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35.絶望に差し込んだ光(2)

肉体的にも精神的にも疲弊(ひへい)していて、すぐ側まで誰かが接近していることに気付かなかった。


物音に反応して顔を向けると、ヒト族の少年が立っていた。

近くに人里(ひとざと)があったのだろう。


その時の俺は外見(がいけん)を変える魔法を(まと)っておらず、一目(ひとめ)で魔族とわかる姿だった。

少年は腰に剣を()びており、手負(てお)いの魔族を見逃すとは思えない。


やろうと思えばヒト族の子どもなど、手負いでも殺せる。

だが、姿を見られたからといって、たまたま通りかかった少年の命を奪う気はない。それに、抵抗する気力がわかなかった。


色々なことがあって疲れた。非力な少年に殺されても仕方ないと(あきら)めた。


だというのに。


「あ、あんた、大丈夫か?怪我(けが)してるのか?どうしよう、治療道具なんて持ってないし」


聞こえてきた第一声がそれだった。


本気で耳を疑った。


俺が魔族だとわかっても、戸惑(とまど)いは見せたが攻撃してこない。

(くわ)しくはわからなかったが、どうやらガルグと何らかの(かか)わりがある様子だった。


「俺には、あんたを殺す理由がない」


結局、少年はそう言って俺を見逃した。何を思って(なさ)けをかけたのか。


死に(そこ)ねた俺は、その場から離れた。少年がやって来た方向とは逆に歩き、人里から距離をとった。


俺が転移した先は中央大陸だった。行き慣れた砂漠の大陸とは気候も土地の様子も全く異なる。

雪の大陸は、その名の通り“雪”という微細(びさい)な氷の結晶が大量に降り積もった真っ白な大地だと聞いたことがあるので、そこではないとわかった。


とはいえ、そこが中央大陸のどこなのかはさっぱりわからなった。


傷が()えた後、いつも身に着けているペンダントが無いことに気付いた。ラグズとの戦いの最中(さなか)に落としたのか、ここに転移してから無くしたのかわからない。


何もかも上手(うま)くいかなくて死にたくなる。それでも、集落に帰るために行動しなくてはならなかったので、変化魔法でヒト族と変わらぬ外見に姿を変え、情報を集めた。


直接(ちょくせつ)暗黒大陸へ行く必要はない。砂漠の大陸まで戻ることができればいい。


普段使っている小舟は暗黒大陸(がわ)にあるが、砂漠の大陸(がわ)の隠し通路の先にある()()には古い舟を残してある。そこまで行けば暗黒大陸へ帰れる。


だから(みなと)を探し、砂漠の大陸行きの船に乗る必要があった。


俺がいたのは中央大陸の南側。南側の港は閉鎖(へいさ)されていた。


船に乗るためには北側の王都に行く必要があった。ある程度(ていど)旅の(そな)えが必要と判断し、途中立ち寄った町で準備をすることにした。


そこで、近くで魔族の姿を見た、という噂が耳に入った。真偽(しんぎ)はともかく、同胞の噂を聞いてしまっては確かめずにはいられない。


目撃情報のあった森へ向かうと、ガルグが三人組の旅人を殺そうとしていた。


少年に(やいば)が振り下ろされる寸前で(あいだ)に割り込んだ。何があったか知らないが、目の前の殺人を見逃すわけにはいかない。


三人組がその場から離れたことを確認し、ラグズの側近であるガルグに、無駄な争いを止めろと言い(つの)った。

だが、ラグズと思考を同じくするガルグには理解されなかった。


逃亡したガルグを追ったが、視界の悪い木々の間を見失わずに追うのは難しかった。

進路を妨害するトレントを何体か倒した時には完全にガルグを見失い、方角を気にせず走ったせいで道に迷う始末(しまつ)


最悪、暗くなってから上空に()んで方角を確認すればいいかと考えながら歩いていると、ロープに(しば)られた三人の魔族を発見した。

急いでロープを()いてやったが、俺が解かなくても動けばすぐに解けるくらい結び目が甘かった。


意識を取り戻した三人に話を聞くと、食料目当てで通りかかった獣人(じゅうじん)から荷物を奪ったそうだ。しかし中身は薬草(やくそう)ばかりで腹の()しにならず、その後仲間を連れて仕返しに来た獣人達にボコボコにされたという。


自業自得(じごうじとく)だ。しかし空腹を(うった)える彼らを放っておけず、しばらくその付近に滞在(たいざい)し支援することになった。


食料調達と引き()えに、どうやって暗黒大陸からここへ来たのか聞き出した。


暗黒大陸で小舟を自作し、それで大海を渡って来たという。自殺行為である。よく無事に辿り着いたものだ。

だが幸運はそこまでで、魔族である彼らが中央大陸でまともに暮らすことはできなかった。


町に(きょ)を構えることなどもちろんできない。俺のように魔法で外見を変えることができないから、買い物すらできない。


この森にいるモンスターは植物系で食用にならない。結果、食い詰めて盗賊行為を働いたがそれすら上手(うま)くいっていない。


暗黒大陸に帰りたいならなんとかして連れて帰ってやると持ちかけた。道中、外の大陸の者達に危害を加えないならという条件付きで。


しかし断られた。

環境の悪い暗黒大陸が嫌で命懸(いのちが)けでここまで来たのだから、死んでも残るというのが彼らの意思だった。


最低限の面倒だけ見て、三人と別れた。


土地勘(とちかん)のない大陸で苦労して王都へ着いたはいいものの、なんと王都の港でも船は出ていなかった。


砂漠の大陸で魔族との戦いが激化(げきか)し、船の数が極端(きょくたん)に減っているという話だった。


次の船がいつになるかわからない。しかも船の料金が高い。通常より高騰(こうとう)していると聞いた。


足止めを食らって目眩(めまい)がした。ただでさえろくに眠っていない。

外見を変える変化魔法は術者が深い眠りに入ると解けてしまう。宿をとっても野宿(のじゅく)を選んでも、安心して寝られない。


人前で正体がばれるよりはモンスターの襲撃にあったほうがマシだ。限界を感じて魔法を解くときは人気(ひとけ)のない森や山中を選んだ。


もちろんそんな状態で十分な休息が取れるはずがなく、暗黒大陸に帰るより先に死にそうな気がした。


こまめに港を訪ね、船が出る予定が無いか確認したが、結果は(かんば)しくない。


なかなか砂漠の大陸に向けた船が出ないのは、オアシスの港は戦いが()り広げてられている地に近く、戦場に近づく者を限定しているからだった。

王都騎士団と、招集(しょうしゅう)に応じた冒険者達が乗った船が出港したのが最後らしい。


これではいつまで()っても暗黒大陸へ戻れないと、さすがに(あせ)った。

生き物が生活するのに最適な環境で十分な食事が()れる状況にいるにもかかわらず、まったく嬉しくない。


集落の住民が心配だった。十分な量の物資は調達しておいたので、しばらくは食べるものに困りはしないだろうが。


正規の船で砂漠の大陸に渡るのは難しい。たまたま発見した海賊の船を利用させてもらうことにした。


補給のために大陸に接岸したところを(たず)ね、砂漠の大陸の近くへ向かって欲しいと頼んだ。


拒否(きょひ)された上に攻撃されたが(なん)なく制圧(せいあつ)し、道中モンスターから護衛することと、十分な金を払うと約束することで交渉は成立した。


(なか)脅迫(きょうはく)に近いことをした自覚はある。(おび)えている船員もいたし、強引(ごういん)な手段をとったことは申し訳ないと思っている。


なにはともあれ、ようやく砂漠の大陸に着いた。砂嵐が吹き(すさ)ぶ砂漠を通過していると、ハーピィの巣穴近くを通りかかった。


そこで、ハーピィに襲われている一人の旅人を発見した。


砂漠で仲間とはぐれて遭難(そうなん)する者は多い。これまでもそういった旅人を何人も助けたことがあったので、特に何も考えず手を貸した。


遠くからでは外套(がいとう)(かぶ)っていたのでわからなかったが、襲われていたのは少年だった。


「あんた、前にも助けてくれたよな」

少年はそう言ったが、俺は通りすがりに助けた相手の顔などいちいち覚えていない。


「森で、ガルグから助けてくれただろ」

その言葉に驚いた。確かに、あの時ガルグに殺されかけていたのもこのくらいの少年だった。


しかも、会っていたのはそれだけではなかった。


村外(むらはず)れの森で怪我(けが)してた魔族って、あんただよな?」


ラグズに殺されかけて転移した中央大陸の森の中。夜で視界も悪く、相手の容姿(ようし)に興味がなかったため、顔など覚えていない。しかし何となく声に聞き覚えはある。

何より、俺が魔族だと知っている。あの時の少年で間違いなかった。


聞けば仲間とはぐれたという話で、どこに向かえばいいのかわからないと言う。

俺の正体を知っている相手と行動を共になどしたくなかったが、子どもを見捨てることもできなかった。


ミライと名乗った少年は、俺が魔族だと知っているくせに無警戒にのこのこついてきた。

馬鹿(ばか)なのか。何を考えているかわからない。


少年はそこそこ戦えるようだったが、砂に足を取られながら危なっかしく歩いている。そのうち転ぶのではないかと思っていたら本当に転んだ。

手を伸ばしたのだが間に合わず、少年は傾斜(けいしゃ)した砂の斜面(しゃめん)(ころ)がり落ち、引き起こした時には全身砂まみれになっていた。


(あき)れて思わずため息が()れた。


仕方なく()らした布で顔を(ぬぐ)ってやり、砂まみれの外套をはたいてやった。また転ばれても困るので、支援魔法もかけた。


無事に仲間の元へ返すことができたが、衝撃の事実が判明(はんめい)した。


ミライは新たに召喚(しょうかん)された勇者だという。


こんな子どもが勇者。魔王を(たお)せるような力を持っているとは思えなかった。

今までの危なっかしい()(まい)いはもしや演技かと考えた。


獣人の女に、勇者ミライに協力しないかと持ちかけられた。俺が魔族だと知らないゆえの言葉だ。当然(ことわ)ってその場を後にした。


俺にとって(さいわ)いだったのは、無くしたペンダントをミライが返してくれたことだった。ヴァイオレットの写真が入った大切な物。今となっては唯一の、生きていた頃の彼女を思い出す為のよすが。


勇者。魔王を斃すため、異世界から召喚される者。基本的に魔族とは敵対関係にある。

なのにあの態度は何なのか。俺が魔族と知っていて平然と(せっ)してくる。


できればもう会いたくない。勇者自身のためにも、(かか)わらないほうがいいだろう。

そう思っていたのに、何の因果(いんが)か四度目の再会を()たす羽目(はめ)になった。


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