿に戻らないのは、まだカザマ達の信用を取り戻せると思っているからか。


「そのままの姿で、俺の剣を受け続けられるか?」


「おのれ、アイオス!」


軽く挑発(ちょうはつ)するが、変化魔法を解く気はないようだ。ならば。


「ガルグ。力ずくで暴かせてもらう!」


剣撃に自身の魔力の(かたまり)を乗せてガルグへ向けて放つ。余波(よは)で周囲の砂が吹き上がる。


至近距離から魔力の塊をぶつけられたガルグの変化魔法が(くず)れた。

本来の姿に戻ったガルグは、凶暴な本性を隠すのを止めた。


「アイオス!よくも邪魔をッ!!」


防戦一方だったガルグが攻撃に出る。単純な腕力だけならば、ガルグの方が上だろう。一撃一撃が岩を受け止めたように重い。


「貴様の思い通りにはさせん!」


剣の軌道(きどう)を読み、自身の大剣で受け止める。押し返し、さらにカザマ達から距離を取った。


どちらの剣も、まだ相手の身体(からだ)に届いていない。集中力を切らし、先に(すき)を見せた方が斬られる。


ガルグの余裕を奪うため、手加減なしに攻撃する。今まで何度か剣を(まじ)えたが、始めて本気で戦ったのは魔王戦の時。そして今も、手を抜く理由は無い。


「ぐっ······、貴様なんぞに!長年かけて準備した計画を邪魔されてたまるかぁッ!」


(あせ)りからか、ガルグの剣が(みだ)れ始める。


「ガルグ!貴様は長く外の大陸で暮らし、多くの者と関わって来たのだろう!」


剣撃の合間に、これが最後と思い言葉を投げる。


「共に過ごした彼らに、情は()かなかったのか?カザマ達が向ける信頼に、何も思わなかったのか?

貴様を仲間だと思っている彼らを殺して、何も感じなかったのか!」


(うしな)われた未来と今が混同して、言葉に矛盾(むじゅん)が混じってしまった。だが、意味は伝わっただろう。


「情?信頼?くだらない。外の大陸の者共は全員、(たお)すべき敵だ!」


「言葉を()わして、分かり合えるとは思わなかったのか!」


「分かり合える?」


はっ、とガルグは小馬鹿(こばか)にしたように笑った。


「不可能だ。······見ろ!これが証拠だ!」


ガルグの視線が俺の背後を見ている。釣られて後ろを見るようなことはしない。だが、背後に意識を向けると魔力の高まりを感じた。

それが意味することを(さと)り、しかし眼前のガルグからは目を()らさず、感覚で動く。


ガルグの台詞(せりふ)から数秒後、無数の光の矢が俺達に降り注いだ。


思ったより数が多い。全ては()けられず、肩や背中に何本か刺さった。


カザマの仲間である魔術師のうち、どちらかが魔法を放ったのだろう。さすがは勇者パーティの同行者と言うべきか。一度にこれほどの数の魔法の矢を打ち出すとは。


光の矢を食らったのはガルグも同じだった。だが、致命傷(ちめいしょう)()けている。


回避(かいひ)行動により、少し距離が出来てしまった。


刺さった矢はそのままに、ガルグに再接近する。放っておいても、魔力により構成された矢は自然に霧散する。


「魔族だと知った途端(とたん)にこれだ!わかっただろう、外の者共とは絶対に相容れないということが!!」


「貴様がカザマに刃を向けなければ、違っていたかもしれない!」


もはや言っても(せん)のないことだが。ガルグはカザマに殺意を向け、彼らはそれを裏切りと(とら)えた。一度失った信頼は、取り戻すのが難しい。


俺もガルグと同じ魔族だ。諸共(もろとも)攻撃されることは予想していたので驚かない。


そして、魔法攻撃の第二弾は襲ってこなかった。フェン達が攻撃を()めてくれているのだろう。


背後の対応は任せてある。俺は目の前のガルグだけに集中する。

だから、ガルグが苦し(まぎ)れに俺の背後に放った魔法の行く末は気にしない。


俺の注意を()らしたかったのだろうが、その手には乗らない。その程度の魔法で、仲間達が負傷するはずがないのだから。


魔法を発動した直後の隙をつき、ガルグの身体に斬撃を叩き込む。右肩から(なな)めに剣が走り、血飛沫(ちしぶき)が上がる。


「······ッ!!」


衝撃に()()ったガルグが数歩たたらを踏んで後退する。俺は返す刀で斬りかかり、もう一撃加えた。


形勢が大きく傾いた。


重症を負い、それでもガルグは歯を食いしばりながら戦いを(あきら)めない。

しかし、動きは格段に(にぶ)った。一撃の威力(いりょく)が目に見えて低下し、攻撃の回数も減っていく。


ガルグの剣を強く弾くと、握力(あくりょく)の弱ったその手から大剣が放物線を(えが)いて飛んでいった。


無手となったガルグが(ひざ)をつく。まだ油断はできない。なぜなら、その目は今だに闘争心(とうそうしん)に燃えているからだ。


ガルグの右腕が持ち上がり、手のひらが俺の方へ向けられる。魔法陣が出現し、いくつもの魔弾が放たれる。


真っ直ぐに放たれるそれは、回避するまでもない。全て剣で弾いた。


なぶり殺しにするような趣味はない。あと一撃で終わらせる。


ふらつきながら立ち上がったガルグに接近し、その心臓に剣を突き立てた。

至近で血を吐くガルグの顔は()んでいた。


「······後悔させてやろう」


その表情と言葉に嫌な予感を感じる。視界の(はし)に赤く光るものが見えた。ガルグの左手だ。


魔法発動の兆候(ちょうこう)。この状況で考えられるのは、道連れを(ねら)った自爆魔法か?


剣を抜き、急いで後方へ飛び退(すさ)る。しかし、俺の予想は外れた。ガルグは左手を空に向けて魔法を放った。


赤い光は高く高く天に昇り、空で弾けた。一面の空が真っ赤に染まる。


それだけだった。


「今のは······?」


攻撃魔法ではなかった。空が色を変えたのはほんの数秒で、もう元の青空を取り戻している。


見上げていた視線を戻すと、ガルグが地に伏しているのが目に入った。心臓を刺したので生きてはいないと思うが、確認するために近付く。


間違いなく事切れていることを確認し、一瞬だけ瞑目(めいもく)した。


ガルグが死に(ぎわ)に放った魔法の正体はわからないが、何も起こる気配はない。


戦いは終わった。違和感(いわかん)は残るが、剣を鞘に(おさ)めて肩の力を抜いた。


その瞬間。


背後から放たれた太い光の矢が、俺の腹部を(つらぬ)いた。


「······ッッ!?」


なんの予兆(よちょう)も無かった。腹部から生えた光の矢が細かい粒子(りゅうし)になって消えていくのを見ながら、その場に膝をつく。


「アイオスッ!!」


恋人(レッティ)が悲鳴のように俺の名を呼ぶのが聞こえた。


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