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41.目的地へ

◎◎モニカ◎◎



王都の港はひとが多い。あらゆる種族の冒険者や商人が行き交い、(にぎ)わっている。


船を待つ者や船から降りてきた乗客が利用しやすいように、食事処や量販店の建物が隣接(りんせつ)している。


ひとが多ければトラブルも起こる。それらのトラブル対策に港の監視(かんし)や、荒くれ者の冒険者の取り()まりも騎士の仕事のひとつだ。


なので、ここにいる騎士に自分の姿を見られるのは非常にまずい。


王宮に仕える騎士もかなりの数がいるので、皆が自分の顔を知っているわけではない。

しかし、万が一を考えて顔は隠しておきたかった。


旅行者のふりをして砂漠の大陸行きの船の乗船券を購入し、目立たないように待つ。


砂漠の大陸に着いたらまずどうしようか。明確な計画を立てているわけではない。


仲間達と合流したいが、みんながどこにいるのかわからない。そのうち合流できると信じて、カザマ達を探したほうがいいだろうか。


目的はカザマ達を助けることなのだから、勇者一行の足取りを辿(たど)ればいつかは合流できる気がする。


少し顔を上げて、王城の方へ首を(めぐ)らせる。やはり少し未練(みれん)があった。


勇者一行の中にはセレネ様がいる。全部上手くいったら、訳を話して騎士団に口添えをお願いできないだろうか。


そういえば、孤児院にも何も伝えずに来てしまった。


サンストン孤児院。成人して院を出てからも、院長や職員のみんなとは仲良くさせてもらっている。

育ててもらった恩もあるので、定期的に寄付もしていた。たまに差し入れでお菓子(かし)の詰め合わせを(おく)ると子ども達が喜んでくれる。


特に院長は、自分が騎士になるのを応援してくれていたので、勝手なことをしていると知れたらがっかりされるかもしれない。


親が不明で名前も無かった自分にモニカという名を与えてくれ、院の名前であるサンストンを苗字として名乗ることを許してくれた。


自分にとって大切な場所。帰ってきたら事情を説明して謝らなければ。


そろそろ乗船予定の船が来る時間だ。船着き場に行って少し待つと、大型船が到着した。


下船する乗客の流れが()むのを待ってからタラップを上がる。


帽子のつばを指で(つま)み、少し視界を広げて周囲を見やる。すると、タラップを登る乗客を(なが)めているひとりの獣人(じゅうじん)の姿が目に入った。


眼鏡(めがね)をかけた灰狼(かいろう)族の獣人。見慣れたその姿は、共に旅をした仲間のフェンだった。


「フェン!」


思いがけず、早くも仲間を見つけた嬉しさで声が(はず)む。


獣人は耳がいいのでこちらの声が聞こえたようだ。灰色の耳がぴんと立ってこちらを向く。


しかしその視線はあちこちを彷徨(さまよ)っている。名前を呼んだ相手を探しているようだが、自分には気づいていない。


早足で彼の元へ向かい、もう一度名を呼ぶ。


「フェン!」


距離を詰めたことで声の主が自分だと気付いたらしい。眼鏡の奥の瞳が驚きに見開かれる。


帽子を取って顔を見せる。するとフェンは、ますます目を丸くしてこちらを見てきた。視線が頭の天辺(てっぺん)から足元まで落ち、正面に戻ってくる。


「よかったです、こんなに早くあなたと合流できるなんて············あっ!」


言葉を(つむ)いでいる途中で気付いた。

目の前にいるフェンは自分の知るフェンだろうか。この時間を生きるフェンである可能性もある。自分を見て驚いた顔をしているし、もしかして······


「······モニカ?」


間違えたかもしれないと内心で(あせ)っていると、フェンの口から自分の名が(こぼ)れた。


「はい、そうです!······あの、あなたは自分の知っているフェンでしょうか?」


変な問い方だが、それ以外に言い方が思いつかなかった。


「ああ、共に魔王と戦った仲間だとも」


その言葉で、間違いなく仲間のフェンだと確信した。ほっと胸を()で下ろす。


「運良くここで合流できればと思って君の姿を探していたのだが······そんな格好をしているとは思わなかった。気付かなかったよ」


言われて、自分が普段の(よろい)(まと)っていないことを思い出した。


「あっ、これは······騎士の鎧だと、見つかったら連れ戻されてしまうので」


途端に少し恥ずかしくなってきて、帽子で胸の辺りを隠す。


「騎士団に許可を取らなかったのかね?」


「事情を話しても信じてもらえませんでしたし、許可を取っている時間はありませんでした」


「······しかし、それでは」


(あん)ずるようなフェンの声音(こわね)に、苦笑(にがわら)いを返す。


「多分クビですね」


「············」


またもフェンの瞳が驚きに丸くなる。


「そこまでしなくとも······君の立場は皆知っているし、もっと穏便(おんびん)な手段で出てくればいいものを」


「ですが、モタモタしていると間に合いません。それに、これは自分が選んだことですから」


気にしないでください、と続けたが、フェンの表情は晴れない。


船はすでに動き出している。もう後戻りはできない。


フェンは仕方ないという(ふう)に軽くため息をついた。


「口添えしてやりたいが、私では力になれない。カザマを救った後、彼に騎士団に事情を説明してもらってはどうかな」


確かに勇者の言葉があれば(つみ)を軽くしてもらえるかもしれない。とはいっても、減給などの罰則(ばっそく)()せられるだろうが。


「そうですね。考えておきます」


立ち話も何なので、船内に移動して一般解放されている待合室に入った。

空いているテーブルにつき、話を再開する。


「そういえば、時間転移したことを騎士団で話したのかね?」


「いえ、ガルグが魔族で危険だということを話しただけです」


信じてもらえなかったどころか、訓練中に居眠(いねむ)りをしていたと誤解されて罰則を受けたことを話した。


「まあ、普通はそうだろうな。簡単に信じてもらえるわけがない。

今回の転移は特殊なケースだ。転移後の状況をもう少し(くわ)しく教えてもらっても?」


「はい、もちろんです」


お互いに転移直後の情報を交換した。


フェンは自宅に転移していたようだ。なぜか詳しい状況は説明したがらなかったが、転移直後は意識の消失と記憶の混濁(こんだく)がみられたらしい。

そういえば魔王城で受けた武具の損傷が無かったことになっていたと、彼の話を聞いて気付いた。


フェンによると、転移した自分と今の自分が同時に存在しているということはないらしい。


他にも色々気付いていることがある様子だったが、残りの考察は他のみんなの話を聞いてからということになった。


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